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プロのイラストレーターの添削動画がエンターテイメントとして面白かった話。

神絵師になりたい……!

とまでは言いません。それでもそれなりのカタチになった絵が描けたらいいのにと思うことはよくあります。例えば、推しの誕生日に魅力的な推しのイラストを描いてお祝いしたいなぁとか、ライブで体験した素敵な空間をイラストに落とし込んで伝えたいなぁとか。noteにも自分で自分の色を添えることができるようになります。

文章でも気持ちを伝えることができないわけではありませんが、瞬間的にパッと人の心を掴むことに関して言えば、イラストのほうが向いている場合が多いのではないでしょうか。だからこそnoteでもヘッダーに文章の内容がパッとわかるような画像を載せるべしと推奨しているわけです。

最近、約10年ぶりにふとイラストを描いてみたいという衝動に駆られて白い紙を前にペンを握りました。

イラストを描くことに関しては主に物書きとして創作企画に参加させて頂いていた頃に挑戦したことがあります。思うように描くことができず、絵描きとして参加している人の作品との完成度の差に愕然としていたものです。何か違うらしいことはわかるのですが、具体的に何が違うのかはよくわからなかったんですね。もちろんデッサンの正しさや線の美しさも一因でしたが、それだけでは説明できない何かがそこにはあったのです。

ペンを握ってはみたものの、10年のブランクで過去の自分より描く力が衰えていたこともあり、早々に飽きてYoutube巡回に脱線。そのときに出会ったのがイラストレーターのさいとうなおきさんのチャンネルでした。

興味深い動画がいろいろある中で特に気に入っているのが「気まぐれ添削」で、2021年8月26日時点の最新添削動画は以下の71になります。

「気まぐれ添削」とは、その名の通り、さいとうさんが、視聴者から送られてきたイラストをプロのイラストレーター目線で添削する動画です。最初期は生配信や比較的長尺の動画で展開されており、気軽に見るには少しばかり手を伸ばしにくい内容になっていました。おそらく、さいとうさんがYoutubeでの見せ方を試行錯誤されていて、現在は15〜30分でポチっとお手軽に見られる内容に落ち着いています。2倍速なら湯を沸かしてカップラーメンを作っている間に見られます。

さいとうさんのすごいところは「このイラストはボクだったらこうしますね」と白いキャンバスにゼロから自分流で描き始めるわけではなく、元絵を褒めちぎったあとに惜しいポイントを指摘し、作者が表現したかったものに寄り添い、元絵の素材を拡大縮小したり変形したり、元絵と元絵の持つ魅力を最大限に活かしながら進行するところです。添削が終わっても、さいとう色に染まりきってしまうことはほとんどありません。どんな作風にも対応できる……これが……プロの……力……! イラストがどんどんと魅力的に化けていく様はちょっとしたマジックのようで、エンターテイメントと呼んでいいんじゃないでしょうか。見ているだけでも楽しいです。

楽しいに加えて学びもあります。「何が課題で」「一般的に何をしたほうがよくて」「具体的にこのイラストの場合はどうしたらいいのか」を言語化しながら実践してくれるので、私が10年前に悩んでいた「何か違うけど何が違うかわからない」に対して多くの解を得ることができました。絵柄もレベル感もバラバラな70以上の添削実例があるので、探せば自分と同じ課題を抱えているケースが見つかるのではと思います。

これまでイラストは感覚的なものであると思い込んでいました。センスのある人が感覚的にサラサラっと描けば素晴らしい作品が生まれるのだと。素晴らしい作品を感覚的に生み出せない私にはセンスがないのだと。もちろん感覚も大切ですが、それが全てというわけではなく、ある程度は生物物理学に落とし込める理論で説明可能であるという視点は、私に大きな気づきを与えてくれました。どちらかと言えば理論派の私に「もしかして私、もっと魅力的に描けるようになるかも……!」と思わせてくれたのです。

添削動画を何十個か見たことで、部分的にさいとうさんの目線フィルターを通して作品を見ることができるようになりました。具体的には、Twitterのタイムラインに流れてくる素敵なイラストに対して「すてきだなぁ」とイイネを押して終わりではなく、「なんでこのイラストは素敵なんだろう……あっ、さいとうさんがあの添削でやっていたあの効果が生まれているからだ!」という少し踏み込んだ見方ができています。これがなかなか楽しくて、これまで以上に積極的にイラストを眺めるようになりました。このあたりは絵を描かない人であっても世界を広げられるんじゃないでしょうか。

もちろん頭の中で理論を理解したところで、それをペンに宿して紙の上で再現できるのかと言われればそれはまったく別問題。練習あるのみです。それでも何も知らずにただ闇雲に練習を始めてしまう前に、さいとうさんの動画に出会えたことは幸運だったと思います。

さて、運命的に出会ったこの「気まぐれ添削」が絶妙なタイミングで書籍化されたようです。さいとうさんの声のトーンが結構好きなので、動画と書籍のどちらが摂取しやすいかは好みが分かれるかもしれません。項目ごとにまとまっていたほうが知りたいノウハウを探しやすいという書籍のメリットはあるので、目的に応じて使い分けるとよさそうです。

書籍発売おめでとうございます。これからも素敵なイラストと愉快な動画配信を楽しみにしています。

余談
さいとうさん、だいたい声の抑揚と眼鏡と帽子のせいで、リアル脱出ゲームの加藤隆夫さんの面影を感じてしまいます。いつかコラボレーションしてリアル脱出ゲーム作ってくれたりしないかなぁ。さいとうさんの可愛いイラストに仕掛けられた謎が解けたりしないかなぁ。

頂いたサポートは、美味しいものを経て、私の血となり肉となり次の作品となる。