胡桃と栗の立ち話
栗が胡桃に問う
私もあなたも、もうすぐ枝からもがれるのね。
そうよ
栗のあなたは、体の周りにたくさんの針をつけているわね。
ええ、だから私は地面におちたところを拾われるの。
あなたによく似た生き物が海にもいるって、カモメが言っていたわ。
あなたの何倍もの長さの、ピカピカの棘を持っているそうよ。
あら、それは初耳ね。私に似た生き物が海にいるなんて。
そもそも、私たち、海を見たことがあるかしら?
私もあなたも、ずっと枝にくっついたまま。空模様を見ては、鳥に食べられやしないかと、ヒヤヒヤしている暮らしだものねえ。
ほんとにあの鳥たちは、どうしてあんなにおしゃべりなのかしら。
そうそう、シジュウカラカラもスズメも、同じ言葉を話せるんですって。
あらま!
それは知らなかったわ。
だいだい、鳥たちがそれほど賢いとも思っていなかったし、驚きね。
そうなの。だから人間も自分たちだけが言葉を話していると思っているでしょう。すっかり鳥たちに騙されているのよ。
「ああ、なんて美しい声で鳴いてくれているの」と勝手に思っているだけで、「すっとこどっこいの親父、今日も芋の根っこ引きで一日中ミミズと話してるさ。私の食べるミミズがいなくなっちゃうじゃないの。チッ!」って言ってるのよ。
まあ!あの可愛いおつむを振りながら、そんなことを話しているなんて。
おまけにそうやって一度鳴くと、四方八方の鳥たちに全部ばれちゃうらしいわよ。あの親父の今日の様子が、みんなに知れ渡ってしまうの。
畑で若い女の子にちょっかいをした日なんて、大騒ぎよ。
私たちのように、こうやって実になってからようやく話をすることができるものとは全く違うのよ。
ま、鳥たちも悪いことばかりじゃないのよ、私たちの花粉を運んでくれるじゃない。それに話もなかなか面白いですもの。
そうね。
とにかく鳥たちは、おしゃべりだから、ほんとによく食べるわ。
ああやって、私たちの枝屋敷をねぐらにしているでしょう。
だから、渡したちの根っこには、いつもとってもいい匂いの糞が溜まるのよ。
あらま、お食事の話をしていると思ったら、お行儀が悪いわよ。
不思議なものね、形のある生命を食べてると、どれも同じようなものになって私たちの深い地下水に溶け込んでいくなんて。
©️松井智惠 2024年 2月14日 筆
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