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何もない温かさ

いつも明るかった私が、次に来たときには笑顔がなかった。
普通なら「どうしたの?」と聞いてくるが
マスターも店のお姉さんも、何も聞いてこなかった。
前のような私じゃない日々が続いても
ずっと何も聞かれなかった。

社会人2年目、私は彷徨っていた。
自分でもどうしたらいいのかわからない。
仕事に後ろ向きで、少し逃げていた。
そんな姿を上司も感じていた、というのは後に教えてくれた話。
でもその時は何も言われなかった。

マスターもお姉さんも
私のことを少し気にかけてくれているんだろうなぁとは思っていた。
少し離れて座る私のドリンクを持ってきてくれる時
必ず声をかけて、たわいない話をしてくれた。

上司は
一緒に仕事をする機会が多かったのにも関わらず
何も言ってこなかった。
仕事の始まりや合間に話す会話は
テレビやニュースなど、たわいない話しかしなかった。

「何も聞かない」というのは、興味がないという時もある。
「何も言わない」というのは、見放されたという時もある。
だけど私の場合は違った。
聞きたかったり言いたかったりしたはず。
でもそれをじっとこらえて
何も言わず、ただ見守ってくれた。
その優しさが私にとって、本当に温かかった。

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