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嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(6)

嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(5)の続きです


ソースの日々の活動

嘉村 ソースはみんなのものですよっていうなかで、最後に少しだけ。ソースの役割とか、ソースはなにをしてるのかをおさらい的な感じでお話しておきます。

みっつ、あります。ひとつは思い切ってリスクを取って踏み出す。当たり障りのないアイデアを適当な段階で始めるんじゃなくて、ちょっと怖いけどやるぞっていうところをやる行為。次の一歩、次の一歩、次の一歩って探求してやっていくこと。そして境界線です。「そこはちょっと立ち上げたものから越えてるから話し合おうぜ」っていうふうに境界線をきちんと引く。そこを緩めすぎると「ソースの怠け者」になってしまう。こういうこと[図11]をやるのがソースの日々です。それはプロジェクトもそうだし、みなさんの日々の人生ソースに関してもそうです。

具体的にはソースコンパスという指針もあります。左右列と縦列があるんですけど、さっき言ったように、基本、私たちは迷いのなかに居続けていて、直感ではなんかこっちのほうだとわかるんだけども、全体像が見えない。それをクリアにしようという努力が左右(CLARITY - DOUBT)です。もうひとつは、ちゃんと自分のなかで突き詰めていこうというTOP DOWNです。これは上から命令するという意味じゃなくて、自分のなかで突き詰める作業。これと、みんなの知恵を借りながら模索していこうよっていうこと、この両方やるのがソース役には大事ですよっていうことです。[図11]

図11「ソース原理の概要③ソースの役割とソースコンパス」

嘉村 実際になにをするかっていうと、次の一歩をどんどんリスニングする個人の作業から入って、ときに場をつくりながらみんなで対話する。そういうなかで、そんな観点もあるね、みたいなことを集合的に学び合うホスティングをするような場をつくるっていう意味ですね。

そうして、ある程度クリエイティブフィールドが明確になったときに、「この部分はあなたに任せる。サブソースでやってみなよ」っていうような感じでサブソースにシェアリングしていく段階があります。でもサブソース役も情熱、衝動を持って毎日やっていくので、境界線を越えたときには、「そこは越えてるかちょっと話し合おうぜ」って、ちゃんとクリエイティブフィールドが濁らないようにするっていうことをやり続ける。これがソースの役目です。

組織論的にいうと、レッド、アンバーのときって衝動で動いてるのがけっこう強かったんですね。ただみんなの意見は聞かない。だんだんとオレンジあたりで集合的知性が現れてきました。

ただ、グリーンになってみんなのことを大事にしすぎたせいで、意思決定スピードも下がるし、ソースの役割が軽んじられてしまうことによってグリーンの罠にはまっていった。メンバーの内発性は上がってるんですけど、どこにもいけないっていうグリーン。

図12「ソース原理の視点から発達段階を見ていく」

小山 おもしろいですね。内発性が高ければソースが現れそうな気がするんですけども。そうすると、内発性とソース原理はまた別の話になりますね。

嘉村 はい。そのなかで、ティール的なものっていうのは、創業者のソースも大事にするし、同時に一人ひとりが人生ソースのなかにつながって模索することも大事にするし、ときに対話もしながら集合知にも対応して、これがバランスよく活用されている。だから、イノベーションが生まれやすいのかなと思います。

というわけで、今日かなり盛りだくさんたくさんお話しさせていただきましたけど、テーマは「イノベーションが起こらない本当の理由を探る」ということで、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールの話をさせていただきながら、オレンジがなぜイノベーションを生み出しにくいのか、グリーンがなぜ生み出しにくいのか、その理由を探りました。
パーパス経営に関してあんまり触れなかったけど、でも少し出てきましたね。
そして、ソース原理入門としてたった「1人」の存在を意識しましょうということです。よく起こっているのは「不在」「暴君」「怠け者」という状態。
同時にアウターワークをすることでプロジェクトを進めようとするけど、実はそれでは効果がないことが多いので、インナーワークのほうに取り組んでいきましょう。
オーガナイジングしていくなかでサブソースをつくっていく。とはいえ、みんな人生のソースであるから対等なんだ。
最後に、ソース役の具体的なこととして「起業家」「ガイド役」「世話人」と、あとは境界線を引くというところのお話もさせていただきました。盛りだくさんでした。

小山 九時になりました。いったん、ここで一区切りとしましょう。

嘉村 七時間分くらい喋りました(笑)。

ソース継承の2つのパターン

小山 実はですね、ここからは延長戦、ということで、一応ここで終わりではあるんですが、まだ時間のある方はぜひ残っていただいて、続けていきたいと思います。質問ある方、ぜひ。オンラインではコメントいただいていて、それを適宜拾っていってたんですが、会場のみなさんの声も聞いてみたいと思います。

実はこのなかに、ソース的な人がいるんです。
ミッキー、ソース当事者として納得するところや、「いや、それは」っていうことがもしあれば。

宮木(ミッキー) 宮木と申します。いくつかのソースをやってるんですけど

嘉村 おぉ。ソースかけもち!

宮木 コニカミノルタっていう会社に、一年半前ぐらいに入って、おそらく自分がソースなんだろうな、っていうのも、周りのメンバーと本を題材に喋ってみて、そうだろうという感じになったのでいいかなと思うんですけど。

ことの起こりとしては、もともとあるプロジェクトがあって、個別にいろんな動きをしているメンバーがいて、なんら推進力がない状態でした。新規事業がなかなか生まれない状態だったんです。そこで、僕が入っていろいろやって、いまドライブしていい感じになってるという状況です。でももともとブロジェクトを起こしたメンバーもまだいるので、どっちがソースなんだ、みたい話を出張の帰りの新幹線でしたことがあって、こいつ(自分)じゃないかって話になったんですが、でも本当のところはどうなんだろう。

小山 不思議なのは、自分のプロジェクトじゃなかったわけですよね。転職して、たまたま配属になったところに既存のプロジェクトがあった。どうやって自分がソースとして、引き受ける覚悟ができたのか。そのあたり、どうなんですかね。

これ、けっこう、あるあるだと思うんですよ。プロジェクトに配属されて自分がはじめたわけじゃないけど、でも、あるタイミングで覚悟決めちゃえば自分がソースになるわけですよね。

宮木 個別にいくつか動いてたものを再統合して、新しい名前をつけて、より大きなビジョンにしたっていうのは、僕がやったことかなと思っています。

嘉村 立ち上げた人とはコミュニケーションとりました?

宮木 もちろんです、はい。コアメンバーというか。

嘉村 立ち上げコアメンバーのなかのソース役は明確ですか。

宮木 そうですね。それらがいま、サブソース化しているのかな。もともとあったソースを、より大きいソースが飲み込むみたいなことが起こりうるのかなとか、聞いてみたいです。

嘉村 二つパターンがあるような感じがします。ひとつはふつうにはじめに立ち上げたソース役から継承された。もうひとつは、たとえば、山のなかで古い屋久杉が倒れて、それを苗床にして新しい芽が出てくるみたいな感じで、一度ソース不在状況になったんだけども、でも歴史というか、いままでの顧客とかアイデアみたいなものがある。そういう素材を生かして、新しいイニシアチブとして立ち上がって、それがちゃんと求心力を持ってたから、みんながクリエイトフィールドに集まったっていうことか。

前のソースが継承されたのか、素材を生かした新しいイニシアチブなのか、どっちかに見えますけどね。

小山 後者に見えますね。すごく重要なのは、もともとあったものを統合して「自分で名前をつけた」ことですよね。そのあたりのプロセスに、自分が自分ごととしてソースとしてつながっていく感じがあったということでしょう。

私は、自分がサポート役なので、そういう立場になったときにどういうことをやるかっていうと、客観的に見て「こうやったら立ち上がるんじゃないの」っていう、そのプロセスを示してこういう段取りでやりましょうみたいな、そういうことをやりがちなんです

嘉村 はい。

小山 でもこれはうまくいかないですよ。どこか自分ごとじゃないし、結局ソースがいない状態で、段取りだけがあってもやっぱうまくいかないわけですよね。

嘉村 さっき言った、ソースがいなくて事業責任者がいるだけのところにコンサルが入っても、結局うまくいかない。

小山 うまくいかないです。いまのお話にすごく大きなヒントがあるなという気がしましたね。

それはやっぱり、転職したから引き受けざるを得なかったっていうことですか。そういうことでもない?

宮木 組織上のグループリーダーだったので、そのメンバーは率いなきゃいけない。メンバーは個々にいろいろやっておる。という状況だったので、みんなでひとつの大きいビジョンをつくろうみたいなところが入り口だったんですけど。

さっきのお話聞いてて「あるある」だなと思ったのは、私もなにか「あ、これ大きくいきそうだな」っていう確信があるんですよ。でも、きれいなロードマップが引けるわけじゃなくて、むしろやりながらあっちだね、こっちだよねっていう感じでやってるんですけど、ただ「間違ってないとだけわかる」みたいな瞬間がすごく多くて。

小山 なるほど。「これは間違ってる」もわかるわけですね?

宮木 そう、そうです。「それ違うよ」っていうのも、だからけっこうやってるんです。境界線引くのも。「似たような活動に見えるけどそれ違うから」っていうのはちゃんとやっていて。だから、ふだんやってることが、いますごく整理されたというか、あぁこういう役割だったんだなって、めちゃくちゃ自己肯定感上がりました(笑)。

嘉村 物語の共有ってやっぱり大事で、呼ばれてる場が、講演会なのかホームパーティーなのか政治資金パーティーなのか合コンなのかわからずに「いまから楽しんでください」って言われても、やっぱ楽しめないわけですね。

ホームパーティーって言われたら、じゃあ自分は得意だからたこ焼き焼いとこうか、とか思えるし。物語をちゃんと共有する、境界線を引くという行動をしないと物語はクリアにならないです。みんなも自律的には動かないですしね。

簒奪者を生んでしまうグローバルソース不全

小山 もうひとり、この人がソース役であることは間違いないんですけれども、けっこう破壊的なアプローチをとる人がいて(笑)

嘉村 暴君かもしれないですね

小山 かもしれないです。ということで、まだなにも言ってないけど、いまマイクがその人のところにいきましたね(笑)。三宅さん、お願いします。

三宅 某NTTの研究所系の会社にいる三宅と申します。僕は自分の組織には暴君ではないんですよ。私の外部に対してちょっと暴君なんですね。これも理由があるんですけど。三〇のときに特許発明をして、商品つくってグローバルビジネスに成功したんですよ。そのあと左遷されまして、それから何度となく会社から出ていけ攻撃を受けつつ、マーケティングの組織をつくって、かれこれもう七、八年経つんです。

それからも、常務から「あいつんとこ叩き潰せ」とか、とにかくあいつを抹殺しろみたいな秘密の命令が出るんですよ、社内に。

私はいま、なにをやってるかっていうと、情報基盤を入れて、ぶつ切りになった縦割り組織とか個人をつなぎ合わせて、マーケティングセールスとかイノベーションが起こりやすいような組織のつくり直しをやってるんですよね。

こういうことを縦割り組織でやったときに、なぜこんなに暗殺命令が止まないのか、このメカニズムがよくわかんないですよ。

結局、若干外に対しては攻撃的になったりとか、徒党を組んだりとか、同盟を結んだりとか、いろんなことやんなきゃいけなくて……、楽しいんです。楽しいんですけど、どうしてソースを潰そうとするメカニズムが会社自体に宿ってしまっているのか。なにか答えがあるとうれしいなと思ってます。

小山 ちょっと補足すると、なので、三宅さんのソースは純粋かと言われると、ちょっと濁ってる(笑)。あのときの復讐、みたいな。

三宅 そうですね。ちょっと邪悪なソースなんですね(笑)。

小山 非常に攻撃的な部分もあると。でも、結局それがすごい推進力になってプロジェクトが動いていて、全社的にマーケティングを統合して大きく変わろうとしている。だから明らかにグローバルソースを大きく変えているんですよね。反骨精神とか、そういうソースから物事が動いていくっていうのはどういうことなんでしょう。

嘉村 すごく単純に言うと、組織全体のグローバルソースが機能してないから、これが起こる。

組織全体のグローバルソースが機能していて、物語がちゃんと共有されてたら、それにふさわしい動きをしてる人がそんなにバトルをしなくても動けるようになるはずです。ソースの簒奪者、ソースの奪い合いとか、政治ゲームとか生まれていくのは、基本的には全体のクリエイティブフィールドのグローバルソースが発信できてないからだっていうことがありますね。要は、ソース役が不在なフィールドのなかで、いろんな違う物語を持ったソース役たちがバトルしてるってことが起こっちゃっている。

小山 どこかがグローバルソースの地位を狙うみたいな感じになっちゃってる。

三宅 そうですね。私はグローバルソースになろうとしてます(会場笑)。

嘉村 あははは。こういうことが起こりやすい。

三宅 本当に長い戦いなんですよ。二〇年ぐらいやってるんで。話し始めると長くなってしまうんですが、これもまた物語なんです。

小山 この物語を語る三宅さんの口調が、やっぱり人を引き込むというところがあって、そこがやっぱりソースとしての存在感にもつながってるんだろうなって。

嘉村 そうですね。

三宅 大学から講師の依頼が来るので、こんな話をしてしまっているっていうのが、またいいのかな? って思いながら、楽しくやってます。

サブソースとしての可能性に賭ける

参加者 今日のテーマは、「日本企業でイノベーションが起こらない本当の理由を探る」ですけど、結局、端的に、起こらない理由はなにか、教えてください。

たとえば優良なソースが圧倒的に不足しているのが課題なのか、あるいはソース役の人の深い内省が足りないといったことなのか、あるいは、採用慣行、人材の流動性が欠けてる、あるいはマネジメント、あるいはオレンジとかグリーンな組織が多すぎることが要因なのか。結局、端的に言うとなんなんでしょうか。

小山 賢州さんのお答えの前にまず私からお答えすると、私がいろんな企業に関わってて思うのが、オーガナイゼーションを前提に動いてる人がやっぱり多いこと。

でも、サブソースとして会社を変えられるっていうその可能性に、もうちょっと賭けたほうがいいんじゃないか。オーガナイジングですね。全体は変わらなくても一部門だけちょっとおもしろい動きをするとかっていうのは、私がいろんな会社を見ているなかでも、ありうるんです。可能性としては。もちろん三宅さんのようにグローバルソースの奪い合いみたいなことも起こりうるけれども、オーガナイゼーションを前提とせずに、オーガナイジングしていく、一社員がサブソースになって動くこと、そういう意識を持つことはすごく重要だという話です。

もうひとつは、やっぱり、グローバルソース不在。グローバルソース主権争いが起こりうるとすると、それは、企業のなかにグローバルソースが不在だという日本企業の問題が大きいなと思います。いまのパーパス経営のブームの問題点は、そこにソースの観点がない、きれいごとのパーパスであって、だれにも響かない。パーパスが設定されて、個人のパーパスも書かされるんだけど、だれも納得してない、みたいなことが起こっている。もうちょっと、ソースという観点からグローバルソースを再度発掘し、それを受け継ぐ人がだれであって、どういうことであるかということを日本企業はやるべき。それは、たとえば韓国や中国の企業、いま勃興している創業者が生きている会社に対して弱いところなのかな。この二つを強調したいなと思います。

嘉村 ほぼ同じことを言おうとしていました。ひとつはやっぱり、大企業にグローバルソースがいない。サラリーマン経営者になってしまっていて、いわゆる秀才的な数値マネジメントが得意な人が出世しながらボードメンバーになり、そのなかから経営者が選ばれるっていうなかで、株主とか役員会とかっていうステークホルダーとの調整業務になってきている。しかも経営会議が、フレデリック・ラルーの言葉で言うと、「最大化と存続の話が多くなってしまっている」。この世にどんな価値を提供するのかっていう話であるべきなのに、存続と最大化の話になってしまっている。どの物語をつくっていくのかっていう、グローバルソースが生まれにくい構造になっていることが一点。

もうひとつが、それができないにしても、社内組織から小さなソース役が活躍しやすい土壌をつくってあげるっていうことはできるかもしれない。それがどうしてもそこに説明責任を高度に設けたりとか、ある程度失敗を許容するような土壌、チャレンジできる環境づくりができないままで、安定志向に走っちゃってるケースも多いのかなと思いますね。

小山 言い方としては会社が悪い、組織が悪いって、聞きようによってはそうなるんだけれども、たとえ平社員であっても、実は会社が本来持っているべきグローバルソースに気づくことはできるんですね。だからどんな立場であっても、グローバルソースに意識を向けるべきであって、それを感じとりましょうっていうメッセージを送りたい。

それと、もうひとつ、自分がサブソースになって活躍できる場所っていうのは、それこそ、料理を始めるとか、野球の練習を始めるだとかのレベルからソースだっていうことを考えれば、多分いろんな場面でソースになれる。そうやって草の根でクリエイティブフィールドをつくっていくということが、ちょっと時間かかりますけども、長期的になにかを変えてくものになるのかな。

フォーカスするのは自分の人生

参加者 お二方とも経営者の問題を指摘されたと思うんですけど、大企業を中心に経営者の評価のひとつとして、株価など、利益をどれぐらい上げてるかが評価指標になります。少なくとも多くの大企業は近年、イノベーションが起きないなかでも、利益としては過去最大収益を上げているような企業が多く、ある意味で経営者としてのミッションのひとつは達成してるっていう言い方もできなくはないと思うんですよね。イノベーションを起こしてないけれども、利益を上げている。どうやったらそういう経営者は淘汰されていくかを知りたいんですけど、どのようにお考えでしょうか?

小山 それはもう外部環境なので、コントロール不可能ですよね。だから自分がどうしてもそうせざるを得ない、というソースに立ち返って、その企業のグローバルソースを自分なりに感じ取って動くことしか、社員としてはできないと思うんですね。

重要なのは、「それでもなお、やらざるを得ない。もう、そうじゃなきゃ自分が生きる意味がない」って、自分が思えるかどうかだと思うんですよ。そういう社長になるのを待つっていうのは、悪手だと思いますね。いろんな条件が揃ってそういう瞬間が来るかもしれないけれども、そのときに他人頼みというか、自分のソースとつながってないと、結局、自分の人生が生き生きしてこないので、むしろそっちのほうにフォーカスを向けたほうがいいのかなと感じました。

嘉村 本当にそれ大事ですよね。教育自体も二周遅れ、三周遅れで、オレンジパラダイム、グリーンパラダイムで活躍できるような人材育成になってしまっている。教育自体が、外的に、こうやったら会社にハマれるとか、会社で雇ってもらえるとかじゃなくて、私は何者だ、Who am I? を感じて、自分としてこれを表現しながら生きていきたいっていうソースとつながれるような時間をつくることをしなければ。世の中にソース的なベンチャー企業とかが増えていくなかで、影響を与えながら大きいものがつくれていくっていうのを草の根でやっていくのが、大きな一歩だろうなっていう感じ。

小山 そうですね。変えられるものと変えられないもの、コントロールできるもの、できないもの、ありますよね。エフェクチュエーションの議論で、「飛行機中のパイロット」という原則があって、自分がコントロールできる要素をコントロールし、コントロールできない(嵐とか)は、もうしょうがないと、受け入れる必要がある、という議論があります。

もうひとつ、教育の話でいうと、エマニュエル・トッドっていうフランスの文化人類学者、人口統計学者が言ってるのは、まず、経済的な状況についていうと、たとえば戦後アメリカが勃興し、これが、五〇年ぐらいで変わるんです。いま、中国が台頭してきている。五〇年ごとに表層的なことが変わる。これとは別に、その意識下にあるもののひとつに教育レベルがあって、われわれがいまやってることって、産業革命の時代からのもので、これは五〇〇年で一回りするんだと。つまり一〇倍の時間的な差があって、これはそうそう変わらない。

さらに無意識っていうのがあって、これが五〇〇年からさらに一〇倍で、五〇〇〇年経たないと変わらない。エマニュエル・トッドは、家族形態を議論するんですけども、家族形態から積み重なってる、五〇〇〇年のタームで変わっていくようなもので、なかなか無意識のところは変わらないんだみたいな議論を、三層(表層、意識下、無意識)に分けてやっています。

なので変えられるものと、ちょっともう変わらないだろうなというものをうまく整理しておかないと。自分の人生だって五〇〇年も続かないですからね。この諸条件のなかで、なにをやるかを考えるっていうことなのかなと思います。

(7)に続く


嘉村賢州 
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
令三社取締役
「ティール組織(英治出版)」解説者
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。2022年10月に英治出版より『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』を翻訳出版。

小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。

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