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嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(4)

嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(3)の続きです


ソース原理は事例に基づいた真理

嘉村 まさに、アイデアはどう実現するかっていうところです。ピーターもフレデリックも、徹底的に事例ベースなんですよ。ピーターも何千人の人をコーチング、コンサルティングしていくうえで、実現するアイデアと実現しないアイデアには、この真理が働いていると発見した。ソース原理がソース「理論」っていう名前じゃない理由もここにあります。理論というのは結局、仮説なので人によって見方が違うんですけど、ピーターは、これは普遍的に働いている、と。

図3「ティール組織とソース原理を同時に探求するパワフルさ」

嘉村 ピーターは、謙虚なので、反証があればどんどん持ってきてくれと言ってるんです。反論は、私の仮説をどんどん広げてくれるものだからどんどん反論してくださいっていう感じで。たとえば「三人でやったイニシアチブあるんです」ってふうに持ってきても、ピーターがどんどん質問していくと、やっぱり「1人」じゃん、ってなってるっていうことがあって。事例に基づいた真理であるってところもおもしろいところだと思います。

ソース原理を学んだらなにがやれるかっていうところを、いったん確認しておきたいなと思います。先ほどの話です。実現するビジョンと経営ビジョン、なにが違うのかっていうことが見えてきますし、もしうまくいってないとしたら介入のヒントが、どんどん得られるようになります。

創造者特有の創造性、スティーブ・ジョブスとかイーロン・マスク、宮崎駿みたいな人を思い出していただければと思いますが、一緒に働いてる人は大変そうですよね。なんか疲弊してそうな匂いがします。でもソース原理をきちっと学ぶと、決してトップダウンでなくても、人を疲弊させなくても、実現できるやり方が見えてくるんです。

組織のなかの有害な文化、いろいろな緊張関係を解決する緒が見つかります。こういう理論系ってどうしてもリーダーとか経営者向けのものが多いんですけども、ソース原理を学ぶと、働いてる一人ひとりの創造性を飛躍的に引き出すことができるっていうのもすごく魅力的です。

同時に、グリーンの罠である、カルチャーを大事にしようとか多様性重視だけど、でもなんか小粒感があるとか、話し合ってばかりでイノベーションが生まれないっていう場合も、ソース原理を学ぶと、インパクトを生むような活動に変えることができる。

また、ソース役が次のソース役にパスするっていうところも語られています。どういうふうにすれば事業継承がうまくいくのかっていうところも、いろんな事例とともに探求されているのがおもしろいところかなと思います。

全員がソースを自覚したら、大きな変革が起こる

嘉村 本を読んでいただいたら、だいたいこんなことが書かれたかなと思うんですが。[図4]

図4「ソース原理を学んで得られるもの」

小山 このなかでいうと、「今日、いま見ていらっしゃるメンバー全員がソースになる」っていうことがなんかきれいごとに聞こえるけれども、そうじゃない。このことが多くの人に理解されるとすごいことが起こるんですよね。

嘉村 そうなんですよ。

小山 それは組織がティール型だとか、なんとか型っていうのを越えて、そこからオーガナイジングが始まって、すごい出来事が起こるはずなんですけども、いかんせん、みんながソースであるということを自覚してない。それは数年前の自分がそうだったように。

嘉村 まさに。教育もそうですよね。ソースとつながるような教育はひとつもないですからね。

小山 私は教育に携わっているので、ない、とは言いづらいところあるんですけれども(苦笑)。なんでしょうね……。だからこのソースであるということに徹底的に向き合えないのは、そういう問題意識がそもそもないってことですかね。

嘉村 うーん。世の中もヒエラルキーで、いわゆる創造力を発揮する一部の人に偏ってきた歴史があるからかもしれないですけどね。おもしろいですよね。大きな変革を生む可能性を秘めてるアイデアでもあるかなとは思いますけれども。

小山 あとおもしろいのは、本のなかでも紹介されている、お金に関する話。お金も、求めているけれども、でもどっかで拒絶したりしてしまう。これは、本当は自分なりのソースを発揮する場所なんだけども、逆にそこを避けちゃうということに似てますよね。気持ち的な反発というところが自己探求、自分への問いになる。

嘉村 そうですね。自己探求とか自分への問いが、いかに組織づくりに重要なのかっていうところも入ってきますので、のちほど楽しみにしていただければなと。

小山 端的に言うと、今日は見ている人が全員がソースであるってことが、腑に落ちるというか、それができるということを目的にしたいということなんですね。

嘉村 はい。そんなことを得られるソース原理に関してちょっと見ていきますよ。

ソースとはアイデアを実現するための最初のリスクを取る、たった「1人」

嘉村 たった「1人」の存在、これがすごく大事です。プロジェクトにしろ、パーティーにしろ、ビジネスにしろ、人間のあらゆる活動は、たった「1人」の創業者、ソース役から始まります。

ソースとは、アイデアを実現するために最初のリスクを取る人のことを指します。アイデアは、みなさん持ってますよね。これやったらいいかなとか、居酒屋で話しててもいっぱい出てきますね。それを一歩踏み出して、実現化することをイニシアチブ化するっていうんですけど、この専門用語も覚えておいてください。

どのようなイニシアチブも創作はたった「1人」です。二人以上の人間がまったく同じアイデアに同じ瞬間にイニシアチブを取ることはできません。絶対、先にだれか「1人」がいます。

僕も、これを聞いたとき、違和感あったんですよ。だって居酒屋でみんなで話し合ってたら、みんなで思いつくことあるもん、と。温泉旅行行こうよってことかもしれないし、なにかイベントしようよとか。

でも彼らは言うんですね。そのところを定点観測のスローモーションのVTRで見たときに何が起こってるか。アイデアで盛り上がってるときに「じゃあ、いつ次のミーティングする? 」とか、あるいはやろうぜって言ったときに手を差し伸べる人と、それを受け取る人がいる。差し伸べる人は行動に移してるわけですよね。その行動に移してる人こそがソース役だと。

小山 握手をするときに、どっちが先に出したかみたいなね。それを思い出すと、たしかにあのとき、自分が相手を引き込むように握手をしたんだということを思い返して、あ、自分がソースだ、みたいな。

そのレベルで、ソースか、それを支える人なのかに分けていくんですけれども、そういう意味で本当にちっちゃなところで、実は一人ひとり、イニシアチブをとっていると。あ、イニシアチブって二つ意味がありますね。そのアイデアを自分なりに引き受けてやっていこうとすると。そのレベルまで落ちていくと、日常生活でいろんなところで自分がソースになってることってあるんですよね。

嘉村 そうです、そうです。大きなもんじゃなくていいんですよ。お腹すいたからスーパーに行って、野菜調達して、料理をつくるっていうのもイニシアチブですからね。

小山 息子がサッカーやってるんですけど、最近、野球やりたいって言いだしたんです。僕自身は、子どものころサッカーはやってなかったんですが、ソフトボールをやっていたので、野球は教えられるだろうと思ったら、俄然、火がついてですね、最近はバッティングがうまくなる特殊なバットとか、いろんなデバイスが売ってるわけですよ。これでトレーニングしたら打てるんじゃないかとか研究を始めてAmazonで買って、道具がやたら増えて、平日でもちょっと暇があると公園行って練習したり。サッカーのときはまったくやってなかったですね。ふと気づくと、「あ、これ、自分がソースになってる」って自覚したんですよね。

嘉村 つながってると、寝ても覚めても次を考えちゃうんですね。それはだれに言われるわけでもなく、次これしようかな、これしようかなって、なっていくというのがソースの状態です。

小山 そうですよね。本当に、大きなことじゃない。ちっちゃなことでも、日々、実は起こってる。

嘉村 本当にそうだと思います。ソース原理は本当にでかいものじゃないっていうところが重要ポイントのひとつです。

わからなさのなかにいるソース役

嘉村 そんなソース役なんですけども、どんなことやってるか簡単に言うと、ビジョンに関する多くのアイデアを受け取り、明確にし、その実現に向けた次のステップを明確にすることが仕事であると。これおもしろいところは次のステップっていうところです。全体像って書いてないんです。[図5]

図5「ソース原理の概要①たった1人の存在」

小山 そうですね。たしかに。

嘉村 ここがけっこう重要で、プロジェクトとか組織でいろんな人を支援すると、現場サイドからこう言われるんですよ。「あのリーダー、あとからあとからひっくり返すんだ」と。「もっと早めに全体像を示してくれたら、後戻りしないですむし、無駄な動きもしなくて済んだのに」「もっと早く示してくれればいいのに」っていう文句がよく出てくるんですけど、ソース原理の観点からいうと、仕方ないことなんです。

ソース役は、直感では、これが世の中に出れば絶対うまくいくとか、絶対喜ばれるっていう確信、直感はあるんですけども、全体像に関してはわからなさのなかにいるほうが多いんですね。次の一歩、次の一歩ぐらいはわかるんですけど。それで、現場から仕事が出てきたときに、それは違う、みたいなことが見える。これがソース役の特徴でもあったりするんですよ。

小山 あるある、ですよね。今日の現場も、さっき私が「コメント入れてください」って発言してはじめてコメントが許可されてチャットができるようになりました。だれにも、チャット使うなんて指示はしていなかったんです。「なんでコメント入らないんだ」とか、急に言い始める、みたいなことですよね。

嘉村 はい。そういうのが気になってくるわけですね。それは、はじめから全部思いついてるかというと、たぶん、どっかでは思いついてるんですけど、それを、みんなに伝えることできないですもんね。

小山 そうですね。(現場のスタッフに向けて)しょうがないということです(笑)。

嘉村 出てきたもので、そこはちょっとさすがに違うんだっていう境界線を引くのも、ソースの役割ということなんです。

ソースの役割を知り、覚悟を持って引き受ける

嘉村 イニシアチブがうまくいかないとき、これらはソースの三つの病理といわれています。これは実は本のなかには出てこない内容です。[図6]

図6「イニシアチブがうまくいかない時〜ソースの3つの病理」

嘉村 迷走してるプロジェクトとか、仕事とか、思い浮かべていただければ、だいたいこの三つにあてはまってます。ひとつは、だれがソース役かわからない。事業責任者がソースとは限らないですからね。事業責任者イコールソース役じゃなくて、事業責任者がいるプロジェクトでもソース役が不在なときって、かなりあります。そういったときには、ことごとくうまくいってないはずです。
あるいは、ソース役は、みんな「あの人かな」と思ってるし、本人もそう思ってるんだけども、暴君化してしまう。こと細かに口出ししすぎて、だれのことも信じなくてコントロールしようとするっていうパターン。
もうひとつは、自分がソース役とわかってても、境界線越えてても、なにか言ったら申し訳ないかなと思って、「いいよ、いいよ」って全部OKにしてしまったり、次のステップを示すことをせずに、動いていってしまって、最後の最後にやりたいことと違った、みたいな感じでおじゃんになるっていう、ソースの役割を果たしてないパターン。わかってるけど、果たしてないっていう場合は、プロジェクトが暗礁に乗り上げてることが多いです。

小山 これは本当によくわかりますよね。なんていうか、ある程度、いわゆる人格者じゃないと。暴君化せず、かといって、怠け者でもなく、ちゃんとイニシアチブを進めていける。なにがその素質として必要なんですかね。

嘉村 まず、引き受けるということですね。やっぱりリスクはあるわけなんで。

小山 自覚するってことですね。

嘉村 自分がソースなんだと。まだ見ぬものをプロジェクト化するって、やっぱり怖いことだから、どうしても「みんなで考えたよね」って言いたいわけですよ。だから、三人リーダーでいこうよみたいな、そんな感じで思っちゃうところを、自分がソース役でやっていくんだって覚悟を持って引き受ける。そこは本当にやりたいことを突き詰めないと。そこにエゴが入ったりとかすると、たぶん引き受けられないです。

小山 僕なんか引き受けたほうが楽なんじゃないかって思う質なんで、そういうときは「もう、やります」みたいな感じで引き受けがちなんですけど。

嘉村 それで引き受けるまで不在でもいけてたわけですね。
こっち(暴君)は人を信じなさすぎてるし、こっち(怠け者)は優しすぎるというか、遠慮が働いてるし。ここは自分のなかでのトレーニングが必要かなっていう感じがしますね。

小山 なるほど。具体的にどうトレーニングしたらうまくいくんですかね。

嘉村 本当のソースの役割を知っておくっていうことと、もうひとつがやっぱり自分のなかで突き詰めて、本当にこれは自分がやるんだって覚悟を決める。そうすると、暴君にならないように、怠け者にならないようにってコミットできるんですけど、そこの純度が低いと、やっぱりこっち(暴君、怠け者)にいっちゃいますね。

小山 なるほど。だから、ちゃんとパーパスがあって、この目的のためにやるんだ、暴君になってる場合じゃないぞっていうことですよね。

山から湧き出る湧き水のように

嘉村 まさにそれが次のところです。インナーワークとアウターワークっていわれてるんですけど、私たちはプロジェクトがうまくいかないとかアイデアが実現できないときって、けっこう言い訳としてアウターワークのほうが出てくるんでんすよ。

図7「イニシアチブがうまくいかない時②〜インナーワークとアウターワーク」

嘉村 戦略が間違ってたかもしれない、いい人材がいないからなかなか進まないんだ、マネジメントを強くすればなんとかなるぞ、あるいは、お金さえあれば動くのに、とか。これらは、ことごとく違います。これらは、アウター、外のものをなんとかしようとしてるでしょ。

小山 なるほど。

嘉村 その前に、やることがあります。それがインナーワークです。第一ステップは、全体性を取り戻すマネーワーク。たとえばお金が集まらないとか、お金が流れないなっていうときって、そのアイデアが悪いとかではなくて、その人のお金の価値観に起因していたりするんですね。

貯金残高が常に増え続けてる人と、常にゼロ付近を漂ってる人とか、あるわけですよ。それって、生まれてから現在に至るまでの間で、たとえばお金は汚いものだっていう価値観が親から伝わったとすると、ある程度ビジネスが成功し始めて、お金入ってきても、持ってることが汚く感じちゃうので、すぐ使っちゃうとか。

お金って中立的なもの、ただの道具でしかない。人間が発明したなんの意味もないものなのに、ネガティブなお金の価値を投影してしまい、結果使っちゃうとなっている。実は、その価値観をクリアにしないからビジネスがうまくいってない可能性があった、ということ気づいたピーターは、「育つなかで培ってしまったいろんなものを取り外すのがいちばんはじめですよ」って言っています。これで全体性を取り戻します。

小山 この話だけでももっと聞いてみたいんですけど、ひとつだけ。逆に貯金をしてしまう人、貯金があれば安心できるっていう人。これはこれでひとつの思い込みがあるわけですよね。

嘉村 そうです。ピーターは、「お金があってもなくても安心できる」って一回つぶやいてみませんかっていうふうに言うんですね。

本当にお金があることがあなたの安心につながるものなのか、いや逆にお金がないから不安なのはなぜなんでしょうねっていう探求になっていくわけです。そうすると過度に貯め込まなくなっていく。

小山 最初に、ちらっと話が出ましたけども、もともと十分貯金があるのにさらにお金のために働き続けるって、いったい人生の目的なんですかっていうところからスタートしてるので、ひとつは、稼ぎ続けないとっていう強迫観念、不安のなかで生きてる人が、いやいやお金があってもなくても、私は安心だっていうところにいく。

嘉村 そうすると、「これやったら稼げるかな」っていう観点でビジネスモデルをつくるんじゃなくて、この世に生まれてきて、本当にこれが実現したいからビジネスをするんだってなって、そうなったときに、クリエイティブフィールドの磁場が高まってくる。求心力のあるイニシアチブになっていくということです。

その次に、ビジョンをクリアにする、お金の価値観をしっかりクリアにしたうえで、あなたが本当にこの世で実現したいものはなんなのかっていうことを探求するソースワークっていうのをやっていくんですけど、そのときには自分で文言をつくってみたりするんです。自分で言葉に出して言ってみて、一〇〇%イエスじゃなかったらそれはまだ濁ってる。「一%でもなんか違うなと思ったら絶対濁ってるから、書き換えて」とかってしながら、「これだ!」ってなったときのソースで喋っていくと、それがクリエイティブフィールドとして人を惹きつけるものになってきて、オーガナイジングになっていく。

これをちょっと違うメタファーでいうと、「山から湧き出る湧き水のように」って書きましたけど[図7]、私たちはプロジェクトがうまくいかないときに、すぐ、お金がないから、ノウハウがないから、なんとかがないからってできない理由を考えがちなんですけども、山を見てみろ、と。山の湧水は流れてだんだん下っていくと、最終的に川になって、地平線までいく。途中でたまに大きな岩にぶつかることもある。そうすると場は遮られるかもしれないけども、でも、コンコンと湧き水が出続けていれば緩やかに迂回しながらも絶対地平線の先に行くじゃないかと。

だから、この岩を取り除くというアウターゲームをする前に、このコンコンと湧き出る状態をつくってたら、あなたのやりたいことには絶対に次のステップがあり、そしていつか実現できるんだっていう、そういう仮説に立ってるのがソース原理の根本思想です。

小山 チャットで質問をいただきました。ビジョンがクリアになってという話をしていると、全体像が見えてる感じがするんですよね、言葉としては。でも実感としては、たしかにこの次やることはこれだっていう確信はあるけど、結果、どうなるんだって言われたときに、説明ができないっていう感覚もすごくよくわかるんですよね。「ソースの人には全体像が見えないっていうのは、あるあるなんですか?」っていう質問が来ています。

嘉村 この、ビジョンをクリアにするっていうのは、最終的なかたちの……、なんていうかな、ビジネスモデルがこうで、とか、こういう段取りで、とか、そういうものがクリアというよりも、どっちかというと「なぜやるのか」がクリア、って感じですね。

なにが好きで、なにに喜びを感じてなにが幸せで、どういった感じの感覚を世の中に呼び出したいのか。逆にいうと、その湧き上がる心の源泉、WHYが明確になっていくと、手段なんていくらでも紆余曲折できるよねっていう感じですね。

ただ、ビジョンは、明確にできるものもあると思います。このトムの本『すべては1人から始まる』では、ビッグアイデアって彼は言ってるけど、まだ見ぬ、まだ実現したことがないようなビッグアイデアをやることにフォーカスした本なので、そういうところは強いかなということですね。

小山 なので、ソースになった人は全体像が見えないっていうのは、一〇〇%いつもそうだ、ということではなくて、もちろんちっちゃなプロジェクトであれば全体像も見えてるし、ビジネスモデルも見えてるし、こういう段取りですよって言える。

ところがいま、議論しているのは、この先どうなるかわからないこと。急に家でいろんな動物を飼い始めた。「おまえ、動物園でもするつもりなのか?」って言われてもそれもわからない。なんかよくわからないけど、内なる衝動にかられて急になにかやり始めて、動物王国ができるみたいな。ムツゴロウさん、この前亡くなりましたけれども。そういう類のものってことですよね。

嘉村 そうです。まさに今日のテーマのイノベーションもそうだと思いますね。事前に説明できるんだったら、すでにだれかやってるでしょうっていうようなこととか、やれない理由がなにかあるのかもしれないなっていうところがあるなかで、まだ見ぬ世界を提示してるっていうところだと思うので。だれもやり方がわかんない。でも、その人の源泉がしっかりしてるから、どんな挫折があろうとも、ありとあらゆる手でいくぞっていうふうになってるから、かたちになるまで行われてるっていう、その湧水のようなエネルギーありますかってことですね。

小山 これがね、あるんですよ、みんな。あるんですけど、気づかないっていうことですよね。どこに湧いているのか。全部に湧くわけじゃないですからね。

嘉村 そうです。そんななかで、Organizationじゃなくて、オーガナイジングするときに出てくるキーワードがクリエイティブフィールドということですね。

みなさんも、だれかがやってるNPO活動かもしれないし、どっかの企業かプロジェクトかもしれないし、なんかおもしろそうだな、入ってみたいなって思うことってあるじゃないですか。それは、そのプロジェクトには磁場があるということですね。

惹きつけられるなにかがあるから入りたくなるっていう、そういう重力というか磁場がある。そういう物理的エネルギーのことを、クリエイティブフィールドっていいます。なので、立ち上げる人がちゃんと自分の全体性を取り戻して、ピュアな感じでビジョンニングすると、言葉にしたときには、「ぜひそれを実現してよ」とか、「応援したい」とか、「参画したい」っていうような人とかお金とかモノとかノウハウは、自然にひゅーって集まってくる。これを、クリエイティブフィールドというわけですね。

磁場を濁さない

小山 いま聞いてて、日本人の場合って(一括りにしちゃいますけども)、やっぱり周りに遠慮して、フィールドをつくれない。ソースのとしてのパフォーマンスを発揮できてない人が、割合的に多いのかなと思ったのですが。

嘉村 まさに。自分もそうです。私自身が京都でhome’s viという組織をつくって七名ぐらいのメンバーでやっているんですけども、社員になるっていうことは、自分の組織に人生の大半の時間を過ごすことを選んでくれたわけじゃないですか。そうしたときに、「自分(この場合は嘉村のことを指す)のやりたいことをやらせる」って違うなと思っていて、好きなように自分がなにかやって、僕がプロジェクトを承認するとか否決するとかそういうつもりもないし、好きに勝手やったらいいよっていうふうに全部やってたわけですよ。

小山 はい。

嘉村 ティール組織のことをフラット組織として捉えていたというか

小山 我が意を得たり、という

嘉村 やりたいこと、そのままだ、みたいな感じなんですけど。でも、エネルギーは湧かないですよ。というのも、一五年前に自分の団体home’s viをつくったのは、自分もソース役として、なにかこの世に実現したくって、立ち上げたはずじゃないですか。だけど集まってくれたメンバーに、好きにやっていいよっていうだけだったら、なにか、進んでる感じないですよね。

小山 あぁ……。そうですね。

嘉村 そういうエネルギーのなかで、多分ある程度方向性を持ってやってたときには、周りから「home’s viさん、おもしろいね」とか、「期待してる」って言われたのが、だんだんみんなが好き勝手自由にプロジェクトを立ち上げてくると、「最近のhome’s viさん、よくわかんないっすよね」って。

小山 超リアルなコメントですよね。まさにそういうことを言われたってことですよね。

嘉村 磁場を失ってるっていうことですよね。そういう組織は多いですよね。でもいろんなことやりすぎちゃって、「あれ、最近なにやってんだろう」って。ボトムアップだ、サーヴァントリーダーシップだっていうなかで、結局、立ち上げたソースの人の色がぜんぜん出てない、みたいな。

そうなると、求心力を失っていく。経験からも言えることですが、やっぱり気を使いすぎるリーダーも、クリエイティブフィールド的にいうと、大変です。

小山 そういう意味では、空気を読んで動いていくというか、やっぱり、波風を立てたくないっていう気持ちがどうしても先に立つんですよね。

嘉村 私はあるところから「ちょっとそこはごめん、範囲外、境界線だ」と言うようにしました。「それはあなたにやるなと言ってるわけじゃないんだ。あなたがそれをやりたいということは自分の衝動で動いてるから、やっていい。それを止める権利はない。ただ、うちの組織の優先順位としては低い。もしかしたら、働いてる時間の二割は、home’s viから外れてやってみるのもありかもしれない。それなら、逆に自分は手伝う側に回りたい」と。

あるいは「home’s vi内でやるとしても、資源分配の優先順位が下がってくるかもしれないっていうところがわかってたらいいですよ」と。こっちが、それを駄目にする権利もない、同じ人間で、上下関係がないんだから。でも、境界線を越えてるのはなんとかしないと、僕のクリエイティブフィールドは濁っちゃうので、それはみんなにとっても駄目なんだっていうコミュニケーションができるようになって……、

小山 いつ頃からそれができるように?

嘉村 五年前ぐらいから。そうすることによって、その境界線を越えたと言われた人も、自分ってなにが本当にしたいんだろうかというのを考える機会にもなったし、home’s vi自体も物語の洗練さを取り戻したので、ほかのメンバーにとっても、めざすことが明確になって、エネルギーがバーっと変わってきたんですね。

小山 ほぉ……。一般的には、最近の流行りだと「パーパスを決める」、昔で言えばビジョンとかミッションを決めるみたいな、ミッション策定プロセスみたいなことに入りがちなんですけども、多分、ソースの場合は、そういう表層的なことではなくて、もっと根源的なところからスタートするんですね。

嘉村 そう。パーパスをグリーンの罠的な集合知のパズルでつくるんじゃなくて、やっぱり、そのいちばんはじめの物語を立ち上げた、神話の始まりの衝動ってなんなのかっていうところに多くのヒントを求めますよね。

それがいまのパーパス系ブームにあまりないので、ちょっと危ういかなっていうところはあります。

小山 そうですね。そこは似ているようで、ぜんぜん違う。いまいわれているパーパス的な観点からいうと、ちょっと独善的じゃないのってなっちゃいますよね

嘉村 ただ集合知を使ってはいけないわけじゃないです。みんなで対話することで、集合知をちゃんと紡ぐことができたら、みんなの「自分ごと化」にできるので。そうすると、「私はソース役のだれだれさんを手伝ってる」んじゃなくて、「私たちごと化」して、自分たちのプロジェクトになる。集合知は大事なんですけども、そこでソース役の観点にそっぽ向けると、つぎはぎの、どこに行くかわかんないことになる。両方ともの結合が重要って感じですね。

(5)に続く


嘉村賢州 
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
令三社取締役
「ティール組織(英治出版)」解説者
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。2022年10月に英治出版より『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』を翻訳出版。

小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。

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