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孤高のイノベーター 技術と人生の交差点で

三宅泰世(BMIA理事)


2024年3月3日「SFプロトタイピングとスペキュラティブ・ビジネスモデル〜ビジネスモデルオリンピア2024」が開催されました。(主催:一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA))本記事は、筆者プレゼンに加筆修正したものです。

科学技術が進歩がもたらすもの

先週、先々週と、『SFプロトタイピング』『スペキュラティブデザインの授業』の読書会をやったんですけど、私自身かなりつらくなりました。この本に書かれていることは、私にとっては本当になにか嫌なことをたくさん思い出させました。

『SFからイノベーションを生み出す新戦略 SFプロトタイピング』(宮本道人、難波優輝、大澤博隆著、早川書房、2021年)
『20XX年の革命家になるにはー スペキュラティヴ・デザインの授業』(長谷川愛著、ビー・エヌ・エヌ、2020年

科学技術が進歩したときに、そこに倫理がなければ、戦争を生み出したりしてしまう。非常に気をつけなきゃいけないんだっていうことなんですね。それから、ディストピアとユートピアの話もありました。やはり(私は)科学技術に関わってきているので、ディストピアとユートピアが同時に出てきてしまうのをずっと見てきたので、そこからの気づきもご紹介をしたいと思います。

報酬は、侮辱と略奪と搾取

私はもともと、光ファイバーや、光コネクタなどの専門技術者家でした。特許発明をして商品開発をして、NTTグループで初めてダイレクトマーケティングとWebマーケティングを使って世界中で売れるようにしました。みなさんの家にBフレッツという光の回線が行ってますよね。その先に光コネクタがついています。その光コネクタの特許も持ってるんですよ。総額でもう300億円以上売れてるんですけど、こっちの特許は、僕には補償金が一切入ってないんですね。むっちゃ腹立ってます。

僕への報酬は侮辱と略奪と搾取です。これだけにとどまらず、私の上司が「三宅と口をきいたら評価が下がる」という噂を広めてくれました。そして、私の成果を略奪して大出世されました。なんでこんなことされなきゃいけないんだとChatGPTに聞いてみたら、単純に嫉妬だと。それからいろいろ私の組織の力学の中でのイノベーションの研究が始まったんですね。

NTTアドバンステクノロジ株式会社は今700億円ぐらいの会社で社員は約2000人いるんですね。取締役とか組織長、管理職は研究所やNTTの事業会社から来られた方が多いんです。そんな会社の中で私のビジネスの成功について、「マーケティングは虚業」と言われたこと、これが、いちばん腹が立ちます。技術がよければマーケティングなんか要らないと幹部が言う。○カか、○ってんのか、ふざけんなと思ったわけですね。この経営幹部の時代錯誤をどうしたもんかなと思いました。

幹部のバリュー・プロポジションを探る

社員には自分たちの技術でなにか新しいものをつくって社会に貢献したいという方が多いんですよ。

社員Aさんのカスタマー・フリクション・マップ
社員Aさんのバリュー・プロポジション・キャンバス

ところがどうしても会社がそうならない。非常に悩ましいわけです。僕自身は自分の次世代とか若い人たちが幸せになってくるようになにかできないかなと思ってたんですけど、どうしても、こっちのNTT研究所OBの取締役や幹部のバリュー・プロポジションを探求せざるを得ませんでした。

幹部のフリクション・マップ
幹部のバリュー・プロポジション・キャンバス

かつて、私の上司だった幹部のペインは、経営者として無能だと思われることでした。彼が欲しいかったのは、持ち株に評価されて、なにごともなく退職を迎えて子会社の役員社長になることでした。そうなるために必要なのは、ざっくり言うと、ちゃんとした経営者の能力がなくても役割が全うできるような仕組み。自動で経営できる仕組みが欲しいんだろうと。じゃあ両方ともやってやろうじゃないかということになるわけです。

まず、社外で評価される実績を積む

そして、後輩たちのために(自分のためでもあるんですけど)、やはりアレックス・オスターワルダーとの出会いがいちばん大きかったですね、マスター講座です。そのときに山本伸さんと小山龍介さんと出会いました。その翌週には国立情報学研究所で国の偉い方向けにワークショップをやってます。そして続いてNTT研究所を回りまして、そこからどんどん、口コミが広がりました。印象深いのがOriHimeの吉藤健太郎さんとの出会い。NTT東日本の依頼で、OriHimeを使った社会事業のコンサルも依頼いただきました。社会問題に関わったり、いろんなところ本当にいろんなお仕事、ワークショップの依頼を受けてきました。

元総務相事務次官の櫻井俊さんから声がかかって、山本伸さんと一緒にワークショップをやったり、大阪の専門学校の学生さん向けにアイデアソンとかハッカソンなんかもやってます。

変化を嫌う企業では、外で十分に通用するイノベーションのメソッドを持ってるんだっていうことをまず証明しなきゃいけないんですね。

社内に営業管理システムを導入

技術オリエンテッドな企業であってもマーケティングが必須であることを浸透させるため、経営改革のためにセールスフォースという営業管理システムを入れました。

営業管理システム セールスフォースを導入

セールスフォースは、ビジネスモデルをつくるためのプラットフォームになってます。もはや営業管理のクラウドサービスではないんです。これを全社に導入しています。セールスフォースは、ビジネスの世界ではもう絶対無視できないようなプラットフォームになってます。NTTグループは、千何百社あるけど、セールスフォースを入れていちばんうまく定着させたのがNTTアドバンステクノロジです。

全国大会のファイナリストに

そして、2023年度Salesforce全国ユーザーチャンピョン大会のファイナリストになりました。そこでも話しましたが、私は新しい経営管理モデルである「未来対応データ駆動型経営管理モデル」を提唱しています。イノベーションからビジネスモデルをつくり始めてSTP‐4P、マーケティング・インサイドセールス・セールスを全部セールスフォース上で管理してしまう。そして、今年の年末くらいからAIがこれから話すことを全部やってくれます。

  1. メールの送付先リストを作って

  2. メールを書いて送付して

  3. Webのランディングページをつくって

  4. お客様とのミーティングのスケジュールを設定をしてくれて

  5. 営業の資料を作ってくれて

  6. 営業担当のトレーニングをしてくれる。

  7. そしてお客様との商談の記録を取って

  8. BANTCの分析をしてくれて

  9. 営業担当の管理をして

  10. 売上利益の予測をしてくれて

  11. 売り上げが足りない、どうしたらいいんだって聞くと答えます。

どうだざまあみろ!AIで経営管理がほとんどできてしまう!

経営幹部が要らなくなっていく。座ってくれていればいい。来年ぐらいにはそうなってます。誰かにとってはユートピア、誰かにとってはデストピアを出現させるべく、Tableauの責任者と常務を合わせたり、NTTグループ限定の特別セミナーもセールスフォースさんが企画開催してくれています。

タイミングと制約条件

イノベーションで大事なことはなにか。タイミングです。それからリーダーシップ、そしてチームがその変革に耐えられるかどうかです。そして適切なルート。これは『スタート・イノベーション!』(ハイス・ファン・ウルフェン著、ビー・エヌ・エヌ、2015年)に書いてありますけど、このときにいちばん重要なことがもうひとつあって、それは「制約条件」です。

『スタート・イノベーション!』(ハイス・ファン・ウルフェン著、ビー・エヌ・エヌ、2015年)

僕は光ファイバ通信用の部品材料系のエンジニアだったので、ネットワークとかクラウドサービスの研究者エンジニアからすごい差別をうけていたんですよ。所詮部品屋でしょうみたいな、技術の差別があります。それから社内政治があって、嫉妬陰謀があります。最も意識すべき制約条件は、あなたの健康です。自分の体が壊れていくのは、超恐怖です。実は僕の右の脳は25歳のときの事故のせいでだんだんだんだん壊れてるんです。一応無事に生きてますけど…それだけでなく、セールスフォースを全社に入れ始めたあたりで、実は右眼の網膜がブシュッと破れまして、左眼はもともと弱視だったので、ほとんど目が見えない状態で4年間過ごしてます。

セールスフォースを全社に入れるのは、ものすごい社内政治との戦いなんですけど、その間、見えない、書けない。聞くことと、頭の中で想像を巡らせることと口だけが頼りです。プロジェクトマネジメントができやしないです。緻密なことなんかなにもしてないです。聞いて話すだけ。口だけで回します。

自分のキャパシティに合わせて、情報量や活動量をコントロールすることです。欲張らないことです。自分の体力とか知力とか体の調子とかいろんなことがあると思うんですけど、自分のキャパシティ以上には全体のスピードを動かさないことです。自分のキャパシティに合わせた情報量しか扱わないことです。そうすると全体最適が起こって、けっこうダイナミックに組織が変革できます。

世界的マーケターの神田昌典さんには、その100冊に迫る著作の中で最も紹介していただいているらしいです。大事なことが最近わかってきました。能力には、伸ばすのが難しい能力と、がんばれば伸びる能力とがあります。この本(『未来実現マーケティング』神田昌典著、PHPビジネス新書、)買っとくといいですよ。

『未来実現マーケティング 人生と社会の変革を加速する35の技術』(神田昌典著、PHP研究所 、2022年)

僕が載っている136ページには何ともしびれる、こういう表が載ってます。

『未来実現マーケティング 人生と社会の変革を加速する35の技術』p.136より引用

伸ばすのが難しい能力のトップは「知性」。きついっすね。「分析スキル」、「創造性」、後づけできないです。こういうことを知りながら、自分が持っている能力はどれで、どの能力で勝負ができるのかっていう戦略が立てられます。

周辺から世界を変える

会社を変革するのは、いわゆるメインストリームにいらっしゃる方では不可能です。はっきり言います、脇にいた方が変革できます。周辺から変えるべきなんです。そこからじゃないと会社は変えられないです。

自分自身の制約条件はあるけれども、変えるべきものを変える、変えられないものと変えられるものを見極める。これをしっかり日々、瞬間瞬間にやっていくことです。そして変えられるものから丁寧に勝手に変えていく。これがひとつ重要なことなのかなと思ってます。

イノベーターのための必読書をクラファン出版します

さて、そんなことをやりながらまたクラウドファンディング出版をやります。もう3冊目です。もう本当にありがとうございます。去年、2冊目の『ハイブリッド・イノベーション』は、なんとオランダ大使館で出版記念パーティーができました。次は第3弾です。『インスピレーション・フォー・イノベーション』のクラファンをぼちぼち始めます。

Inspiration for Innovation: 101 Lessons for Innovators

みなさんお手元のスマホでこのQRコードを読み取ってください。クラファン始まったよというメールが届きます。

この本は、イノベーターに、こういうふうに行動したら、こういうふうに考えたらいいんだよを提言する、まさにイノベーションを起こしていく人のための本です。どうしたらイノベーターになっていくのか、あるいは周りをどういうふうにイノベーターにするのか。見開き1ページに1項目完結で非常に読みやすい本です。ハイスには「泰世、いいアイディアがある。”お前の上司に渡すべき本”という副題をつけたらどうか」と言われました。

1人の著者の本を3冊、同じ仲間とともにつくってるんですよね。こういう本というのは、たとえばドラッカー全集ぐらいです。そのくらいいい本になります。ぜひご協力お願いします。


編集:片岡峰子
写真:小山龍介



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