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20代の焦りと手紙

私の朝はいつも日めくりカレンダーを消費することから始まる。今日の日めくりカレンダーには人が想像することは必ず人が実現できるとフランスのヴェルヌの名言、それが気に食わなかった私はビリビリと破って捨てた。喉の乾きを感じた私はキッチンにに向かいワイングラスに水道水をたっぷり入れそれをごくごくと飲み干す。溜まった食器を見ながら、もういい加減洗い物をしないとと思いながらワイングラスをシンクの上に置いた。こんなくだらない生活をいつからか私は愛せなくなっていた。散らかるこの部屋も、頭の中も、日々もひとつの焦りが私を狂わせる。”24までに自分のことを決めないとお前の魂は死ぬ”そう書いたテープをトイレに貼った。私はその言葉に怯えてある一つのことに挑戦しているのだが、何も上手くいかない。何かを始めるのに遅すぎることはないとよく言うけれど、その分周りの倍、またはそれ以上の努力が必要だってことを私は忘れていた。自分の不甲斐なさにただ、絶望することしか出来ずすぎていくこの日々がとても嫌で、何も愛せなくなってしまった。好きだったものがどんどんと離れていくのをただ呆然と見つめることしか出来ないそんな日々。そんな自分に大きなため息をついて、玄関に溜まっていた郵便受けから持ってきたチラシや郵便物をあさっていた。その中から私宛の茶封筒を見つけそれを開けながら、ベランダへと向かった。茶封筒を破ると2通の私の仮の名前がが書いてある手紙が入っていた。1通目の手紙は55歳の研究員の人の手紙だった。仏像の話を前の手紙でしたらおすすめは東寺講堂の立体曼茶羅の五智如来と教えてくれた。調べてみると中々渋い仏像で人差し指を右手で覆って隠しており、それは大体真言宗の仏像が多いと昔父が教えてくれたのを思い出して少し懐かしくなった。1通読み終えた私はタバコに火をつけもう1通の手紙の封筒を開けた。次は63歳の猫と一緒に暮らしている人の手紙だった。南極には寒すぎてウイルスがいない話をしたら「復活の日」という南極とウィルスがテーマの日本映画を教えてくれた。そして、手紙の最後にこんなことが書かれてあった。”人生には休養は必要です。その間に今後の自分の必要なことを大まかにでもふるいに分けることが出来ます。ダラダラしているようでも長い人生、無駄にならないこともあったりします。” その手紙を読み終えた私は静かに泣いた。誰かの手紙で泣くなんていつぶりだろうか。私はその文を何度も何度も読み返した。泣きながら春を感じさせる風が私の髪と手紙を揺らしているのに気づいて、上を見上げると今日はとても綺麗な快晴だった。私は怖かった。20代独特の焦り、不安に毎日押しつぶされそうだから怖かった。でも、もっと怖いのはこの焦りに気を取られ大事な何かを忘れていったり、愛せなくなるのが一番だめなんだ。ある程度泣いた私はリビングに戻って日めくりカレンダーの下に転がってる日々を拾い上げた。こんなに経ったんだなぁなんて思いながらゴミ箱に入れ、私は今日部屋の掃除をすることを決めた。色んな感情やもので散らかったこの部屋、1つずつでいいゆっくりでいいからちゃんと向き合おう、そう決めた。
(ヘッダーは24の時の母のメモ)


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