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読書雑感 | 名作小説二作から”なぜその一発を放ったのか“を考える

読書というものは、後々まで印象を残すものと、読後すっかり内容を忘れてしまうものとの大きく二つに分類できるのではないかと思っている。

前者はおそらく読むのに苦労したもの・文字が脳内で鮮明に映像化できるような印象的な場面があるなどの理由が考えられるが、本格的に読書を始めた6年前に通読したもので朧げながら今でも憶えているのが、大岡昇平の「野火」とカミュの「異邦人」である。

「野火」は太平洋戦争中のフィリピンで、国から見放された傷病兵たちの彷徨という戦争の裏側にある悲惨さを書いた素晴らしい文学小説で、「異邦人」は成り行き任せで殺人を犯してしまった男が裁きを受けるまでを克明に綴った小説であり、「きょう、ママンが死んだ」という自分のことを第三者的に見たようなインパクトある書出しである。

もちろんこの二つの作品は、作風も展開もそれぞれ異なるのであるが、両作とも銃で殺人を犯した点において、読者に色々と考えさせる点があると言える。

前者の「野火」は罪なき比島の女性、後者の「異邦人」は友人の仇に、なぜ銃のその一撃を放ったかという点において、少々想像を凝らさないとならない。

ちなみに後者の作品の主人公は、倒れた相手に更に数発発砲しているところからして、表に出ていないその心理を読者によって探ってみないとならない。

私が思うのに、このように解釈を読者に委ねるというのも「文学」を味わう事の一つかもしれない。


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