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アメリカ経営者が愛読する本「LIFE3.0」

【目次】
1.「LIFE3.0」を読むに至ったきっかけについて
2.ライフ3.0とは?
 ①ライフ2.0である人間とは?
 ②ライフ3.0である超知能AIとは?
   1)シンギュラリティと超知能AIと人間の関係
   2)超知能AIは意識を持つのか?
3.宇宙へ
 ①宇宙進出を可能にするのは?
 ②宇宙の存在を認識するのは?
4.人間とは?意識とは?
5.最後に

1.「LIFE3.0」を読むに至ったきっかけについて

本書は以下のような方にお勧めである。

・AIの未来(シンギュラリティなど)に興味のある人
・宇宙に興味がある人
・脳・意識・クオリアに興味のある人
・人間・哲学に興味のある人

とお勧めしておきながら、この本を独力で読み通せる人を尊敬する。世の中の本の中で、難易度が高い分類の本であることは間違いない。

正直、NewsPicksの読書ゼミという、強制的にこの本を読まなくてはならない環境になければ、この本を読み通せる自信は全くなかった。せいぜい流し読みするのが関の山であったに違いいない。
ここで、ちょっと横道に逸れるが、NewsPicks読書ゼミについても簡単に紹介しておきたい。

■「正解なき時代」の思考力を磨く アウトプット読書ゼミ
・全8章を7回に分けZoom越しに議論する方式
(2020年10-11月にかけて実施)
・毎回、AI分野の専門家の方から「問い」が3つ与えられ、
 各自がslackに投稿。
・担当チームメンバーが事前に「問い」と各自の意見を検討し、
 次回の講義でメンバーが討議するべき「問い」を再設定。
・再設定された「問い」を全メンバーを複数グループに分けて
 グループごとに議論。
・議論、読書、アウトプット、問いの立て方、等の講義を受けて、
 また次回の問いが出される、というループ。

そして、この読書ゼミの裏テーマが「問い」をたてる力を向上すること、にあった。世の中の本には、それぞれ「問い」と「答え」がある。それを多くの人に伝えたいから、著者は本を書くのだ。

・「問い」が読者にとって「既知」なのか「未知」なのか?
・そこに共感できる内容か?意外性があるのか?

私の見解を述べると、本書は「問い」も「答え」も未知なものばかりである。だが、本書の内容は意外性に加えて、共感できる内容がふんだんに盛り込まれている。その理由は何か?AIについても、後述するライフ2.0である人間が土台になっているからだ、と考えている。

2.ライフ3.0とは?

 ①ライフ2.0である人間とは?

ここで「LIFE3.0」という本の題名について触れておきたい。
ライフ1.0、2.0、3.0の定義は以下である。

ライフ1.0(生物学的段階/約40億年前から):
            ハードウェアとソフトウェアが進化する。
ライフ2.0(文化的段階/約10万年前から):
            ハードウェアは進化するが、
             ソフトウェアの大部分はデザインされる。
ライフ3.0(技術的段階/21世紀中か22世紀と想定):
            ハードウェアとソフトウェアがデザインされる。

簡単に説明をすると、ライフ1.0とは細菌、ライフ2.0は人間、ライフ3.0は超知能AIのことである。この説明だけを読んだ時に感じた感想は、「細菌と人間の間がもっとあるんじゃないの?」というもの。それを理解するには、ハードウェアとソフトウェアの定義が必要となる。

ザックリ言うと、ハードウェアは身体(物理的基盤)のこと、ソフトウェアとは「感覚から得られた情報を処理してどんな行動をとるかを決定するのに使われる、アルゴリズムと知識全般」のこと。このソフトウェアの説明が難しいのだが、人間に基づいて以下のように整理している。

・人間のライフ1.0的要素:
   人間が遺伝で引き継ぐDNAの容量は約1ギガバイト程度
   (映画一本ダウンロード分程度)
・人間のライフ2.0的要素:
   人間の脳のシナプスは100テラバイト(DNAの10万倍!!)

201125_シナプス

要は、人間が親のDNAから受け継ぐ情報量を成長の過程を通じて、10万倍のレバレッジをかけて活用できる存在なのである。それに対し、細菌はDNAの容量に制限されており、ダーウィンの進化論に基づく成長しかできない。他の地球上の生命についても程度はさておき、人間レベルでレバレッジを掛けられている生命はいない。要は、人間が地球上の生命の中で最もレバレッジをかけられて成長できてきた、という整理である。

 ②ライフ3.0である超知能AIとは?

では、本書の本丸であるライフ3.0の説明に移りたい。以下2つの論点を浅掘りながら紹介したい。

1)シンギュラリティについて
2)超知能AIは意識を持つのか?

  1)シンギュラリティ、超知能AIと人間の関係

201125_シンギュラリティ

AIに関心を持っている方であれば、シンギュラリティという単語について聞いたことがあるに違いない。本書では「知能爆発」と定義されている。ここで人工知能に関連する言葉の定義を確認しておきたい。

【用語集抜粋】
・知能:複雑な目標を達成する力
・人工知能(AI):非生物学的な知能
・狭い知能:チェスを打つとか車を運転するといった、
      狭い領域の目標を達成する能力
・汎用知能:学習を含めほぼあらゆる目標を達成する能力
・人間レベルのAI(AGI):人間と少なくとも同程度に
                              あらゆる認知課題をこなす能力
・超知能:人間のレベルをはるかに超えた汎用知能

現在の人工知能(AI)は、「狭い知能」の領域にとどまっており、シンギュラリティと呼ばれる「人間レベルのAI」が登場するかどうかが大きなテーマとなる。その先に、「超知能」と呼ばれる人間のレベルをはるかに超えた汎用知能が出現するのか?というテーマも存在する。

この本では将来ストーリーとして12パターンが用意されており、読者からの投票を受けるサイトを用意している。関心がある向きはご参照頂きたい。

http://AgeOfAi.org

ここの議論は、将来の話であり、まだ専門家の間でも議論百出の領域である。主な論点として以下6点が挙げられている。

❶超知能AIは出現するか?
❷人間は存在しつづけるか?
❸人間が支配するか?
❹人間は安全か?
❺人間は幸せか?
❻意識は存在するか?

上記6つの問いは、さまざまなSF映画や小説、そして漫画等で取り上げられている内容かと思う。超知能AIが発展して奴隷となった人間が反乱するストーリーや、逆にドラえもんのように友好的な存在となるのかもしれない。今後、AIの発展に従い、より多様な、より一層具体的なストーリーが生まれてくることは間違いない。

2)超知能AIは意識を持つのか?

201125_意識

それでは、超知能AIは「意識」を持つことが出来るのか?

【用語集抜粋】
・意識:主観的経験
・クオリア:主観的経験の個々の実例

この本では結論は示されていない。否定する理由は無い、との言及はある。
ライフ3.0である超知能AIは、ハードウェア(身体)のデザインが可能であるため、理論上無限の生命を維持できる。

一方、「意識」とは身体の物理的基盤から切り離された概念であり、まだ人間についても研究が十分に進んでいない領域である。要は人類はまだ「意識」を人工的に作り出すことは出来ていない。但し、人間レベルのAIが超知能を開発することは可能なのか?ここには無数の可能性があるのだが、この「意識」が本書では非常に重要なテーマとなっている。

3.宇宙へ

 ①宇宙進出を可能にするのは?

ここでとうとう「宇宙」である。ここが本書と他の類似本との差別化となる大きな要因である。

本書の著者は宇宙物理学者である。本書でも、宇宙について、ビッグバン、ブラックホール、ダイソン球、銀河系、地球外生命体などについて、広範に言及されている。

201125_嫦娥5号打ち上げ

宇宙研究の進歩は著しい。昨今のニュース報道を見ても、はやぶさ2の話に始まり、2020年11月に限っても、イーロン・マスク氏のスペースXの新型宇宙船「クルードラゴン」(野口聡一さんが搭乗)が国際宇宙ステーション(ISS)に向けて飛び立ったり、中国の月面探査機 嫦娥5号が打ち上げ成功(月面探査とサンプルリターンが目的)等の話題も多い。多い。但し、宇宙の研究が進んだとしても、その範囲はせいぜい太陽系の中の話が大半である。

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138億年前にビッグバンが起きて以降、宇宙全体は膨張を続けており、銀河同士の距離も遠ざかっている。宇宙の広大さを表す表現を以下2点挙げたい。

1)本書に記載されている内容では、物質粒子の個数で、地球は10の51 
      乗、太陽系で10の57乗、銀河系で10の69乗、宇宙全体では10の78乗と
   太陽系の物質粒子の数は宇宙全体の10の21乗分の1に過ぎない。
2)宇宙のおよそ98%は「見ることはできても触れることは出来ない」

そして、広大さに加えて、移動スピードの問題がある。2018年にNASAが打ち上げたパーカーソーラープローブですら、光速のわずか0.1%のスピードに過ぎない、と本書でも言及がある。

前述したように、ライフ2.0でハードウェアをアップデートできない人間の生命は有限だ。せいぜい100年程度が上限である。この制約のため、人間は宇宙の表層を眺めることは出来ても、実際に現地に行くことは出来ず、超遠隔での研究に留まる。10光年離れた隣の恒星に行くことすら適わない。そのため、身体を冷凍したり、光速に近いスピードで移動することで老化を遅くしたりすることを妄想してきた。

ところが、ライフ3.0という、ハードウェアをデザインできる、理論上無限の生命を維持できる存在になれば、宇宙に行くことが理論上可能となる。本書では、時間短縮の策として、10万光年先の星に身体を用意しておき、知能を光速以上のスピードでアップロードすれば、その星にたどり着くことが出来る、というアイデアも開陳されている。

要は、ライフ3.0が現実のものとなれば、時空を超えて、宇宙に旅立つことが出来る、宇宙を具体的な研究対象とできる時代が到来するのだ!!

 ②宇宙の存在を認識するのは?

宇宙は超巨大ではあるが、宇宙の美しさを感じることが出来なければ、極めて空虚な存在となってしまう。

太陽は50億年後に地球を飲み込むとされている。ライフ2.0である人間は、地球から離れることが出来ない場合、遅くてもその時点では絶滅する。その手前に核戦争なのか、もしくは惑星の衝突などによる気象変動で絶滅するストーリーも知られている。ライフ2.0の存在は有限である可能性が高い。

但し、超知能AIであるライフ3.0が意識を持つことが出来、そして、光速を超えるスピードで移動できる時代が到来し、アップロードできる技術が開発されれば、宇宙の存在を認識し、美しさを認識する存在が残ることが出来る。

ライフ3.0が美しさを認識できれば、宇宙の存在が認識され、宇宙が空虚な存在ではなくなり、存在する意味・意義が維持されるのだ。これが本書で著者が伝えたかったメッセージであろう。

4.人間とは?意識とは?

ここまで、超知能AIや宇宙について書いてきたが、本書を読むことで、最も理解が深まるのは、実は人間についてである。

人間とは何か?というのは根源的な問いである。理解するためには、人間だけを考えていてもわかりづらく、これまではDNAの一番近いチンパンジーと比較することが多かったと思う。これが、今後はAIと比較されることが増えていくことは間違いない。そもそもAI分野で流行しているディープラーニング(深層学習)は脳を模して造られたものだ。

また、前述した超知能AIが宇宙にアップロードされるという話や、宇宙の美しさを認識する、という話は、身体と精神の二元論、プラトンの時代から続く哲学的な問いに連なる話となる。

そして、AIと人間を比較する上で、最も重要な論点が「意識」を持てるかどうかである。計算、画像認識、音声認識、自動運転などが行えるようになっても「狭い知能」の範囲のことに過ぎない。AI自身が意識を持ち、目的を設定できるようにならないと、超知能は出現しないと考えられている。逆に、それくらい複雑なことを人間は脳を通じて行っているのだ。

尚、これまで述べてこなかったが、銀河鉄道999で鉄郎が機械の身体を求めて宇宙を旅したように、人間が身体をアップデートすることも可能となるかもしれない。ライフ3.0に近い存在、例えばライフ2.8に人間がなれる可能性はあるかもしれないし、否定する根拠も今のところない。人間の可能性も無限に残されているのだ。

5.最後に

最後の言葉となるが、本書にはイーロン・マスクが度々登場するし、ビルゲイツが本書を絶賛している。アメリカの、特にテクノロジー系の経営者は本書のAIや宇宙についての知識・知見を持っているため、現在のビジネスにフィットしている、もしくは、創造出来ているという可能性が高いと考えられる。壮大な宇宙の時間軸でAIを語る本を読むアメリカの経営者と、目先の経済の話しか見えていない日本の経営者という対比となっているのではないか。自分自身の反省を自戒を込めて行ったうえで、本noteの締めとしたい。



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