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野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(2)

野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(1)の続きです


短く書くのはむずかしい

野上 さて、ここでクイズです。読むのが簡単なのはどちらで、書くのが簡単なのはどちらでしょうか[図3]。

[図3]

小山 短いほうが読みやすいですね。

野上 Bの方が読みやすい。はい。
では、小山さん、書くのが簡単なのはどちらですか。

小山 短い方が書きやすいような……。本、読んだので……、一応騙されたふりしたほうがいいですかね(笑)

野上 読むのが簡単なのはもちろん短い文章ですよね。一方で、実は書くのが簡単なのは長い文章という、これは実はけっこう大事な話なんです。なんとなく、短い文章のほうが書くのも簡単みたいな誤解を、僕も以前してたとこあるんですけれども、ダラダラダラダラ書くのはだれだってできるんですよ。

要点をつかんでポンと書くっていうことのほうがむずかしくて、そことの戦いなんですね。しかも、読むのが簡単なのは、短い文章です。短い文章にこれからチャレンジしていきましょう。

良い文章の定義って実はけっこうむずかしくて、いま会場にいらっしゃる方にとっての良い文章も、たぶんそれぞれ違うと思います。一方でストレスのかかる文章ってどんなのですかって聞くと、山のように同じ答えが返ってきます。それをビジュアル化したのがこれです[図4]。

[図4]

野上 くどいとか、長いとか、冗長とか、そんな感じですね。これは、ビジネスパーソン一六〇人に実名でアンケートをとって、そこで得た回答をデータに放り込んだ結果です。文字が大きいのはそれだけ回答数が多いということです。つまらない、長すぎる、むずかしい、入り組んでいるみたいなキーワードが抽出されました。当たり前なんですけれども、改めて、簡潔な文章を、読み手の立場に立って書きましょうということです。

半分にする

野上 しばらく理論先行なので、そろそろ退屈してきたかと思います。ここから実践編に入っていきます。

小山 野上さん、そういうの気にされますね。 聞き手の立場に立って喋られてるってことですね。

野上 冗長じゃないように気をつけてます。

野上 さて、みなさんに事前にお寄せいただいた事前課題。全部目を通させていただきました。今回、ご紹介するものはすべて、このセッションの前に事前に提出いただいたもので、私が作文したものではありません。

小山 全部で一五件、送っていただきました。みなさん、ありがとうございます。

野上 この場で、適時お返しをさせていただきますけど、決してその人のことを恨んでるとか、懲らしめてやろうということではなくて、ひとつのフィードバックの機会であるというふうにポジティブに捉えていただければと思います。

小山 そうですね。他の人にとってもリアルなケースですからね。

野上 理論としては簡潔な文章を読み手の立場に立って書きましょうということです。自己PRの文章(仕事の内容でも、部署の紹介でも)を書いてくださいというお題に対して書いていただいたのがこれです[図5]。

[図5]

野上 「私は企業内でビジネスデザインという聞き慣れない職種に従事しております。仕事内容は大きくみっつ」と、みっつ挙げて、「今日はいちばんなじみがないソートリーダーシップ活動についてお話したいと思います」と書かれています。

小山 これは、面と向かって喋ることを想定されているようですね。

野上 はい。内容的にはひとつ、ふたつ、みっつと分けられて、読みやすい類ではあると思いますけども、ぱっと見たときにみなさんがどういう印象を抱くか。ちょっと長いので、半分ずつ添削してみました。前半部分がこれです[図6]。

[図6]

野上 ざっくり言うと、文量的に半分になる、ということです。「企業内でビジネスデザインの仕事をしています。業務内容は新規事業の定量定性調査、評価、新規事業のメンタリング。ソートリーダーシップのみっつつです」と。

小山 そうですね。

野上 後半部分も「ソートリーダーシップとは将来を先取りしたビジネスアイディアの兆しをいち早く見つけ、社内議論を広げ、主導していく役目です。なじみが薄いかもしれませんが、求められるのは構想力、いつも苦労してます」と。これもこのように書きかえてみました[図7]。内容、伝わりますよね。

[図6]

野上 細かいテクニックがどうというより、お伝えしたいのは、一文一文を短くする。圧縮するっていうか、簡潔に書くっていうことが、いかに(読む側の)ストレスを減らすのか、感じていただけるんじゃないかなと。

限られた時間のなかで効果的に話を伝えるには、読み手の立場に立って、簡潔に伝える。この大切さを伝えるために、半分にするという作業をやってみました。

小山 テクニカルな話をすると、パラグラフがみっつに分かれて、構成がみっつになってますよね。それぞれのパラグラフで言いたいことがシンプルにあるというか、「まずみっつあるんですよ」と「ソートリーダーシップの説明ですよ」、最後に「少しなじみが薄い」という自分の感想を言うっていう、構成もシンプルになってわかりやすいなと感じました。

野上 そうですね。細かい文章力のテクニックって、全部お伝えするのはなかなかむずかしいんですけども、ひとつ、いま小山さんにピックアップしていただいたことに補足すると、事実と評価を分けるということです。

事実と評価を分ける

野上 「なじみが薄いんじゃないか」とか、「苦労してます」みたいなところが評価です。相手は知ってるかもしれないし、知らないかもしれない。

それに対して、この方がしている仕事、業務の内容はファクト。なので、ファクトを提示する部分と、評価を入れる部分を分ける。さらに細かいテクニックで、それを二対一にするっていうのは、実はメディアでよく使うテクニックなんです。ふたつ事実を言って、ひとつ評価を加えるということです。

小山 そのほうが聞いてる側もちょっと安心するんでしょうね。あまり感想をたくさん言われるよりも、事実がしっかりあったうえで、感想が添えられてるくらいのほうが。

野上 余白があるということですね。元の文章も非常にいい文章なんですけれども、事実と評価がないまぜというか、一緒になって展開されているのでこれを少し切り分けるだけでも、だいぶ読みやすくなるんじゃないかと思います。

ふたつめ、いきましょう。医療系の営業職の方です。

「私は挑戦する最後まで諦めないということを意識して日々仕事をしております。現職で◯◯のデモンストレーションを行ったことありました」とあって「知識不足であり、多々困難がありましたが、オペの見学や、新しい社員のインタビューなど、成功させることができました」と。

小山 さっそく、感想と事実を分けたくなりますね。こうやって添削しようとすると、うまくなった気になりますね。

野上 何回かやってるとみなさんもすぐできますよ。

これも同じく、半分にできます。「医療系で営業職を務めてきた私のモットーは『挑戦』と『諦めない』です。全国で導入例の少ない◯◯の実演デモでは、先生を前に勇気がいりました。オペ見学や社員インタビューなどで知識不足を埋めます」埋めました、でもいいんですけどね。「結果は成功、新たな挑戦や困難にも、諦めずにやり遂げる姿勢を続けます」と[図7]。

[図7]

小山 「結果は成功。」というあたりが新聞記事っぽいですね。

野上 ちょっとムキになって半分にしました(笑)。

小山 リズムもあっていいですね。

野上 みなさんも文章書かれたときに、半分にしてみるっていうのが、荒療治なんですけれども、おすすめです。

さらにここから半分にもできるんです、やろうと思えば。おそらくみなさんが日頃書かれている文章は、半分にできると思います。A4一枚あるとしたら、紙を半分に破って、これだけしかないとスペースを区切る。そうすると、結論ファーストで端的に簡潔に、どんどんどんどん言いたいことが絞れます。

スクロールさせるな

小山 いまは、タイパが求められるじゃないですか。タイムパフォーマンス。たとえばTwitterは、いまは字数制限外れましたけど、当初は一四〇文字だった。短い文字数で伝えることの重要性って、昔よりもよっぽど高まっているんでしょうね。半分にするっていうのは重要だなと思いました。

野上 Slackも、Teamsもやたら長い文章を貼り付けて、人のタイムラインを奪っていく人がいるじゃないですか。いらいらしますよね。添付ファイルに落とし込んで、言いたいこと、要点をぱっと入れるほうがいいと思います。アメリカかぶれするわけじゃないですけども欧米のメールに関しての助言というのは、集約するとたったひとつなんです。
「スクロールさせるな」
英語で書かれたビジネスライティングの書籍を三〇冊か四〇冊ぐらい読んだんですけども、メールに関してのコミュニケーションでフラストレーションを溜めない方法はこれに尽きます。ビジネスチャットでも同じことが言えます。相手の状況、わかんないですよね。スマホで見てるかもしれないし、モニターで見てるかもしれない。だから基本的にはスクロールさせない。短く簡潔に伝えて、たくさん言いたいことがあるなら添付する。メールにおいてもビジネスチャットにおいても、重要じゃないかなと思っています。

……ここまで大丈夫ですかね。

小山 大丈夫ですよ! すでにいろんなテクニックを学んだ感があります。

野上 できるんなら苦労しないわってことなんですが、いったん「とにかく半分にしてみましょう」っていうことと、「読み手の立場に立つと短いほうが断然いいですよね」ってことさえ理解いただければ十分です。

(3)に続く


野上英文
JobPicks編集長/ジャーナリスト

2003年から朝日新聞社で大阪社会部、経済部、国際報道部、ハーバード大学客員研究員、ジャカルタ支局長など20年近く記者・編集者を務めた。40歳を機にマサチューセッツ工科大(MIT)経営大学院に私費留学してMBA修了。2023年からNewsPicks for Businessに参画し、同4月にJobPicks編集長就任。NewsPicks+d統括編集者も兼務してメディアの事業戦略と成長を担う。NewsPicksトピックで連載コラムの執筆、News Connectパーソナリティなどを務めるほか、ビジネス文章術やZ世代の働き方などで講演多数。大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の調査報道で新聞協会賞受賞。著書に『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)、共著に『ルポ タックスヘイブン』『ルポ 橋下徹』『プロメテウスの罠4』『証拠改竄』ほか。

『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)


小山龍介

一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。

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