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セブン&アイは買収されるべきか

北米でサークルKなどを展開するカナダのアリマンタシォン・クシュタール(以下「クシュタール」)が、セブン&アイ・ホールディングス(以下、「セブン&アイ」)に買収案を提示した。買収規模は380億円(5兆円)というコンビニ業界では最大規模のM&Aとなる。このニュースを一度、整理しておきたい。

まず注目されたのが、株主資本利益率(ROE)の圧倒的な差だ。クシュタールが21.2%であるのに対し、セブン&アイは5.6%と、差は歴然としている。このような差が生まれている理由はさまざまな要因があるが、そのひとつがスーパー事業、百貨店事業の低収益問題である。

イトーヨーカ堂やそごう・西武は長年、低い利益率に悩まされており、イトーヨーカ堂は、123店舗中33店舗の閉鎖を決めた。また、昨年9月には、百貨店事業を投資ファンドに売却した。こうした動きは、主要株主であるアメリカのアクティビストファンド・バリューアクトのプレッシャーによるところも大きい。

一方で、クシュタールの高いROEはどのように実現できているのだろうか。ひとつは、そのビジネスモデルにある。ガソリンスタンドとコンビニをセットで運営しており、売上の7割がガソリンなどの燃料からだという。コンビニ単独ではなくガソリンスタンドとのシナジーによって、収益性を高めているのだ。

その結果、店舗数としては、セブン&アイは8.4万に対して、クシュタールの1.7万たらずと、ほぼ5倍の差があるが、売上高はセブン&アイ11.4兆円に対して、クシュタールは10兆円と、ほぼ拮抗している。

ここでは、買収に絡むファイナンス的な観点の議論や、独立社外取締役による提案の評価プロセスではなく、単純にビジネスモデルだけの観点から見ておきたい。セブン&アイは、コンビニ事業により資源を集中させて収益性を高める必要がある一方で、そのコンビニについていえば、さらなるシナジーを求める必要があるのではないか。現状、食・日用品の小売業に頼りすぎているのである。

長年、セブンイレブン1店舗あたりの売上は、一日70万円前後である。これはもちろん、ローソンやファミリーマートの55万円に比べ優秀な数字ではあるが、このままでは大きな飛躍は期待できない。

すでにコンビニは、生活の重要なインフラとしての役割を果たしているが、そのリソースを活かしながらさらなる飛躍をするにはどうすべきか。セブン&アイはドミナント出店による店舗集中を活かして、商品の宅配サービス「セブンNOW」を導入しているが、これは新しいビジネスモデルを模索する動きのひとつと言えるだろう。当面、利益貢献は難しいだろうが、新しいコンビニのかたち、ビジネスモデルの可能性がそこにはあるだろう。

そう考えると、セブン&アイが買収されるとしたら、同業ではなく、ローソンがそうであったように異業種の参入が望ましいのではないか。KDDIがローソンをどのように今後、活用していくかは未知数ではあるが、そうした新しい時代のシナジーがセブン&アイを飛躍させるのかもしれない。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授


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