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AI時代のイノベーター像ーこれから求められる5つの特性

現代のビジネスは、AI技術の発展により急速な変革を遂げている。このような環境下においては、革新的な発想と迅速な行動が成功の鍵となる。AI時代のイノベーターとは、このような状況に適応できる人物ということになる。彼らは、新しいアイデアを生み出し、ビジネスを前進させるために必要なリーダーシップを発揮するだろう。ここで、彼らが持つ重要な特徴について、5つに整理してみた。

1.       クリエイティビティを発揮する

まず第一に、AI時代のイノベーターは、クリエイティブな思考力を持っている。彼らは、新しいビジネスモデルやプロセスを考え出すことができ、従来の常識にとらわれずに、常に新しい視点で物事を見ることができる。彼らは、問題に直面したときにも、アイデアを出し合って解決策を見つけることができる。

これは、フレーム問題とも関連する。AIは、事前に設定されたフレームの中でしかものごとを処理できず、現実に起こりうるあらゆる問題に対応することはできないのである。哲学者ダニエル・デネットの思考実験が有名である。ここで簡単に紹介しよう。

洞窟の中にあるバッテリーを交換しなくてはならなくなったが、そのバッテリーには時限爆弾がしかけられている。ロボットR1はバッテリーを取り出すことはできたものの、一緒に時限爆弾も運んでしまい失敗した。第二号機のR1-D1はその問題に対処するために、時限爆弾が爆発するあらゆる可能性を考え始め、まったく無関係の事象まで思考しようとした。そのため動けずにフリーズしてしまう。第三号機のR2-D1は、無関係な事項は考慮しないように設定されたが、逆に今度は、無関係な事項を列挙し始めて、洞窟に入る前にフリーズしてしまうのである。スターウォーズに登場するR2-D2は、こうした問題に対処できた理想のAIとして活躍する。

ビジネスの世界にも、何も考えず失敗するR1、あらゆる可能性を考えて動けなくなるR1-D1やR2-D1のような人物はたくさんいる。AI時代において、フレーム問題を乗り越えるR2-D2型イノベーターが求められるのである。

2.       行動力をもっている

第二に、AI時代のイノベーターは、素早い行動力を持っているだろう。彼らは、市場の動向や消費者のニーズを正確に把握し、迅速かつ効果的な戦略を立てることができる。彼らは、情報を収集し、分析し、重要な決定を下すために必要な時間を最小限に抑えるだろう。このとき、AIはよきサポーターであり、そのポテンシャルを最大限に引き出すだろう。

たとえばこの原稿の下書きは、ChatGPTが書いている。その結果、15分で仕上げた文章だと言ったら、驚かれるかもしれない。AIのサポートを使うことで、このようなスピードで仕上げることが可能になったのである。

さきほどの思考実験のロボットたちが無限の可能性を考えてフリーズしたのに対し、わたしたち人間は、人生の時間が限られているという有限性から、一定の推論を行ったあとにまずは行動に移る。イノベーターの行動力は、究極には、人生の時間が限られているからこそ引き出されるものであり、無限の時を生きるAIとは前提を異にしているのである。

3.       リスクテイカーである

第三に、AI時代のイノベーターは、リスクを恐れずに挑戦することができる。彼らは、ビジネスにおいて成功するために必要なリスクを取り、失敗したとしてもその経験を次のプロジェクトに生かすのだ。彼らは、従来のやり方にとらわれず、新しいことに挑戦することで、市場のトレンドを作り出すことができるだろう。

AIは、自分が行動した結果を読み込むことは、今のところできない。自分の行動の結果をフィードバックさせていくと、永遠に計算が終わらないのである。マイクのハウリングの現象と同じである。マイクに入った声がアンプによって増幅され、その増幅された声がまたマイクで捉えられる。これを繰り返すと、キーンというハウリング音になるのである。だから、AIは、自分の行動は除外して、客観的世界と自己とを切り離して、まるで批評家のように世の中を分析、推論していくわけである。

しかしイノベーターは違う。世の中が認めていない製品、サービスであっても、それを認めさせるのがイノベーターである。世の中を主体的に変えていこうとし、その結果起こるさまざまなハレーションを受け入れる覚悟を持っているのである。AIは市場のトレンドを批評できても作り出すことはできない。イノベーターはみずから、未来を作り出すのである。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイの言葉は、AI時代にこそ響いてくる言葉なのだ。

4.       他者との協調性

第四に、AI時代のイノベーターは、協調性を持っている。ビジネスチームの一員として、協力してプロジェクトを進めることができる。自分のアイデアを尊重すると同時に、他の人のアイデアを聞くことができる。ビジネスパートナーとの良好な関係を築き、成功に向けてチーム全体を鼓舞することができるだろう。

AIがもたない身体性の議論は、ここに関係してくる。フッサールは「間主観性」という概念を提唱した。私たちが他者を理解するためには、その他者の意識や経験を自分自身の意識や経験と関連づける必要があると考えた。その意識や経験はどこからくるのか。メルロ・ポンティはそこで、「間身体性」という概念を提唱する。私たちは身体を通じて、周囲の環境や他者との関係性を感じ取る。身体性は私たちが他者との関係を築く上で重要な役割を果たし、身体を介して他者と共感し、協同することができるのである。

AIが「悲しい」と答えたとしても、AIはその悲しさについて理解していない。記号接地問題(Symbol Grounding Problem)と呼ばれるAIの課題は、究極には、彼らが身体を持たないがゆえに現実と「接地」しないということから、避けがたいものなのだ。ここに、デザイン思考における共感の問題も絡んでくる。AIは原理的に、共感できない。人間だけが、他人に共感するのである。

5.       学習する姿勢

最後に、AI時代のイノベーターは、常に学習と成長に取り組んでいることを指摘しておきたい。彼らは、自己改善のために積極的に情報を収集し、新しいスキルを習得することができる。彼らは、自分自身を常に挑戦し、成長することで、ビジネスの成果を最大化することができるのだ。

AIもまた、新しい情報を受け取って学習を繰り返していく。そう思われる方も多いだろう。しかしここでもまた、有限と無限の問題が関係していくる。AIの学習は、人間と異なり、無限に開かれてしまっている。そのことによって、原理的に、偏りがなくなっていくのである。ChatGPTが出す平凡な答えにがっかりした経験をした人も多いだろう。良くも悪くも、彼らが返してくる答えは、大量のデータに基づく、極めて平均的な学習結果なのである。

一方、イノベーターの学習はそうではない。方向性を持っており、よくも悪くも偏愛的な学習プロセスなのである。そしてそれがイノベーターとしての個性となっていく。人間の個性とは、人間の有限性から生まれてくるものなのだ。無限のAIには、個性がない。あらゆるものを包括する全体性=神のようなものかもしれない。全知全能の神の人生は、実は退屈なのではないか。限られた人生の中だからこそ、この時間を何に使うのかということに頭を悩ませる。ここでいう「学習」とは、そうした人生観に基づく概念である。

AI時代のイノベーター像を総括すると、クリエイティブな思考力、素早い行動力、リスクを恐れずに挑戦することができる精神、協調性、そして常に学習、成長していこうという姿勢である。BMIAとしても、こうしたイノベーター像をしっかりと理解した上で、イノベーター育成に取り組んでいく必要があると考えている。

ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事 小山龍介

株式会社ブルームコンセプト 代表取締役
名古屋商科大学ビジネススクール 准教授
京都芸術大学 非常勤講師
ビジネスモデル学会 プリンシパル
一般社団法人Japan Innovation Network フェロー

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、米国MBAを取得。松竹株式会社にて歌舞伎をテーマにした新規事業立ち上げに従事。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。メンバーの自発性を引き出す、確度の高いイノベーションプロセスに定評がある。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』で紹介したビジネスモデル・キャンバスは、多くの企業で新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。
2015年より名古屋商科大学ビジネススクール准教授。2014年には一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を立ち上げ、2020年からは亀岡市で芸術を使った地域活性化に取り組む一般社団法人きりぶえの立ち上げにも携わるなど、アートとビジネスの境界領域での実践を進めている。
著書に『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』などのハックシリーズ。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』など。著書20冊、累計50万部を超える。

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