計画的陳腐化とデザイン。終わりのためにデザインする姿勢 その1
「計画的陳腐化」をいう言葉を聞いたことはありますか?普段生活していると中々聞かない言葉だと思いますが、私たちの消費は「計画的陳腐化」に乗っ取られているかもしれません。
今回はそんな計画的陳腐化とデザインについて説明します。
計画的陳腐化とは何か?
まずは、計画的陳腐化について説明します。
計画的陳腐化とは、製品の寿命を人為的に短縮する仕組みを製造段階で組み込んだり、短期間に新製品を市場に投入することで、旧製品が陳腐化するように計画し、新製品の購買意欲を上げるマーケティング手法のこと。
ウィキペディア(Wikipedia)計画的陳腐化
「まだ使えるけど、新しいの出たし、今使っているのを持っていると古臭い感じがする〜。このままだと周りからダサく思われるかも。」という状況を作り出すことを指します。
もし、一度買うと10年買い換える必要の無いものが5年、1年で買われるとしたら企業に取っては嬉しいことですよね。
1度は経験したことがあると思いますが、「ママチャリが盗まれた」という事象は、もしかしたら再びママチャリが買われる状況を作るために、何者かが意図的に仕組んでいることかもしれません。
話が脱線しましたが、計画的陳腐化の説明に戻ります。
計画的陳腐化は主に3つに分類できます。
1:心理的陳腐化
心理的陳腐化とは、「デザインの陳腐化」と呼ばれ、特に機能面では変わらないものの、デザイン(見た目)を新しくすることで、旧製品を「時代遅れである」と認識させることです。
特に衣服や色の流行がそれにあたり、毎年決められ、意図的に流行らせています。
2:機能面での陳腐化
機能面での陳腐化とは、旧製品にはない、新しい性能を付け加えた製品を販売し、旧製品を「時代遅れである」と認識させることです。新しい機能を加えたことにより、既存や新規ユーザーに使いたいと思わせることも可能になります。世の中の大体の製品開発がこれに分類されます。
3:材料面での陳腐化
材料面での陳腐化とは、故意に製品寿命が短くなるように設計したり、質の悪い材料を使い、新製品に替えざるを得ない状況を作り出すことをいいます。
これがあまりに度が過ぎると訴訟されるリスクを負うことになります。アップルはそれで、約540億円の和解金を支払ったみたいです。
旧機種のiPhoneの動作速度を意図的に遅くしていたことを認めた米アップルに対し、国内で集団訴訟が起こされた。
これだけ聞くと計画的陳腐化とは、「悪い」という印象を持つかもしれませんが、何も悪いということではありません。消費が進まなければGDPは増えませんし、経済成長の指標をGDPにしている限り、「消費させる」はやむを得ないと思います。さらに、積極的な消費により、中古事業やリユース市場が活発になりました。
また、計画的陳腐化を使い始めた人の志は素晴らしいと思います。
(この志が今の消費活動に反映されているかは疑問が残りますが)
計画的陳腐化は1932年不動産ブローカーのバーナード・ロンドンが最初に使用しました。彼は当時大恐慌だったアメリカを、国民の消費により救い出そうと考えたのが始まりです。
引用:名前のないデザイン 世界の日常と社会を動かす思いがけないデザインの話
売れる状況を作り出すために①:自動車メーカー
Wikipediaの計画的陳腐化の説明ページに以下のような記載があります。
1920年代に生まれたビジネスモデルで、フォードが単一モデルを大量生産するビジネスモデルだったのに対し、GMの礎を築いたアルフレッド・スローンは、部品メーカーなど裾野産業を巻き込んで年1回モデルチェンジを行う形態を示したが、これが当時のアメリカ国民の生活の多様化と合致。モデルチェンジに割賦販売、中古車の下取りなどを組み合わせたビジネスモデルを構築し、現在まで続いた。この手法は、多くの業種に採用され、短期間のモデルチェンジには、技術革新を速やかに製品に反映させるメリットもあった。
20年代のアメリカで自動車といえばT型フォードを指しており、ヘンリー・フォードが自動車の需要を見抜き、乾燥が速い黒色の塗料を使い、低価格で大量に生産し市場を寡占していました。(一番重要視していたのは生産速度です)
「もし顧客に、望むものを聞いていたら、”もっと速い馬が欲しい”と答えていただろう。」という話は有名ですね。
このようにT型フォードが市場を寡占していた状況の中、GMのアルフレッド・スローンは、不活発になった市場に、1年に1モデル新車を発表していきました。その結果、モデルチェンジという認識を作り上げ、心理的陳腐化(計画的陳腐化)を行っています。このモデルチェンジという考えは自動車業界のみならず様々な業界に浸透していきました。
それだけでなく、アルフレッド・スローンは事業部制の導入など様々な功績を残しています。
詳しく知りたい人は下記の資料をおすすめします。
2008年ドラッカー学会年報vol.2 文明とマネジメント
http://drucker-ws.org/wp/wp-content/themes/drucker_workshop2012/projects/pdf/annualreport_vol02.pdf
また、それぞれこのような言葉を残しています。
「顧客のためを思って、永遠とは言わないまでも可能な限り長く使ってもらえる製品を私たちが作らないのならば、私たちメーカーは客へのサービスなど思いつけるはずがない。(中略)
買ってもらった車が乗りつぶされたり、時代遅れになったりするのは私たちにとって嬉しいことではない。私たちが望むのは弊社の車を買ってくれた人が買い替えを強いられる事態など絶対に生じないことだ。
前のモデルを用済みにしてしまう改良など私たちはしない。」
ヘンリー・フォード,1922年
出典:名前のないデザイン 世界の日常と社会を動かす思いがけないデザインの話
「われわれのなすべき仕事は用済みになるまでの時間を短縮することだ。1934年に5年だった自動車の平均的な保有期間は今や2年になった。
これを1年にしたら、わが社に100点満点をやろう」
ハーレー・アール,GM社デザイン部部長,1955年
出典:名前のないデザイン 世界の日常と社会を動かす思いがけないデザインの話
背景として、GMの旧モデルと新しいモデルとの比較による欲望の喚起(モデルチェンジ)は、1920年代に実行され、1930年代には定式化され、1950年代に広く知れ渡るようになりました。
このように企業は、私たち消費者の欲望を喚起しあの手この手で消費を促してきます。
これだけで比べると私は、フォード社の企業姿勢の方が好きですが、みなさんはどちらの企業姿勢が好みですか?
欲しいから買う、ということは間違えではありませんが、企業姿勢を見ることも重要だと思います。私たち消費者にできることは企業を知り、残って欲しい企業の商品や株を買い意思を示すことです。
売れる状況を作り出すために②:白熱電球メーカー
計画的陳腐化でもう一つ代表的なポイボス・カルテルという事例があります。ポイボス・カルテルとは、白熱電球の生産と販売を支配するために結ばれた国際的な企業協約のことです。これにより、白熱電球の寿命が故意に減少され、1,000時間を越えないよう各メーカーは機能を制限し、本当に超えていないかスイスで定期的に試験を行なっていました。
当時1500時間〜2500時間あった電球の寿命が約半分になっています。
さらに、「白熱電球は1000時間程度の寿命が最も効率的で、熱を発すれば発するほど明るくなくなり電力が無駄になるトレードオフの関係がある」という嘘の情報を流していました。
なぜそのようなことをしていたかというと、「電球を早いサイクルで買い換えるようにしたら、その分、利益が増える」というメリットに各メーカーが賛同したからです。これは、計画的陳腐化の材料面での陳腐化に当てはまります。
オレにこのペンを売ってみろ
映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の中で、レオナルド・ディカプリオが「オレにこのペンを売ってみろ」と言うシーンがありますが、計画的陳腐化と行なっていることは同じです。
映画の中でレオナルド・ディカプリオは「このナプキンに名前を書いてくれないか?」と言い、ペンが必要な状況を作りだしました。
計画的陳腐化は消費者に、その商品が欲しくなる、または必要になる状況を作り出しています。
売りたい商品が必要になる状況・欲しくなる状況を作るのが計画的陳腐化の目的です。購買施策として「売れる状況を作る」という考えはとても大事ですが、人としての倫理は必要です。
「過剰な企業の利益>ユーザーの利益」のように企業利益の追求ばかりしていてはユーザーの心が離れていってしまいます。
利益は企業存続の条件であって目的ではない
これはピーター・ドラッカーの有名な言葉です。
企業の目的は「顧客を創造すること」であり、利益のために会社があるのではなく、社会的な役割を果たすために会社がある。しかし利益を出さなければ企業活動を継続できない=企業や事業の目的・役割を果たせないので、利益は必要だと言っています。
利益は、企業が顧客(社会)に目的・役割を果たし続けるために必要な「条件」であり、社会的に意味のあることかどうかの「尺度」となります。
計画的陳腐化は、ドラッガーの企業目的である「顧客を創造すること」=「市場を作ること」に適しています。そのため、計画的陳腐化を行うこと自体は悪いことであると私は思いません。
しかし、目的が利益追求になってしまった場合は、話は別です。そうならないように、計画的に行いましょう。
サービスや製品の終わりをデザインする
それでは、私たちデザイナーはこの消費社会で、利益追求のみにならないように一体何ができるでしょう?市場においてデザイナーは欲望を煽り、消費を駆り立てる側です。会社で必要とされるデザイナーは、欲望を駆り立て、物を売り、数字に貢献する、大体そのようなことを要求されると思います。
一つできることとしては、終わりをデザインすることだと思います。ある出来事の終わりは、違うある出来事の始まりになります。つまり、終わりをデザインするとは、次のステップへ送り届けることになります。消費や利用を正しく終わらせるのもデザイナーの役割だと思います。
サービスなら解約時のデザイン、プロダクトなら利用終了時のデザイン、組織なら退職時のデザインなどにあたります。UXデザインの観点からみると、利用後つまりエピソード的UXになります。
考え方としては、「解約阻止ではなく、解約を心地良い体験に変えて再利用への期待を残す」に近いと思います。
出典:UX白書(日本語訳版)
そもそも利用終了とは、ネガティブな要素のみではありません。特にBtoBサービスはそうかもしれませんが、「顧客のある課題」を解決するためにサービスが存在していると思います。その利用を終了したと言うことは、顧客の課題を解決した結果、ともいえます。つまり当初の事業目的であった、「顧客のある課題」を解決したことになります。さらに、困っている顧客もいないということになりWin-Winの関係です。
目的が利益追求のみにならないようにするのは、まずは利用終了=ネガティブという認識を変えていく必要があります。
途中ですが、長くなるので続きは後日書きたいと思います。終わりのデザインの実例を上げながら説明できたらといいなと思っています。それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。