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続ワークショップ

 先週に引き続いて、ワークショップの話を書きます。さて、私のわがままに付き合ってくれたありがたい参加者の顔ぶれは、プロの画家、画廊を運営する人、美術好きの技術者、卒論のテーマをワークショップにする学生、アルバイトをしながら作家活動をしている人、美術学校を出て就職難にあっている人、評論家、担当の学芸員、といった面々でした。
 
 今回のワークショップでは、誰にでもできる作業で展覧会を作ろうと目論みましたが、さて何をしたかというと、まず各自の色を作ってもらいました。ただしこの色は、必ず個人的な経験からくる些細な話を一文書いてから作ってもらいます。例えば「冷蔵庫の奥の容器を開けたら見えた腐った豆腐に生えたぐにゅぐにゅしたものの色」とまず書いて、次にできるだけその色に合うよう塗料を調合するわけです。
 後は順番を決めて一人づつ、作った色でできた絵を壁にかけてゆくつもりで、壁面に直接四角く色を塗っていきます。部屋の壁がそういった絵で一杯になるまでひたすら繰り返し塗り続けます。 

 それと「捨てられないがいらないもの」を各自もってきて作品に使うことにしました。これはさっきの色づくりと逆で、各自の経験からくる些細な話が思い入れと一緒になって物体にべったりくっついています。ここで画廊の仕事をしているKさんと私が、デッサン用の石膏像を持ってきてしまったのにはつい笑ってしまいました。現代美術関係者の中にありがちな屈折を見たようです。でも一番のヒットは、長い間取っておいた自分の抜いた歯を持ってきてくれた技術者のHさんでした。

 そんなこんなで、できあがったものがはたして展覧会になったのかどうかは、皆さんの判断にお任せしようっと。

2022年3月21日改訂 1994年7月15日 讀賣新聞夕刊『潮音風声』掲載

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