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嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(3)

嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(2)の続きです


なかなか決まらないし、やめられないグリーン

嘉村 続いてグリーンにいきましょうか。グリーン組織の特徴とグリーン組織でのイノベーションが起こりにくい理由なんですけども、グリーンで起こってることっていうのは、さっきもちょっと言いましたけど、ひたすら会議をして、しかもひたすら長い。多様性を大事にしすぎるゆえに意見がまとまらないんです。最終的に行動するときはなにが起こるかっていうと、ひとつの結論が出るときもあるんですけど、「あなたはあなた、私は私でやっていきましょう」というふうにバラバラになることもすごく多いですね。

本当は、多様性の受容じゃなく多様性を“活用”したいんですけど、それができている組織はあまりないかなと思います。同時に、このあたりからワークショップとかそういったボトムアップのプロジェクトがいっぱい生まれてきます。

だけど、同時にちょっとオレンジが残ってると「始めたからには最後までやれ」とか、「やめるんだったらちゃんと責任説明責任果たせ」とかって言われちゃうので、やめれないんですよ。ティール組織だと、走って、ちょっと違うなと思ったらいくらでもやめていいという感じなんですけど、オレンジが残ってると「お金使ったんだから、やりきれよ」とか、「失敗したらお前の責任問題だから」なんて言われて、ちょっと外れててもやり続けるので、みなさん、忙しすぎるんですね。忙しすぎるとまた新しいものを生む隙間がないので、新規事業を立ち上げようと思ってもミーティングする時間がない、みたいな、そういうことが起こっちゃってる。

小山 すごくよくわかります。始まったプロジェクトが終わらない。「何ヶ月やってるんですか」って聞くと、「三〇何ヶ月です」とかって。グリーンの場合は「止めどき」を決める人がいないんですよね。

嘉村 そうですね。

小山 ステージゲートを使ってるので、ゲートキーパーがOKって言うと次のフェーズに行くんですけども、終わらせられる人がいない。火中の栗を拾う人がいない。プロジェクトのメンバーがまだやりたいと思っていたら、誰もやめろとは言い出せないっていう。

嘉村 すごくよく見られる光景だと思いますね。

みんなで決めることの罠

嘉村 さらに、だれも責任を持ってないアクションプランは、結局、「次はAIがきてるから、AIでなにかプロジェクトやろう」とか、そういう感じでプロジェクトは立ち上がるんですけど、みんなで会議で決めていくことになるんで、合意形成すると、「みんなで決めたから」って言い訳できちゃうんですよ。オレンジだと自分が責任者だから、それは納得いかんとも言えるんですけど、グリーンってみんなで決めるので、六〇点ぐらいの段階でも、「だってみんな賛成したじゃん」って言えてしまうので、最後の最後まで考え抜くって人があんまりなかったんですね。「みんな」っていうところにみんな言い訳をする。同時に、みんなでアイデア出ししたらそのアイデアを却下するのもしづらいので、そのアイデアもいいね、なんて、つぎはぎ的なまぜこぜのアイデアにもなりやすい。だから、なんだか洗練されてないアイデアが多いっていうのがグリーンの特徴ですね。

小山 だからちゃぶ台返しが起こる。トップは優秀なんですよね。そこを見抜いてるんです。「お前ら、本気じゃないだろう」って。デザイン思考だとか、いろんなプロセスを踏んでなにかかたちにはした、っていう模範解答みたいのが出てきたところで、本気でやりきる熱量が伝わらないから、駄目だって言われて、現場もシュンとするという構造的な問題が起こっている。

嘉村 まさにそうですね。どっちが悪いわけではないんですけどね。

小山 ちなみにVimeoをご覧になっている方、ぜひコメントしてください。リアルタイムで拾っていきます。会場のかたも、のちほど質問タイムを設けますね。

嘉村 いろんな角度から聞いていただければ。

小山 いまから準備していただいて、ズバッと聞いていただければと思います。では続いていきましょう。

暗闇にあるのは宝か、モンスターか

嘉村 キャンプファイヤーモデルってティールの会話で言われてるんですけども、はじめてギリシャに行ったときにこの話を聞いたんです。ギリシャの人が、世界中(日本人もそうかもしれません)の人が、ティールとグリーンの違いがあまりわかってないと。それを探求しようというなかで、「みなさん、キャンプファイヤー好きですか」って聞くんですよ。

多くの人が「好きです」と。「なんで好きなの」って聞くと、「なんか温かい感じがいいじゃないですか」とか、「キャンプファイヤーで話すと一体感を感じます」とか、「暗闇に明るさが灯ると、なんかいいですよね」「ホットワインをそこで飲むと深く語り合えますよね」とか、いろんなキャンプファイヤーの良さが出てくるんですね。それはすばらしいことだよね、と。組織づくりも、みんなのキャンプファイヤーの好きな要素のようなものを求めながら、一体感を出すためにカルチャーを育んできたりとか、暗闇に明晰さを作るためにビジョンを定めたりとか、そういうことをいっぱいやってきた。でも、実はその行為自体がさらにその先に行くことを蝕んでるかもしれないぞということなんです。

それはなにかというと、暗闇のなかにキャンプファイヤーがあるわけですけども、周辺の暗闇にはモンスターがいるかもしれないが、もしかしたら宝物もいっぱいあるかもしれない。けれどもキャンプファイヤーがあることによって、暗闇に行く勇気を持った人たち、異端児が現れない。一体感を大事にしすぎて、違うことを言う人が現れると、「おまえ、場を崩すなよ」みたいな感じになってしまう。グリーンでは異端児が生まれにくいんですよね。

でも、暗闇に飛び出す勇気のある人がいるからこそ、モンスターに会うかもしれないけど、宝物を見つけるかもしれない。要は、異端児とか変わったアイデアみたいなのが生まれにくくなる構造をグリーンは持ってしまっています。

小山 そういう「空気」ができるわけですね。

嘉村 はい。カルチャーを大事にすると、イノベーションが生まれにくいっていうこともあるかもしれないと。上層部と溝が生まれやすいということですね。

自分自身の判断軸を取り戻せるか

小山 空気があって反対できなかったという太平洋戦争の反省もありますが、日本は、結局「空気」で動いているところ、ありますよね。これって、民族性に根ざすものなのか、海外も同じことが起こっているのか、そのあたりどうなんですか。

嘉村 空気はけっこうむずかしい……。ティール界隈でもけっこうむずかしくて、ティールだからといって解決し切れるものではない。たとえば「純粋だったトップについて入社したけれども、急にトップが変わってしまった」というときも、オレンジだったら従わざるを得ないじゃないですか。ヒトラーがもしかしてもともとは純粋で、そこから変わっちゃったとしても従わざるを得ないわけですよ。だから命令されたら断れないって話になるんですけども、ティールのおもしろいところは、命令権限や指示命令系統がないので、トップが邪になったり、共感できなくなったら動けないというスタイルになってる。

とはいえ、全員がトップの言うことに賛同してしまうと、「空気」になっちゃうところある。組織の構造で、トップだからといって全部を好き放題やるっていうことは生まれにくくなるっていうところはあるんですけどね。

小山 なるほど。国民性でいうと空気読まない種類の人たち、そういう文化のところも海外にはやっぱりあって、個人主義が強いと基本的にそういう傾向が強い。たとえば、法律が厳しいところっていうのは、規律があるかっていうとむしろ逆で、法律で明文化してかないとだれも守ってくれない。みんな、自由気ままになってしまう。だから法律がどんどん厳しくなるんだみたいなパラドックスもあったりして、一筋縄でいかない。この空気の話はなかなか……。

嘉村 奥深いですよね。ハイデガーもそうですけど、みんな役割を背負ったなかで社会に入っていって、自分自身で考えることをストップしちゃうから、世の空気に流されやすい。それをを取り戻そうみたいな組織論を越えるのって、自分自身の判断軸とか本当に自分がどう生きたいのかっていうことを、人類が取り戻せるのかどうかにかかってるような感じですね。

空気を「読む」のではなく、「つくる」

小山 ソース原理と、このあたりが非常に強く関連してくるところです。ソース原理っていうのは、ちょっと先走って言うと、クリエイティブフィールドと呼ばれる「場」を自らつくり出すっていうことをすごく強調するんですよね。ソースとなって自分が意思決定するとか、命令するんじゃなくて、場をつくるんだっていう話をしていて、空気っていうのは逆に場からめちゃくちゃ影響を受けるんだっていう話ですよね。ソース原理は実は空気を読むんじゃなくて空気をつくれっていうことを言っていて、実はこのグリーンの罠、とくに空気のところはソース原理を導入することによって、かなりクリアに突破口が見える部分なのかな、と。

嘉村 まさにそうです。空気をつくってそこに入るんですけど、そこにソース原理の界隈の人たちは、ある人がつくった空気に入っていくのを選ぶ前に、自分自身の人生ソースとちゃんとつながっているかどうかを問われます。ちゃんと選んで日々行動してますかっていう、ある人のソースのオーガナイジングに入る以前に、あなたの人生に関してちゃんとビジョンをアクセスしてますかを問われるので、空気との関わり方が依存的にはならない感じはします。


実現されるアイデアには一貫性がある

嘉村 では、いよいよソース原理入門というところに行きたいなと思います。

そんなオレンジのむずかしさ、グリーンのむずかしさのなかでソース原理がどういうふうに絡んでくるのかというところに入っていきたいと思いますが、このソース原理とティール組織っていうのは、まったく別のところから生まれたものだし、そもそも概念もけっこう違います。

フレデリック・ラルー(ティール組織)が探求してきて見つけたものと、ピーター・カーニック(ソース原理)が探求してきたものがたまたま最近出会ったってだけの話で、まったく別物です。フレデリックはどうやったら魂のこもった組織がつくれるんだろうっていう問いをもとに、世界中の事例を見て歩いて、ティール組織という仮説が生まれてきました。ピーター・カーニックのほうは、実現されるアイデアと、アイデア止まりで終われるものがあるなかで、実現されるものには、なにか普遍の法則が働いてそうだと。

小山 ここですね。これ、ぱっと読み飛ばしてしまいがちなんですけど、めちゃくちゃパワフルな問いなんですよね。

アイデア止まりになることのほうがめちゃくちゃ多いわけですよね。「こういうことやったらいいよね」とか話すじゃないですか、居酒屋の席でもね。ところが、ある人はそれを実現してしまう。

最近すごい衝撃を受けたことがありまして。南宗一郎さんっていうビズリーチの社長がいらっしゃって、楽天から離れて独立をし、ビズリーチをまさに創業する準備のときに話をする機会があって、あのタイミングのリアリティのある話を聞いたんですよ。上場しちゃったりするとあとからなんとでも言えるだろうみたいな話なんですけど、そうじゃなくてその当時に聞いたんです。

もうとにかくメジャーリーグのオーナー、GMになりたいということで手紙を出し、GMの二人ぐらいに会えたりしたんだけども、結果的に楽天イーグルスの立ち上げに関わり、ずーっと夢を持ち続けて、つい二、三日前ですよね、ヤンキースの部分オーナーになったということなんですけども。

私、その当時の南さんを見ていて、この人だったら、ふつうに実現するんだろうなって思ったのをすごく覚えてるんですよ。それはビズリーチを成功させたからそう思ったんじゃなくて、まさにこの人すごいな、と。

嘉村 はじめのはじめからエネルギーがあったってことですよね

小山 そうです。ここ(本)はね、どのようなプロセスで具現化されるのかって書いてあるんですけれども、やっぱり、アイデアをかたちにする人とそうでない人がはっきりわかるってことなんですよね。そこには当然プロセスもあるんだけれども、そこを解き明かしていったときに、最終的に「1人から始まる」という。

嘉村 はい。そうなんです。ちょっと衝撃的かもしれないですが。ティール的な発想からすると、はじめは、私も違和感だらけでしたよ。集合知とかみんなでつくるっていうところに感じてたのが、急にまた「1人」にもどる……?「トップダウンじゃん、それ」っていうような感じで、はじめはちょっと、なんていうかな、体が反応したというか…。

小山 ですよね。

嘉村 どうなのかなって思いで、でも見ていくと、やっぱり本当に真理を言っているし、決してここは矛盾してないってことがわかってくる。こののちの話になりますが、そこを見ていきたい。

小山 さきほどの南さんの話をもう少し加えると、私が話を聞いたのが一〇年ぐらい前の話で、それ以降もその夢を持ち続けてる。ずーっとそれを追い求めてるっていう、一貫性っていうのがあるんですよ。「一貫性」って、われわれはふだん忘れがちなんですよね。

今日のこのイベントも、実は三年前にコロナ禍でもトライし、その前からもやりたいと思っていて。二、三回失敗というかトライアルをし、今回、何回目かの挑戦なんです。試行錯誤なんですけども、傍から見れば、単なる対談セミナーでしょって思われる会ではあるんだけども、僕のなかではかなり長いスパンで、ここになにか自分なりのやりたいことがあるような気がするイベントでも実はあるんですよ。

嘉村 多少のうまくいかなかったところがあっても、ぜんぜんエネルギーが切れなかった?

小山 ぜんぜん切れないですね。そこはまったく問題にならないというか、もうこの歳になると一回では成功しないと(わかってくる)。それが四〇なのか、五〇、六〇、いくつになって成功するかわかんないけども、この方向性でなにかやっていくんだな、自分はそういう運命なんだみたいな、そういうものを引き受けるみたいな部分もあって……。

嘉村 おもしろい……

小山 それを南さんっていうすごいことをやった人と比較すると、もうとてもとてもちっちゃなことなんだけれども、でも、明らかにここにソースがあって、冒頭の話に戻ると、いやあなたはそうやってソース側ですよって、言われたときに違和感があったのが、いま「そう言われるとたしかに」って思ってるところです。

嘉村 なるほど、おもしろい。ちょっと深掘りして聞きたいことがいっぱいあるんですけど、ある程度フレームを出してからにしましょう。

(4)に続く


嘉村賢州 
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
令三社取締役
「ティール組織(英治出版)」解説者
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。2022年10月に英治出版より『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』を翻訳出版。

小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。


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