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志高き人財を吸引する“部門横断型バーチャル組織”。 FORTH とBMC とVPC が メンバーの主体性をぐんぐん引き出す。

シミック株式会社
経営管理本部DX 推進部・シミックグループ横断共創組織
Team Sprint/Shirohige440 共同代表 齋藤 敦 様
企画推進本部/ Team Sprint  工藤 広静 様
DX 推進/ Team Sprint  森田 唯 様
統計解析部/ Team Sprint  吉本 一雄 様
臨床QC 部/ Team Sprint  村木 佑子 様
未来開発部/ Team Sprint  藤岡 由希 様
取材日:2021 年3 月17 日
聞き手:三宅 泰世
文:下良 果林

「新しいビジネスを創造したい」「市場イノベーションを実現したい」そう考えていても、部署を見渡すと、つまらなさそうに指示された業務を淡々とこなす社員ばかり……。
そのような組織は多いのではないでしょうか。

シミック株式会社では、有志による部門横断組織「Team Sprint」によって、ビジネスモデル・キャンバス(以下BMC)やバリュー・プロポジション・キャンバス(以下VPC)、FORTH イノベーションメソッド(以下FORTH)などのワークショップが展開されています。他部署の社員との交流、オープンイノベーションを通して「会社がおもしろくなってきた」「仕事にやりがいが持てるようになった」というメンバーが続出。新規プロジェクトに大抜擢された人もいるそうです。

シミックグループ横断共創組織「Team Sprint」のメンバーに、組織や自身に起きた変容について話を伺いました。


業務内容を教えてください

シミックグループは、医療品開発業務受託機関( Contract Research Organization /以下CRO)のパイオニアで、ヘルスケアインフラ提供企業群です。薬の開発をおこなう場合、日本では従来、製薬メーカーが自社で工場を持って人員を抱え、データの収集や解析、開発をしていくという垂直統合方式をとっていました。一方、欧米では1980 年代後期からのバイオベンチャーの興隆と並行して、自社ですべてを抱え込むのではなく、パートナーとの協業を進めながら自社が特化すべき分野での価値を最大化するための外注化から、CRO 事業が急成長してきました。現在では、医薬品製造受託を通してシミック社内に蓄積されたノウハウを基に製薬企業へのコンサルティング、さらには医療からヘルスケア領域に向かって、どのような新規事業を創出するかを考えるフェーズに差しかかっています。

つまり、今までどおりのやり方ではない「新しい」事業や仕組みを立ち上げるためには、分断していたグループ内のサイロを壊し、「社内でもっとシナジーをつくらなければならない」という課題を抱えている有志が点在していたのです。そういった志高き人財を発掘し繋げる目的で立ち上がったのが、部門横断型バーチャル組織「 Team Sprint」です。現在、7,000名25 社の中から30 名ほどの手挙げメンバーが参画しています。コロナ禍となり活動の主軸をオンラインベースにしたところ、共感し協力してくれる社員がこのところ急速に増えてきており、広がりを感じています。

本日のメンバーも、日々のオペレーションをどうデジタル化するかに取り組んでいる者や、「RPA 伝道師」として社内の業務効率化に取り組んでいる者、事業企画を考えている者、治験後や市販後のデータを解析している者、品質管理に携わっている者、新プロジェクトを任されている者などさまざまです。

シミックが当時理念として掲げていたコアバリュー「 W&3C 」=「Change(チェンジ)」「Challenge(チャレンジ)」「Communication(コミュニケーション)」そしてそれらを包括する「 Wellbeing(ウェルビーイング:健康・幸福度)」への共感が、イノベーションを起こしたいという思いの原点です。 Team Sprintには、「新しいこと、楽しいことがしたい」「健康データを使ったイノベーションを起こしたい」という人や、「一日に何時間も会社にいるのだから、職場をより楽しいものに変えていきたい」という人が集まっています。

BMC や VPC 、FORTH 導入の経緯

もっと時代の流れにあわせていろいろな思考の武器を使いこなせるようになりたい」と思ったのがきっかけです。当時、業界全体を見渡すと上り調子ではあったものの、シミックの売り上げ単価は下がりどんどん薄利多売になっていました。競合が増え、われわれの模倣をする企業も増えていたのです。

とはいえ、何か新しいことを始めるにしても、それまでは手探り。思いつきでやっているようなレベルの勉強会を続けてきました。「もっと体系立ててしっかり進めていくにはどうしたらいいか」「部門横断型組織としてメンバーの熱量を高めていくにはどうしたらいいのか」と悩んでいたときに、BMIA の存在を知りました。「BMIA がその使い方を伝えているBMC やVPC などを活用する場が、シミックにはたくさんあるな」と気づけたのは、今となってはよかったと思います。

VPC(バリュー・プロポジション・キャンバス):BMCのVP(価値提案)とCS(顧客セグメント)の2つのブロックについて深堀りしていくときのツール


導入にあたって苦労した点

「Team Sprint の活動にかまけて本来の業務をおろそかにしているのではないか」と言われましたし、BMC についてプレゼンをした際に一部の社員からネガティブな意見を言われたこともあります。しかし、われわれがターゲットとしているのは「社内外を繋ごうとしている志高い、もしくは社外に向けて熱量高く発信している人たち」。そういう人たちに向けて、共にイノベーションを起こす仲間になってほしいという思いを込め、BMC をはじめとする学びと実践の場を継続的に提供するようにしています。

BMIA を通して社外の仲間ができたのはよかったです。彼らと話すうちに、自分たちのやってきたことを肯定できるようになりました。「自分たちは異端ではない」「社外にはもっと突き抜けた人がいる」と思えたのです。

導入後の変化

FORTH のプロセスのなかで重要視されていますが、想定顧客を具体的にイメージできるのがすばらしいですね。今までは年代や性別でざっくりと想定していましたが、「何歳で、何をしている、こういうバックグランドをもっている人」と細かく設定しないと次のステップに進めないというFORTH のプロセスは、新しい事業を生み出すためには欠かせないということを実感しています。

FORTHイノベーション・メソッド 5つのプロセス(FORTHマップ)

FORTH のプロセスではなくともBMC・VPC 共によく使いますが、アイデアを可視化できる点がメリットです。それまでは会話の空中戦といいますか、「互いに意見を発散しあって終わり」でした。BMC なら、9 つのブロックを埋めながら言葉に落とし込んだり顧客を絞り込むのに便利です。この「9 つのブロックを使う」を習慣化することで、物事をとても構造的に把握できるようになったのは大きな変化です。すべての現象をBMC やVPC のフォーマットにあてはめていくと頭の混乱がなくなり、さまざまなことを連続的なメカニズムとして理解できるのです。

社内の共通言語づくりに役立っているのも魅力です。新入社員が各部署の部会に参加すると、「上司の言っていることがわからない」ということがあります。しかし、 Team Sprint のなかでは、他部署の人間の集まりにもかかわらず「何を言っているのか理解できない」ということはありません。最初から世界標準のツールが共通言語となっており視野、視座が同じだからです。

BMC を使ってパーソナル・キャンバスを作成することもあります。自身の価値に向き合い、自分の得意分野をはっきり提示し、提供できる価値を定義づけられました。自己肯定感が高まるいい経験だったと思います。サービスを受ける立場に回ったとき「自分は何を得たくてこのサービスを受けているんだろう」と考えるようにもなりました。

BMC(ビジネスモデル・キャンバス)

組織としての成果

Team Sprint の活動のなかで、インターンシップサポートとして学生にBMC を書いてもらうワークショップを開催したところ、「ビジネスってこんな風に構造的に考えればいいんだ」という声を多数いただきました。採用チームにも「これは他社との差別化になる」「学生の満足度を高められる」という手ごたえを感じてもらっています。昨年から2 年連続実施したことで、社内のイノベーティブな組織に与えられるアワードに、この取り組みを応募できるほど自信がついたとのこと。シミックに共感してくれる人が新卒採用にエントリーしてくれる可能性が高まっていると確信しています。

Team Sprint そのものの成果としては、ひとつ目として、早い段階でオンライン化に取り組んできたことが実を結んでいることが挙げられます。現在、新型コロナウイルスの影響により、入社式や集団研修が開催できない状況です。新人研修のオンライン化をはじめ、われわれが先行してやってきたことが今、複数の現場で役に立っています。

ふたつ目としては、入社4 年目の若手社員が、新規プロジェクトの PMO (プロジェクトマネジメントオフィス)チームに抜擢されたこと。
「新型コロナウイルスのワクチン接種に動いている自治体のサポート」という、誰もやったことがない事業です。彼女はもともと「指示通りの仕事をこなし、定時で帰宅できればいい」というタイプでした。それが今や、 Team Sprintの活動を通して、誰もやったことのないイノベーションを起こすことに前向きです。 Sprintのワークショップを通してさまざまな人と出会い、新しいことをインプットすることによって、その人自身が変容していく。すごいことだと思います。

Team Sprint に興味を持ってくれる社員も増えています。われわれの活動を通して、それまでの「与えられた仕事をこなすだけでは見えてこなかった仕事に対する価値観」や「シミックで働く意義」などが、BMC を通じて見出せるようになったのではないでしょうか。

当社には、「一度しかない人生を、年齢や性別、人種に関わらず、誰もがその人らしくまっとうしていくために、ヘルスケア分野に革新をもたらすことを、シミックグループの志とする。」という理念があります。
これを「CMIC'S CREED」と呼んでいますが、今までは CREEDという言葉だけが独り歩きし、どう行動に移せばいいのかわからなかった人がほとんどでした。今は、 BMC やFORTH という“ 道” ができたので、ゴールに向かっていけるという気がしています。

今後の展望

シミックは、まだ「通常業務ではないこと」に対する承認・評価の仕組みを整えているとは言えません。われわれ Team Sprint のメンバーが楽しく仕事できればいいというのではなく、「やりたいことがあるのにやれない社員」をどうするか、どう巻き込めるかをもっと考えていきたいです。さまざまな社員が声をあげられるように働きかけていければいいなと思っています。

また先ほど CMIC'S CREED の話をしましたが、この志に向かって実直に進んでいける組織になれば、若い人たちに「うちの会社おもしろいから、一緒に仕事しようよ」と胸を張って誘えるようになるのではないかと思います。そういう組織にしていきたいですね。

BMIAへの要望

個性的な会員さんが大勢いらっしゃいますね。その方々のことをもっと知ることができたら、ビジネス上のコラボレーションが生み出しやすいかもしれません。ヘルスケア分野でシミックがサポートしたり、逆に斬新なアイデアをいただけたり……という協業ができたら最高ですね。その人にとっては当たり前のことでも、われわれシミックの人間から見たら新鮮に思えることがたくさんあると思います。BMIA 会員さんがふだんどんなお仕事をしていて、どんなイノベーションを起こしているのか知る機会があればいいですね。

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