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試し読み:『デザインリサーチの演習』 はじめに

2024年4月に刊行する『デザインリサーチの演習』(木浦幹雄 著)より、「はじめに」を紹介します。


はじめに

デザインリサーチに対する注目が高まっている。デジタルなプロダクトや
サービスづくりの現場はもちろんのこと、製造、小売、金融、医療、教育、
行政など様々な領域で、より深いユーザー理解と仮説の構築、そして検証を
繰り返すことの重要性が理解され始めている。複雑化し、急速に進化する現
代社会において、人々のライフスタイルや価値観、ニーズ、要求が多様化し
ている。この状況の中で、意味のあるプロダクトやサービスを生み出すため
には、様々な人々を巻き込みながら、彼らと一緒にものづくりを進めるプロ
セスやマインドセットが必要不可欠である。

2020年に上梓した『デザインリサーチの教科書』(BNN)では、デザイン
リサーチの意義やそのプロセスについて紹介させていただいた。有り難いこ
とに2024年4月時点で第6版まで重ねており、多くの現場でこの本が活用さ
れていることを示している。また、私が発起人のひとりとなって2022年に
始めた、デザインリサーチを主要なテーマとして扱う「リサーチカンファレ
ンス」は、毎年2000人以上の参加者を集める規模のイベントとなっている。
2023年には東京だけでなく、京都、福岡、名古屋でもイベントを開催する
などデザインリサーチに興味を持つ人、あるいは実践する人のコミュニティ
は着実に大きくなっている。

一方で、デザインリサーチをどのように始め、正しく実践し、スキルを向
上させるかについては、多くの疑問や課題が存在する。「デザインリサーチ
をどのように始めればよいのかわからない」「自分たちのやり方が正しいの
かどうかわからない」「デザインリサーチのスキルをもっと高めたい」といっ
た相談を受けることも珍しくない。

デザインリサーチは魔法ではなく、武術のようなものである。実践を通し
て身に付け、磨き上げる必要がある。しかしながら多くの(特に、これまで
デザインリサーチに積極的に取り組んでこなかった)現場においては、初学者がデザインリサーチを実践する機会を掴むのは困難であることが多いだろう。本書は、このような背景を踏まえ、入門者がデザインリサーチに取り組む際に直面する障壁を取り除き、経験者がさらにスキルを磨くためのガイドとなるべく執筆した。『デザインリサーチの教科書』によってデザインリサー
チのプロセスを体系的に学び、本書『デザインリサーチの演習』によってデ
ザインリサーチの実践を重ねることにより、デザインリサーチの価値を最大
限に引き出し、プロダクトやサービスの開発により貢献できることを目指し
ている。

デザインリサーチを通してプロダクトやサービスの創出や改善に貢献する
ためには、デザインリサーチの計画から実査、分析、解くべき問題の設定、
アイデア創出、コンセプト作成までの諸段階において実践的なスキルが求め
られる。本書はこれらの各ステップを具体的なワーク形式で紹介することに
よって、読者自身のプロジェクトに即したリサーチを実施するためのガイド
ラインを提供する。また、本書を参考にしチーム内で小規模にデザインリ
サーチのワークショップを実施してみることにより、プロジェクトメンバー
にリサーチの価値を理解してもらうためにも活用できると考えている。

デザインは単に視覚的、あるいは造形的な魅力を追求する活動ではない。
体験としての美しさを作る行為であり、体験を形作るには人々を知らなけれ
ばならない。

読者一人ひとりによる、デザインリサーチを活用した、より美しい体験作
りへの貢献を期待している。

木浦幹雄


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