HIMALAYA-KAIDAN

きょうも　あのおとこが

夕暮れに

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない！」

窓のすぐ横を通っていく「俺」

わかったわ
みてないもの　　
きいてないもの

「それをしたのは俺じゃないのね。」

またあした　待ってるわ
似合う衣服がないから

一緒にいきましょ
ヒマラヤへ

バンビと一緒に
ひと休み

 息をしている
 わ　今
 他にすること
なにもない
　
わたしいなくても
わからずに
ずっと
あんたそこにいるの
ね　バンビ
　
見えるでしょ

あんたの
ぼやけた情景
は
残酷に
いかがわしい
　　
　
バンビ　倒れて
絆創膏が欲しいのに
バスローブを掛けられて
バタフライに
バンドエイド貼られてた

馬刺しも喰ったわ
バニラアイスが好きなのに
馬鹿みたい

ばれてる

バンドエイドじゃ隠せない

バックしないと

バスに乗せて連れてって　
抜群のところへ　そうね　　
ヒマラヤまでは息をして

きょうも　あのおとこの声で

夕暮れに

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

「それをしたのは俺じゃない。」

窓のすぐ横を通っていく「俺」

わかったわ
みていたもの　
きいていたもの

「それをしたのは俺じゃないのね。」

あしたは　待たない

窓がないから

ヒマラヤには

2003年10月　 ©Chie Matsui　　展覧会『ヒマラヤ』で使用。