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ビジネスにおける系統発生理解の重要性

生物学者のエルンスト・ヘッケルは、「個体発生は系統発生を繰り返す」ということを発見した。哺乳類は成長過程において、魚類になり、両生類になり、さらにそこから哺乳類へと成長する。母親の体内にいる幼生初期の哺乳類は、魚類や両生類と区別ができないのである。現代の生物を理解するためにも、過去のこうした進化の起源に遡ることは、重要なことなのである。

脊椎動物各群の発生過程(エルンスト・ヘッケルによる)
ジョージ・ロマ-ネスの1892年の著書『図解ダーウィニズム』に掲載

ビジネスにおいても同様のことが起こる。事業の成り立ちにおいて、最新の理論だけでなく、過去の理論が有用となる場面がでてくる。また、最新の理論を理解するためにも、その土台となった過去の理論を知っておくことは欠かせない。

この記事では、マーケティング理論の起源をさかのぼってみていきたい。そこには、現代のビジネスモデルを支える土台となるさまざまな考え方があることが分かるであろう。20世紀以降のマーケティングの発展の歴史は、以下のような主要なフェーズに分けられる。


  1. 初期マーケティング(1900年代〜1950年代)
    初期のマーケティングは、主に商品中心のアプローチで、生産性と効率を重視した。第二次世界大戦後には、需要が急増し、企業は生産を拡大することに注力することになる。この時代は、売り手市場と呼ばれ、マーケティングは主に販売促進や広告に焦点を当てていた。

  2. マーケティングコンセプトの登場(1960年代)
    顧客志向のマーケティングコンセプトが登場し、企業は顧客のニーズと要望に注目するようになった。これに伴い、マーケティングリサーチやセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングなどの概念が発展した。

  3. リレーションシップマーケティング(1980年代〜1990年代)
    競争が一層激化し、顧客維持と長期的な関係の構築が重要になった。リレーションシップマーケティングは、顧客との信頼関係を築くことに重点を置いた。

  4. デジタルマーケティング(1990年代〜現在)
    インターネットの普及に伴い、オンライン広告やEメールマーケティング、ソーシャルメディアマーケティングなど、デジタルマーケティングが急速に発展した。また、データ分析やマーケティングオートメーション、検索エンジン最適化(SEO)などの技術も登場した。

  5. パーソナライゼーション(2010年代〜現在)
    データ分析技術の進歩により、個々の顧客に合わせたパーソナライズされたマーケティングが可能になった。パーソナライゼーションは、顧客の関心や行動に基づいて独自のマーケティングメッセージやプロモーションを提供し、効果的な顧客エンゲージメントを実現した。


1960年代に登場するSTPの考え方は今でも有効である。また、最新のマーケティング理論を理解するためにも、過去のマーケティングの概念は欠かせない。さらにここでは、マーケティング理論の発展に伴い、ビジネスモデルがどのような影響を受けてきたかということについても整理しておこう。


  1. 初期マーケティング(1900年代〜1950年代)
    この時代のビジネスモデルは、生産中心のアプローチが主だった。企業は生産効率を追求し、大量生産・大量消費のビジネスモデルを採用した。戦後の需要増により、企業は供給を拡大することに焦点を当てた。この時代のビジネスモデルは、生産と販売を最大化することが目的だった。

  2. マーケティングコンセプトの登場(1960年代)
    顧客志向のマーケティングコンセプトが登場すると、ビジネスモデルは顧客のニーズと要望に応えることを重視するようになった。企業は差別化を追求し、競争優位を築くことが重要な要素となった。マーケティングコンセプトに少し遅れるかたちで、マイケル・ポーターのポジショニング戦略、バリューチェーンという概念が登場する。「ビジネスモデル」という言葉は使われなかったものの、独自のビジネスモデルによって競争優位を築くという議論が始まったのがこの頃だ。

  3. リレーションシップマーケティング(1980年代〜1990年代)
    リレーションシップマーケティングの時代には、顧客との長期的な関係を重視するビジネスモデルが主流となった。顧客満足度やロイヤルティを高めることにより、持続的な成長を追求するビジネスモデルが確立された。マーケティングコンセプトが、主に価値提案における差別化を目指し、ビジネスシステムの優位性を競い合っていたのに対し、この時代は顧客との関係性、ビジネスモデル・キャンバスで言えば右側のCRやCHについての議論が盛んに行われた時代である。

  4. デジタルマーケティング(1990年代〜現在)
    インターネットの普及により、オンラインビジネスモデルが登場した。eコマースやデジタル広告、SaaS(Software as a Service)など、新しいビジネスモデルが次々と誕生した。オンラインとオフラインの統合を重視したオムニチャネルのビジネスモデルが主流となり、企業は顧客の購買プロセス全体を最適化し、一貫性のある顧客体験を提供することを目指した。

  5. パーソナライゼーション(2010年代〜現在)
    パーソナライゼーションの時代には、個々の顧客に合わせたカスタマイズされたサービスや製品が求められるようになった。データ分析技術の進歩により、顧客の関心や行動に基づいたパーソナライズされたマーケティング活動が可能になり、顧客エンゲージメントの向上や顧客満足度の向上が期待された。それと同時に、こうしたパーソナライズを可能とするようなビジネスモデルが求められるようになった。これには、データ分析やAIを活用した新たなビジネスモデルも登場しはじめている。



もちろん、ここでの時代区分の整理はかなり事態を簡略化したものであり、実際にはもっと複雑な進化を遂げてきている。パーソナライズは、もっと過去にも行われてきただろうし、今でも大量生産・大量消費のビジネスモデルが有効な領域は多々ある(100円ショップなどを思い浮かべてもよいだろう)。しかし、こうした系統発生を理解しておくことで、個体発生、すなわち個別の企業の発展に対しても適切に対処できるのだ。

BMIA代表理事 小山龍介


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