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『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ (著), 友廣純 (翻訳)

自然。人類はいまだ、これに手を焼いている。
テレワークだのDXだの言ってるこの世の中で、雨の日に靴下を濡らさずにいられる者はどれほどいるだろうか?
と思えば、晴れの日が続いての雨模様は我々の気分を不思議に高めてくれる。
他の例を挙げると、季節ごとに姿を変える植物などを好む人々は多いし、我々から切っても切り離せず、災いと癒しの両方をもたらすことには疑いがない。

この二面性は、「人間関係」についても言えるのではないだろうか。
恩恵をもたらすこともあれば、火傷させられることもあるのは皆さんもご存知だろう。(私は火傷ばかりである)

本書のテーマは上記の二つである。

1960's後半のノース・カロライナの自然豊かな湿地帯が舞台ということで、かなりとっつきにくいと読む前の私は思っていたが、テーマが自然と孤独(人間関係)ということで、かなり普遍性があり入り込みやすい。
また、自然と本文中に説明が織り交ぜられているので作品の舞台について予備知識がなくとも読むことができる。

登場人物については、主人公であるカイアは6歳で家族が出ていってしまった(原因は父親による暴力、もちろんまともに働いてはいない)湿地の小屋で、一人暮らすことになったのだが、その経験からかどうしても他人になかなか心が開けない。
それでも彼女に読み書きを教えた利発な少年、テイトと仲睦まじくなるも彼は離れていき、ますます彼女は心を閉ざすのである。そのような場面での心理描写は共感能力に乏しい私でもブルーにさせたほどである。(俺、他人が怖いよ。みんなもそうだろ?)

…そして大体「他人に裏切られイベント」が発生すればカイアを癒すのは湿地の豊かな自然に触れること、というのがお約束である(自然のもつ「二面性」によって痛い目にももちろん遭うが)。

このように孤独になり、トウモロコシ粥くらいしか食べられない境遇となった彼女であるが、それでも生きていこうとする姿もまたいい。
そして、孤独な人間というのは個性あふれるものである。他人とは違うことをしなければならないから。
彼女も例に漏れず、湿地については右に出るものはいないほど詳しくなり、やがて本を出版しそこそこの資金を得るまでになる。
そのサクセスストーリーも人を惹きつけるのであろう。

自然描写については、私は中学校の全校生徒が30人ほどの限界集落育ちなので、雨の匂いや、風で山々の葉が擦れる音などを思い出しながら読むことができた。
たとえCity育ちの方でも緑の多い公園に行くのが好きならお勧めしたい。

私の地元


 冒頭の話に戻ると、本書にもしっかり「二面性」があってそれが本書を単なる『自然に囲まれての成長物語』ではなくしている。
実はミステリーの側面もある。
序盤からカイアの物語と交互に、村で起こった殺人事件(転落事故の可能性もある)を捜査する保安官達の姿も挿入される。
最初はカイアちゃんと何の関係があるのかよくわからないのであるが、実は事件の被害者と彼女には関係があり、捜査の手が彼女に伸びる。

カイアちゃんは他の人々が住む村からは少し離れた湿地に住んでおり、「湿地の少女」などという嘲りを含んだ異名があるくらいで、村での評判はまったく良いものではない(小学校すら1日しか行っていない)。
そんな彼女が、陪審員制(当然村人の中から選ばれる)を敷くアメリカの裁判でどうなるのかもまた引き込まれるポイントである。

孤独でも精一杯生きる「湿地の少女」と、その周囲との出会いと離別…孤独。
さらにはミステリー、法廷シーンなど盛り沢山な本書。

当然引き込まれるポイントは多いのだが、文章自体も
平穏な描写が続いたと思ったら、だめ父親が暴れたり悪い男が暴れたりするので退屈しない(決して男が暴れるだけの小説ではない)。各章は大体いいところで終わるし。

500pほど、カイアが住まう湿地の先にある、
海のような荒波を乗り越えればサプライズにあなたは包まれてしまうこと請け合いである。
ネタバレになってしまうためあまり詳しくは書けないが、結末でカイア自身の「二面性」が顔を出すというか…

まあ、女性には二面性があるのは当然ということで
とりあえず読んでみるのをおすすめする。

ただ…最後まで油断は禁物である。

では。

おすすめ動画など


https://www.youtube.com/watch?v=UGcsIR59Tj0

https://www.youtube.com/watch?v=BluND0uM4Is


何かに使いますよ ナニかに