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試し読み:『Code as Creative Medium』序文

2022年1月発行書籍『Code as Creative Medium 創造的なプログラミング教育のための実践ガイドブック』(ゴラン・レヴィン、テガ・ブレイン 著/澤村正樹、杉本達應、米田研一 訳、原書はこちら)より、ケイシー・リースさんによる「序文」をご紹介します。

また、本書に示されているURLをまとめたページもありますので是非ご参照ください。貴重な資料集となっています。

https://bnn.co.jp/blogs/support/9784802510127/


序 文

ケイシー・リース
2020年6月

もし、私がコードを学び始めた頃にこの本があったら、世界は大きく違ったことでしょう。私は3年間にわたって努力を重ねました。最初は独学で、その後は夜間クラスに通いました。1997年のことです。当時はビジュアルアートを通じてプログラミングを学ぶ教材は、私の知るかぎりでは存在していませんでした。クラスでは数学や文字列処理のような題材ばかりでした(最終課題は架空の銀行の会計システムを作るというものでした)。授業は難しく、そして退屈なものでしたが、私にはわかっていました。私が作りたいものを作るには、プログラミングの技術が必要なのだと。

クラスを離れ、ビジュアル作品を作れるだけのC言語をおぼえたとき、すべてが変わりました。突然モチベーションが湧き上がり、ものの数週間で、それまでに数ヶ月かけておぼえたこと以上のことを身につけていきました。そして、実験的なコレクション「Reactive 006」に参加したことがジョン・マエダのAesthetics + Computation Group(ACG)への扉を開いてくれました。ACGこそ私が求めていた場所でした。小さな研究グループですが、アーティスト、デザイナー、そしてそれらの領域の融合を探るプログラマーを幅広く束ねていました。そこでの初期の作品のいくつかはProcessing 1.0の作例集に入っています。Processing 1.0は、ベン・フライと私が2001年にリリースしたものです。ACGでの2年間は私の未来に光を灯し、プログラミング教育への道へと導いてくれました。

プログラミング教育に関わるようになってまず最初に気づいたことは、計算機科学の伝統的なやり方で教えても、ビジュアルアートの学生にはほとんど効果がないということでした。そのため、ビジュアルアーティストやデザイナーに向けて教える必要がある私たちは、学生をプログラミングの考え方や作り方に惹き込むため、新しい手法を作り上げたのです。それは、既存の手法をバラバラに分解し、新たに組み立て直すことを意味していました。ジョン・マエダの本『Design By Numbers』から取り組み始め、徐々に「こうすればうまくいくだろう」という感覚を深めていきました。そして毎年毎年、少しずつカリキュラムを進化させていきました。生徒が取り組む学習課題を追加したり、反対に取り除いたり。どうすればコードとアイデアのバランスがとれるかと常に気を配ってきました。その頃のノートを見比べてみると、時間が経つにつれて、もともとの計算機科学のカリキュラムとは大きく異なるものがかたちづくられてきたことがわかります。

2011年に開催された第1回Eyeo Festivalは、この物語の転換点です。アーティストやデザイナー、教育者、そして技術者(テクノロジスト)たちで作られたゆるやかなオンラインネットワークがミネアポリスに集結し、初めてリアルで顔を合わせる機会となりました。2013年に開催された回では初の「Code+Ed」サミットが開かれ、多くの熱心な教育者が集まる場となりました。本書の著者テガ・ブレインとゴラン・レヴィンの2人も参加しました。丸一日かけてクリエイティブコーディングのためのアイデアをシェアし記録する機会です。そこでは何百人もの教育者がお互いに教育手法や教育のための戦略を持ち寄りました。本書は、このコミュニティの叡智を1冊にまとめたものです。私たちの知見が、新しい世代の教育者たちに共有されていくことを目指しています。

偉大なアートワークは人々に記憶されます。しかし、アーティスト教育のためのささやかな技法(メソッド)はそうではありません。私たちのオンラインコースコレクションは脆弱です。毎月のようにいくつかの教材が失われていきます。サーバが変更されたりURLが変更になることで、アクセスできなくなっていくのです。その昔、ヨハネス・イッテンの『Design and Form』はバウハウスの教育法への窓を開きましたが、それと同じようにこの本は重要です。本書には、今まさに転換期にあるアート教育で使われている課題や練習問題が詰まっています。私たちは、アート教育の変化を捉えようとしているのです。

今も昔も多くの人がそうであるように、私も最初はプログラミングを本で学びました。すべてのプログラミングに関する本が何らかの言語をとりあげています。たとえばPython、Java、C++、JavaScriptなどです。しかし、何らかの言語を選ぶことによって、その言語を使わない教育者の関心の対象から外れてしまったり、読者層を狭めてしまったりします。このジレンマを解消するために、テガとゴランは本書『Code as Creative Medium』を特定の言語に依存しないかたちで作りました。この本は、具体的なコードを含まないよう丁寧に工夫されています。この決断により各言語の基礎を説明する必要がなくなり、より抽象的なプログラミングとアートに関する考え方に注力することができました。たとえば色や描画、風景、自画像といったテーマが中心的な軸となり、変数や関数、配列といったテーマは副次的なものになりました。この逆転現象は重要で、そしてわくわくするものです。すぐに時代遅れにならないクリエイティブコーディングの本だなんて、なんと斬新なのでしょう!

どうすれば「クリエイティブ」な人たちを、コードを書くという奇妙な営みに惹き込むことができるでしょうか? どうすれば「プログラマー」を洗練されたビジュアルアートのカリキュラムに惹き込むことができるでしょうか? 『Code as Creative Medium』は、これらの困難な課題に30年のビジュアルアート教育を再編成することで取り組みます。単に生徒を巻き込む方法を提示するだけでなく、指導者自身にとってもチャレンジであり刺激的なものとなるでしょう。私はビジュアルアートの学生を20年にわたって指導してきましたが、本書のページを開くたびにまた新しい何かを知ることができます。ここには、たとえば高校生向けにせよ、新しい講座を作るにせよ、いくつもコースを設計するのに十分な材料があります。この日々進化する領域で、欠かすことのできない素材です。

ありがとう、テガとゴラン。こんなにも示唆深く愛情にあふれた贈り物を私たちのコミュニティに届けてくれて。私は、過去20年でこんなにも遠くまで来れたことに驚きを隠せません。そして、この本をガイドに、さらに遠くへ旅して行けることでしょう。さあ、進みましょう!


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