綾辻行人『暗黒館の殺人』

 読みました。以下犯人に触れます。

 「外堀を埋める」を辞書で引いたら徳川家康の次に出てくる男、浦登玄児。こちとら鹿谷さんと江南くんで焼かれていたのにこんな男が横から突っ込んでくるとは思わないだろ! 私は推理小説を読んでいたはずなんだが。綾辻先生、本当人を狂わす男が好きですね。

 今回、犯人が「なぜ人を殺すのか」については早い段階で察しがついていた、かつ、どう考えても犯人が江南くんしかいない状態が続いてかなり苦しかったです。じっくり読みたいんだけどこの不安を終わらせたいみたいな。ずっと鹿谷さんに「江南くんを助けてくれ~~~!」と思いながら読んでいました。どうも時代がずれてそうだと気づいてからは安心して読めたんですが、じゃあこのファンタジーみたいな視点はなんなんだと少し戸惑いました。

 子供の取り替えについては想像はしていたんですが、柳士郎の話の中で思い出すことができなくてちょっと悔しいです。普通に驚いてしまった。

 鏡のトリックについては完敗でした。犯人の立っている場所が部屋の奥ってのはおかしいなとは思っていたんですけどね。“浦登玄児”が「鏡の存在を知らない」ことを思い至らなかったこと、玄児さんが“浦登玄児”でないのだからこそ生まれる誤解なんですよね。この点については当事者でない中也くんの方が気づく。話がめちゃくちゃ上手ですよね。健忘症は普通一般常識は忘れないので玄児さんは記憶喪失になる前からきちんと鏡のことは知ってことなんでしょうね。

 過去の舞台が1958年であることについては、6月に噴火した火山を調べてわかりました。同年9月に発生した台風についても検索したら出てきたのでインターネットってやっぱりすごいですね。昔だったら特定できなかったかも。

 舞台が1958年と推測した後、『人形館の殺人』や『時計館の殺人』の際に計算をおろそかにした反省を活かし、この年の中村青司の年齢を計算したら、19歳でびっくりしました。中也くんじゃん!!! これ気づけて嬉しかったです。

 今更中村青司の自殺に意味が乗るとは思わないじゃない。中村青司って「どじすんですね」とか言うちょっと調子乗りなタイプだと思っていたので、意外と普通の青年がお出しされて驚いてしまった。よりによって浦登玄児に見初められてしまうだなんてね。どんな思いで身内と内通した妻を殺して焼身自殺したんだろ。玄児さんのことは思い出したんだろうか。

 江南くんが目を覚ましたら鹿谷さんがいるの、出来すぎてるでしょう。頼むよ。ずっと寝てたのに全部わかった風に話す江南くんに困惑しつつも付いてきてくれる鹿谷さん優しいね。

 玄児さんには是非今度こそ復活してもらって中也くんにひっぱたかれてほしいけど、最後に語られた「家人の医療関係者」はおそらく美鳥の夫か息子かのことなんだろうね。

 文庫本で四冊の長めのお話でしたけど、話も謎もめちゃくちゃ面白かったです。実写ドラマでも見たいけど、実写の浦登玄児をお出しされたら“おわり”になる自信がある

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