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嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(5)

嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(4)の続きです


クリエイティブフィールドを分かち合うサブソースとエンプロイ―

嘉村 そんな感じで、思い切ってリスクを取って勇気を持って踏み出していくと、クリエイティブフィードが立ち上がるわけです。自分が絵を描くとか、食事をつくるっていうことだったら、自分ひとりでいいんですけど、やっぱり、みんなの応援や、みんなの力がないとできないビッグアイデアとかもありますよね。

そのときにオーガナイジングしていくわけですよ。仲間とともに実現するっていうところで、自分のクリエイティブフィールドのなかの一部分を任せるっていうことをやっていきます。

その際の任せ方に、サブソースとエンプロイ―っていう二つがあります。サブソースは、「目的が共鳴してそうだから、この部分はもうほぼソース役として、もう口出さないから、境界線越えたときに限ってはたまに言うけど、基本的にはあなたがこの部分に関してソース役ぐらい自由に振舞ってやってください」っていう分かち合い方。エンプロイ―は、きちっとこれをやってもらってお金払いますという任せ方です。

小山 なるほど。ここはティールっぽいわけですよね。

嘉村 そうですね。共鳴して動いてたら、もう口出しもしないし、却下もしない。

小山 「1人からはじめ」て、そういう組織ができてきたら、逆方向の組織理論から始めたときのティールと一致したっていうことですね。トンネルを掘り進めてたら、ここで出会ったっていう。

嘉村 まさにそうです。

小山 ティールの場合はあんまりエンプロイ―のことについては強調してなかったでしょうか。そのあたり、私の記憶も曖昧で……。

嘉村 そうですね、お金の関係で、指示命令をちゃんとしてフィードバックして駄目だったら駄目っていうような、いわゆる管理マネジメントみたいこと、エンプロイ―は、ソース原理上ではあるんですけど、ティール組織ではあんまりそういうことは触れてなかったですね。

小山 組織ではやっぱり両方必要だっていう?

嘉村 ソース原理の場合はそういうふうに考えていますし、ティール組織の場合も実際あると思います。いろんなパターンがある。一〇社あれば一〇通り、違う組織、毛色のなかの共通項としてここを引っ張ってこなかったって話で、実際は、多少はエンプロイ―的な存在がいるとは思いますけどね、ティール組織の事例でも。

小山 あと、ティール組織との関連でいうと、ティール組織を実現していたんだけどソース役だった人が去った後に、その組織が崩壊するっていうことが、(本のなかで)一パラグラフくらいしか書いてなかったんですが、ソース役の人がいなくなって崩壊した例でご存知のことがあれば教えてください。

嘉村 ピーターとフレデリックは仲がいいんですが、ふたりが話し合ってるときに、フレデリックがティール組織を書いたプロセスで、ソース役しか取材してこなかった、要はリーダーを取材して書いたので、リーダーがソース役という特別な振る舞いをしてたっていうところが盲点になってあまり記述されてなかったんです、本を書いた時点では。ソース役の特別な役割について書かれてなかったので「フラットな組織」とか「みんな対等」っていうところだけが注目されて、本を出したあとは世界中混乱したというか、勘違いでフラット組織みたいなのがいっぱい出てきたわけですよ。それで、ことごとくうまくいかない、と。そういうなかでフレデリックもその過ちというか、ちょっと抜けていることがあると気づいて、ソース原理と出会ったので、その後ビデオシリーズっていう発信ではソース役を見ましょうと言っています。やっぱりうまくいってないところっていうのは、ソース役が次のソース役にバトンタッチできずに、取締役会が力を持ってしまって、元に戻してしまったり。うまく継承していかないと、ディール組織も継続されない。

小山 だから崩壊プロセスにもすごく興味があるんです。ソース役がいなくなったあと、フラットな組織がどんなふうにかたちを失っていくのか。そういう意味では、人が命を失っていくプロセスにも似てるんだろうなっていう気がします。

よく、企業は経営者の器以上に大きくならないみたいな言い方もされますけれども、まさにクリエイティブフィールドっていうのは経営者の器みたいなもので、ただ、器っていうと、なんとなくわかったようなわからないようなことなんだけども、このソース原理の本のなかでは、まさにこの器、クリエイティブフィールドがこんなふうに働いて、そのなかでサブソースが機能してみたいなことを記述されています。そういう意味では「経営者の器」を別の観点から解説したものなのかなって。

嘉村 まさにそうですね。さらにちょっと補足すると、分かち合ったときに、このサブソース役がちゃんと自分の人生とつながって本領発揮して、試行錯誤するので、ソース役の想定外のいろんなことを起こしていくわけですよ。それが境界線を越えてたら、「ごめんね、境界線越えてるから、内側でやってください」とかって話もあれば、場合によっては「あ、その観点あったね」っていうような感じで、その観点に境界線を広げても、自分の辻褄が合っている場合は、当初の物語は広がっていってる可能性がある。それがオレンジと違うところですね。ちゃんとサブソース役が活躍することによって器が大きくなっていくっていうプロセスもある。ここもおもしろいところだなと思いますね。

神話のはじまりの物語に共鳴できるか

嘉村 ここでこの「分かち合い」をもう少し補足します。ここが真骨頂なところです。どうやってサブソース候補を見つけて、サブソース役を担っていってもらうのかっていうところです。基本的にはいままでの採用プロセスのように、リクルーティングして配属してとかじゃなくて、まるでジャズセッションのように、ちょっと演奏してみて、肌感あうねとかっていうプロセスこそが、クリエイティブなことを人と一緒にすることですよね。

採用自体がいま、オレンジにはまりすぎていますが、そういうジャズセッションのように仲間を広げていくっていうのがクリエイティブフィールドのあり方ですよっていっています。

じゃあ、そのなかでどんなことが起こってるか。サブソース候補が現れたときに、まず大事なことは、巻き込むイニシアチブの内容は置いておいて、その候補者はどんな人生ソースに導かれて、どんなふうに歩んでるのか、まず聞こうというのがいちばんはじめですね。

そのうえで、創業者である立ち上げた人(グローバルソース)が、こんな物語でやろうとしてるんだよっていうことを語るなかで、候補者が共鳴するのかどうかを図っていくんです。さっきのパーパス経営的な話なんですけども、このときに抽象的に留めないんです。これおもしろいですよ。

図9「ビジョンを分かちあい、分担していく」

嘉村 たとえば、「『どんな子どもも飢えるべきではない』という答えは力強く意義深いものだが、ソースが自分をさらけ出すような表現ではない。『子どもたちが苦しんでいる記事を読むと個人的に心が痛くなるため、行動せずにはいられない』といった全体ソースの個人的な欲求が表に出てくるまで聞き続けよう。」

小山 「聞き続けよう」って軽い感じに聞こえますが、これは大変なことですね。

嘉村 パーパス系ブームの、みんなの集合知でこんなふうに掲げましたっていう、抽象的なもので採用するなってことですよ。

小山 手触り感あるというか、

嘉村 もっと奥の奥の、「なぜ始めたんですか」「なぜアイデアに留まらなかったんですか」という、神話のはじまりの物語をちゃんと聞きましょうということですね。そのうえで、自分の人生ソースと、いま入ろうとしているグローバルソースのビジョンが共鳴するんだったら入ればいいし、共鳴しないなら入らなくていいっていうことを本人が決める。すると、ようやくサブソースになっていきますということですね。

そうすると、自分の人生とそのグローバルソースの物語が共鳴しているので、ある領域を任されたら、もう寝ても覚めてもそのことを考えてるわけですよ。自分の人生に一歩つながると思ってるから。だから、グローバルソースが指示命令なんてしなくても、毎朝のように「次これやって、あれやってみようかな」って、もう前のめりで考えていくことになる。

ただ、そうすると次の問題が発生します。境界線をはみ出ちゃう。自分の衝動に従って動いてるから。そうなったときに、いままでの組織のパラダイムだったら、「辞めてくれ」となりますよね。うちのやりたいこととは違うから却下、とか。ヒエラルキーですよね。グローバルソースの人生のほうが重要で、サブソースの考えはどうでもいいのかって話、ヒエラルキーの世界に戻るわけですけども、そんなことはしないわけですよ。あなたの衝動はしゃあないことだ、と。それを否定する権利はないけども、残念ながら境界線は越えてしまってる、と。

グローバルソースは、「ある程度のところは、自分の盲点とか見えてない世界があるかもしれないから広げるつもりで聞いてるんだけども、やっぱり違うと思うんだ。あなたが別のところでこの部分のイニシアチブを立ち上げるのもありかもしれないし、あなたがいまから合わせてこっちに内側に残るってのもあるかもしれないし。私に操作する権限はないから、あなたが選んでくれたらいいよ」という関わりをします。ただ、境界線を越えてるからどうしようかっていうような話し合いをしていくということです。


小山 オンラインのチャットでコメントもいただいていますが、二つ問題があるんですね。ひとつはいまいる会社のグローバルソースにまったく共感しませんという問題。グローバルソースも曖昧だったりするのは、ほとんどの企業であることだと思うんですよ。だれがソースなんだって、まず明示されてないし、明示されてたとしてもそこに共感しない問題。

それからもうひとつは、この「はみ出たとき」。出る杭は打たれるっていうことで、完全に「お前そんなことやってる場合じゃない」と否定されてしまう。こういうときにどうしたらいいんだ、というコメントをいただいています。この時代のこの日本にいて、ティール組織がまだ十分広まってないなかでの、サバイバル術。どうすればいいんですかね。

嘉村 いやこれはもう、究極、自分の人生を本当に大事にするんだったら、覚悟を決めて、転職するなり、立ち上げるなり、独立するなりとかっていうようなことを考えざるを得ないと思います。

というのも、その組織のなかにもしソース役がいないとするならば、もうジリ貧になる運命は見えていますから。

でも、もしかして、いまみなさんが属している組織が、生き生きとしていて、お客さんに喜ばれていて、タフネスじゃないかたちで売り上げも上がっていてとか、あるいは組織内のいくつかの事業はみんながすごく誇りに思えるようなことをやってるっていうことがあったら、そこには部分的にソース役がいるはずなんですね。

そういう部署に異動できるように働きかけるとか、そもそもそういう感じで組織内の、ちょっとソースっぽいイニシアチブを見つけていくっていうのもひとつかもしれないし、それを育んでいくようにすれば、組織にいながらも、こういう世界観のなかで働けるかなとは思いますけどね。

小山 そういういい会社、業績的にも伸びてる会社を選ぶことができればいいんですけどね。そうでもない場面も多いし。

こういう可能性はないですかね。サブソースの活躍によって、グローバルソースが影響を受けて変わっていく。個人的にはやっぱりそこに可能性があるなと思ってるんですよ。たとえば昔はすごいイノベーション、イノベーティブな製品で成長したけれど、ところがいま、安定期に入って、その精神を忘れてしまっている。創業者の思いが、全体では共有されてない。でも、先代の社長の思いっていうのを自分はよく理解しているし、共感している。その自分なりのサブソースとしてのあり方で全体を変えていくっていう物語はよくよく起こっている話だと思うんですよね。

嘉村 それは、その……、なんていうかな、その人のソースは立ち現れようとしてイニシアチブが立ち上がろうとしてるので、それでちゃんと仲間を集めていって動いていくことはできますよね。

ただ、いまいる組織のトップが、当初の物語につながってなかったときには……、不幸な目に遭う可能性はなくはないっていうところはあるかもしれないですね。

小山 やっぱりそこはもう条件としては必須なんですかね。

嘉村 そういう組織のなかでも、やっぱり当初のクリエイティブフィールドの影響を受けている人がいるはずで、その人もふつふつとしてるはずなので、場合によっては、復活する可能性はありますよね。ソースの継承が断ち切れたとしてもね。

小山 社長はいまいちなんだけども、取締役のなかで何人か、わかっている。キーマンがいるみたいなパターンはよくありますよね。

嘉村 継承がどれだけ途切れちゃってるのか。途切れちゃって、秀才ばっかりがいたりすると、組織のDNAよりも、社会のなかのポジショニングとかそういう話が支配しちゃって、ちょっと難しいですけど。でも絶対残ってるはずですけどね。

小山 そうですよね。うん。でね、次の社長に期待しているとまた違う人が出てきたり。そういうの得意な人、秀才タイプがまた次を継いでしまって、なんていう物語もありますけれども。

それこそ先がどうなるかわからないけども自分なりに自分のソースを感じて、パフォーマンスを発揮して、組織のなかでも、まさに行動せずにはいられない。この観点で自分が行動できれば、逆境であっても、追い風であっても、自分の人生に対して納得はできる。まずそこに立ち返るっていうのがひとつ重要なんでしょうね。

個人が主役の時代

嘉村 まさに次のところですね。「だれかのソースに対して従属するのが私たちではない」ということです。

小山 フォローするのも従属であり、反発して「ここじゃやれないよ」っていうのも実は従属の裏返しってことですね。

嘉村 たしかにそうかもしれないですね。たぶん、ソース原理を突き詰めていくと、ひとつは、一人ひとりが複数のイニシアティブに属するってことあるんです。これは会社内でなくてもそうですよ、夫婦関係もそうですし、趣味もそうだし、さっき言ったご飯をつくるとかもそう。大なり小なりみんなたくさんプロジェクトを持ってるはずなんです。あるところではソース役だし、あるところではエンプロイ―だし、あるところではサブソースというように、みんな持っているんですよ。

同時にグローバルソースの人も、大きなクリエイトフィールドの一部を、サブソースに任せたときに、そのサブソース役のさらにヘルパーになってもいいわけなんですね。そういう入れ子構造みたいなことも、縦横無尽に起こってきます。

時期的な話もあります。まだ、社会で経験不足で自分の内省があんまりできてなくて、情熱ポイントもわかんないしっていうときに、まずはどこかのヘルパーから始めてみようっていうところからやっていっても全然いいんですけど、彼らが主張してるのは、そういうふうに選んでる自分もちゃんと自分につながりながら選んでいってるという事実。だから、私はソースなんかじゃないっていうことじゃなく、ソースですよ、そもそも。それがまだ発揮できてない可能性はあるけども、みんなソースなんだから、慌てる必要もないし、ちょっとずつ自分のなかで情熱ポイントを増やしていきながらやっていけばいいんですよ。

小山 これは、本当にオーガナイジングという動詞系がよくわかる図ですよね。[図10]

図10「ソース原理はリーダーのためだけの考え方ではない。」

嘉村 そうですね。

小山 ティール組織はオーガナイゼーションとして静的な、スタティックに描かれた。それが動的に動いてるということですね。

嘉村 ハマってたパラダイム、フルタイム雇用的な組織時代だったのが、いまは副業、兼業増えてきています。もっと流動的に加速していくなかで、いろんなプロジェクト組織のポートフォリオを持っていくっていう時代にどんどんなっていくはずですから。要は、組織が主役の時代じゃなくて、個人が主役でいくつかの組織をかけもちしながら人生をちゃんと流していくというか。パラダイムが変わってきてるんですけど、組織にこだわったっていうのが、もしかしたらフレデリックの特徴かもしれない。

小山 今回のテーマであるイノベーションということで言うと、イノベーションの組織自体は大企業のなかでも、既存事業のオレンジ型の組織から離れて、比較的フレキシブルな、そこだけ部分的にこのティール的なオーガナイジングの状態になっている部分でもあるので、そこに自分がソースとして自覚を持って入っていくことによってイノベーションも起こしやすくなっていくだろうといえそうですね。

嘉村 そうですよね。オープンイノベーションもそうですし、流動系が増していったら組織外とのコミュニケーションも増えたりとか。いろんなところに属している人が増えれば増えるほど知恵も知識も集まっていくので、前半に言った、なにかひとつの方向性を持ったオレンジ組織のなかでは、その方向性のなかで新しいアイデアやイノベーション出せって言われても……っていうところが、だいぶ越えやすい時代になってきてる感じがしますよね。

小山 これはもう本当にテクニカルな話なんですけど、社内でなかなか共感する人がいないと行き詰まりもあるわけですよね。やっぱりシリコンバレーがいいのは社外の人とのパーティーとか、交流する機会がいっぱいあって、人材の流動性もそうだし、情報交換もかなり活発に行われる。ベンチャーキャピタルもそれを推奨して起業家同士のつながりなんかをつくっているということで言うと、会社のなかで悶々としてる人がいたら、社外に出ていくことを示唆しているって考えていいかもしれません。

嘉村 ビジネス組織とかプロジェクトだけじゃなくて勉強会とかも含めて、それ自体もひとつのクリエイティブフィールドだと思うので、それをいくつか持っているのはすごくいいですよね。

小山 会社内でなかなか自分のやりたい事業が通らなくて悶々としてる人が、どう突破していくかですよね。

よくあるんですよ。会社内で新規事業を提案しても通らない。だからもう、社外で、コンテストに出て受賞して、会社としてはもう認めざるを得ない状況をつくってようやく、みたいな……

嘉村 逆輸入モデル。そもそも日本では多いですよね。海外で流行ったものとかもね。

小山 社外のコンテストに出して、一位を取ったとか、外圧で社内を説得せざるを得ないみたいなとこあるんですけど。逆に言うと、そういうことでもいいわけですね。

嘉村 そうですね。ヒエラルキーの構造って、事前の説明責任とか、設計書の段階でしか承認得られないので。昔のソニーとかホンダとかもそうですけども、本当に大事なものは上司に黙ってつくれ、みたいな、生み出してしまったあとの反響とかでもっていくっていうのは個人ができる王道の作法ですよね。

とことんワクワクするオプションBを持て

小山 いま、コメントでもそういう議論になってるんですけど、「出る杭は打たれる。真っ正直に、俺のやりたいことは会社とずれてるって言っちゃうとそれは叩かれる。上司からお前はちょっとやりすぎだみたいなことを言われてしまう」。個人的には会社辞めるつもりだったらそれぐらいのこと言ってもいいんじゃないかって思うんですけど。その迫力が出れば、ですが。

ただ、処世術としてはそれを真正面に言うよりも、テクニカルにもうちょっとうまく社内で自分のソースを発揮し、また会社のグローバルソースにインパクトを与えていくようなやり方もあるだろうなというふうに思うんですけど、どう思われますか。

嘉村 フレデリックは「オプションBは持っておいたほうがいい」ってよく言ってます。サラリーマンって、やっぱりぶら下がらざるを得ないというか、構造上貫きとおすのがむずかしいなかで、でも、オプションBがないと勝負に出られない。究極、できなかったら転職しようとか、異動しようとか、できなかった場合のオプションBをつくっておく、と。ただ、そのオプションBも、とことんわくわくするレベルでつくっておいたほうがいいと。

究極、メインのAが、オジャンになってもこっちがあるもんねっていうふうにわくわくすることができれば、次になにが起こるかっていうと、Aでチャレンジできる。Bがちょっとしたオプションだったら勇気が出ないんですよ。意外に覚悟を決めてやったら通ることもあったりするんですけど、あまりにもサラリーマンってオプションBがなさすぎて、最後の最後は臆病になってしまって、ちょっとしか(勇気を)出さない。結局それで情熱が伝わらないとかいろいろ言われて、オジャンになる。そこの、どうやったら勇気を持って、行動に起こせるかっていう環境づくりを自分にしてあげるかっていうところはあるでしょう。

小山 そうですね。たしかに、(社内で事業案が)通りやすい人って典型的に、「僕はもうこの会社辞めてももいいと思ってるんで」とかって言ってる人が採用されることはけっこう多いわけですよ。「通らなかったら社外でやります」とか、「もうここを諦めて転職します」っていうオプションBがあって、いやもうなんならいま、オプションB選んでもいいぐらいの覚悟はある。そうなると、思い切って、挑戦できるってことですね。

嘉村 それもやっぱり心からやりたいか、ですね。

小山 「心からやりたいこと」……ちょっとまた話は前に戻っちゃうんですけど、どうやって心からやりたいことを見つけるのか。多分、聞いてる人も、ちょっとわかったようなわからないようなところがあるかなという感じがします。

嘉村 そうですよね。うーん……。やっぱり、自分の日々の行動が、お金の対価としての仕事とか、上司を説得する答え探しっていう外的なものに対する探索活動なのか。自分の人生のなかで一割でも二割でも、本当に好きなものはなんなのか探求したり、問いをつくり続けないと、なかなか……

小山 でもね、ちょっとぼやっとしますよね、やっぱり一対一で喋らないと、そこはちょっと、探求できないですかね……。個人的には、子ども時代に熱中したこととかにはヒントがありそうです。

嘉村 明らかにありますね。全体性を取り戻すっていうソース原理の冒頭のところって、いろんなワークしていくと、だいたい、子どもの頃を思い出すんですよ。さっきのお金があったら安心だっていうのは、成長するときに生まれてしまったものですね。

小山 そうですね。

嘉村 ワークをしてお金があってもなくても安心だっていうことが取り戻せた瞬間って、砂場で夢中になって遊んでたような感覚がパッと立ち上げするわけです。

あのとき、本当に没頭していたこと。大人にになってしまうと、夕方六時から大きな砂の城はつくろうと思わないじゃないですか。もうすぐご飯だよって呼ばれるし、とかあとさき考えてしまう。そんなこと関係なく、つくり始めちゃうあの無謀さみたいな感覚が取り戻せたときに、「あぁ、これやってみたい」って思う。そういう意味で、マネーワークみたいなものも効果的ではあるとは思いますね。

小山 なるほど。お金が、人生のなかですごく大きな影響を与えてくるし、そことのつき合い方を整理するっていうのが、ソース原理が生まれてきたきっかけのひとつでもあるんですよね。

嘉村 ピーターも、だれでも取り戻せると思ってます。

こういう、全体性に戻る手法は、世界中でいろいろ開発されてるんですよ。シャドウと向き合うとか、エゴと向き合うみたいのあるんですけど、なぜお金を使うかっていうと、安心だからです。「あなた、恐れがありますよね」とか言われると、なにか自分をさらけ出すような恐怖があるんですけど、お金から入ると意外に早いっていうのがピーターの気づきで、一見、遠いようだけどお金がいちばん安心して全体性を取り戻せるってのが彼の発想ですね。

小山 明らかに、お金とのつきあい方に、自分のなかの恐れだったり、いろんなものが反映されてそうです。

嘉村 入り口としてけっこういいんじゃない? って感じです。

(6)に続く


嘉村賢州 
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
令三社取締役
「ティール組織(英治出版)」解説者
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。2022年10月に英治出版より『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』を翻訳出版。

小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。


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