見出し画像

素材が持つ「味の情報量」

 こんにちは、ひゅごと申します。
 私は時々「ぼくとつキッチン」という屋号で活動し、誰でも一日店長になれる「エデン」というバーや、イベント会場でお客さんに料理を提供しています。
 自分のお店を持っているわけではなく、料理の世界における権威でもなんでもないのですが、ありがたいことにお客さんからはとてもよく褒めていただけます。提供している料理の構成や、発想の仕方について質問を頂くこともあります。それにお答えする中で、「絶対本とか出したほうがいいですよ!」と言っていただいたことも何度かあったので、ひとまずnoteで個人的な考えについて書いてみようと思いました。

 今回のテーマは、素材が持つ「味の情報量」です。

 いきなり「味の情報量」と言われてもピンとこないかもしれないので、例を挙げてみます。
 生のトマトを思い浮かべてください。かじると独特の青臭い香りと、甘味やうま味を含んだ水分が口の中に広がります。次に、トマトに塩をかけてからかじってみましょう。塩気によって甘味やうま味が強調されて感じるかもしれません。
 ここで質問です。「味の情報量」は塩をかける前とかけた後で、どう変化したでしょうか?
 もちろん、塩をかけた後のほうが、塩をかける前と比べて情報量が増えていると言っていいと思います。ここまでは誰でも直感的に想像がしやすいのではないでしょうか。
 本題はここからです。先ほど例に挙げた塩、実は塩ひとつ取っても、その種類によって「味の情報量」には違いがあるのです。

 塩は基本的に海水を煮詰めたりして水分を飛ばし、塩分濃度を高めて作り出すものです。そうして作られた塩には、主成分である塩化ナトリウム以外にも海水由来のミネラルが含まれています。その中には人間がうま味として感じられるミネラルもあります。そういった塩は自然塩や天然塩と呼ばれています。
 一方で、特殊な方法で作られ、塩化ナトリウム以外の成分をほとんど含まない塩もあります。精製塩と呼ばれるものです。自然塩と比べて安く作ったり買ったりできるようで、家庭でもお店でも広く使われています。
 自然塩と精製塩の味わいを比べると、含まれるミネラルの差によって自然塩のほうがより強くうま味を感じられるかと思います。料理に使ってもその差ははっきりと出ます。味の違いを感じられるか自信がない方でも、比べてみれば何かが違うことはきっと感じられると思います。
 このような差を、私は個人的に「味の情報量」という言葉で表現しているわけです。

 もう一つ例を挙げます。うま味調味料について考えてみましょう。うま味調味料はその名の通り、人間がうま味として感じられるグルタミン酸ナトリウムなどを主成分とした調味料です。料理に使うとうま味を補うことができます。
 グルタミン酸ナトリウムは昆布などに含まれるうま味成分でもあります。では、水にうま味調味料を溶いて作っただしと、昆布から取っただしの味わいは同じでしょうか?
 そうではありません。昆布にはグルタミン酸ナトリウム以外にもアスパラギン酸という他のうま味成分も含まれています。うま味成分とは違いますが、昆布の香り、フレーバーなんかもだしのおいしさに貢献しているはずです。私が挙げられないだけで他にもだしのおいしさに関わる要素がいくつもあるでしょう。
 もし、水にうま味調味料のみを溶いて作っただしと、昆布から取っただしで味噌汁を作って飲み比べてみたら、前者は単純で奥行きがない味に感じられると思います。「味の情報量」が前者は少なく、後者は多いと言えます。

 精製塩やうま味調味料が悪い、と言いたいわけではありません(うま味調味料に関しては私も補助的に使うことがあります)。単に、精製塩やうま味調味料は相対的に「味の情報量」がないのです。私の感覚に基づいて言えば、素材の「味の情報量」は基本的に削ぎ落とされていないほうがおいしいです。
 多くのスパイスは事前に粉にしたものを使うよりも、使う直前に粉にしたほうが風味が良いとされています。粉にしてから時間が経つと風味が飛んでしまうのです。これは成分が揮発して「味の情報量」が失われた、という言い方もできます。
 同様に、濃縮還元したジュースよりもそうでないジュースのほうがおいしいとされています。濃縮還元とは、輸送コスト削減などの目的でジュースの水分を飛ばし(濃縮)、輸送してから現地で水分を補う(還元)ことです。濃縮還元する過程で水分以外の成分も一緒に飛んでしまうのでしょう。これも「味の情報量」が失われていると表現できます。
 自然の状態にある素材を加工すればするほど「味の情報量」は削ぎ落とされそうですね。

 まとめてみます。

・同じ食材でも製造工程の違いなどによって「味の情報量」は異なる

・料理のおいしさには様々な要素が関係していて、おいしさに貢献する主な成分さえ足せばそれで良いというようなものではない

・基本的に、「味の情報量」は削ぎ落とされていないほうがおいしい(と、ひゅごは感じる)

 いかがでしょうか。うまくお伝えできていれば幸いです。
 まとめの三つ目に「基本的に〜」という留保がついているのは、臭みやまず味を持った素材もあるからです。もちろん臭みやまず味はなくしたほうがおいしいです。また、上級者のテクニックですが、明確な目的を持った上であえて風味を削る、ということもあるにはあります。なので「基本的に〜」と書いています。

 私はお客さんに料理をお出しする時はいつもこのような考えに従って、原価をかけすぎない範囲でなるべくおいしくなるように作っています。イベント会場には大抵調味料が一式揃っていますが、それでも塩や油は自分で持ち込んだりもします👍
 またイベントに出る時はXのアカウントで告知しますので、興味を持ってくださった方はぜひいらっしゃってください。お話しましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?