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帰港
春の光のような明るい青空の午後。
川口ナンバーの4tトラックに乗って、青蓮丸たちと中将姫は和気藹々と東海道を旅してきたようだ。つぐみはいつの間にか人に姿を変えて、「あと15分でそちらさまに着きますですよ」と電話をかけてきた。
「みんなそろっておりますですよ」と、つぐみはトラックから真っ先に降りて到着を告げ、トラックのクルーたちにテキパキと指示をする。いつの間にかつぐみはペンライトに鉛筆、作品リストのバインダーを持って学芸員の作業を黙々と始めた。
青蓮丸たちが旅の途中で怪我をしていないか、車酔いをしていないか。中将姫は起きているのか、つぐみ学芸員は小さなペンライトでそれぞれの顔を注意深く照らし出す。「全員大丈夫のようです」と言って、つぐみ学芸員は書類に自分の名前を書いた。
青蓮丸たちは次の旅に出発したがっているのだが、まだ行き先も決まっていないからと言い、なだめるつぐみ学芸員。「そんなこと言っていたら、つぐみもひばりも他所の国へ言ってしまうよ」と、ポンちゃんは心配そうに手を合わせています。
ほら
だから
みんなに
渡したでしょう
と、胡蝶が中将姫の手に渡した一片の紙ひらに記された文は
「桃源郷通行許可証」がある限り、私たちはまたどこかで会うことができるのですよ。たとえそれが海を超えても、空を超えても、桃の花咲く谷はここなのですから。
つぐみは鳥の姿に戻り、舟のへさきから青い空へ飛び立ち、東のねぐらに向かいました。ひばりも葛城山へと帰ります。
青蓮丸たちは「しばらくここに隠れていよう」と、薄い褐色の箱の中で遊び出しました。カサカサと明け方に音がしたら、それは青蓮丸たちが毎晩、旅に出ては温泉に浮かんだ椿の花びらを集めている音でしょう。
©松井智惠 2023年2月9日筆
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