対岸

僕がなりたかったものは
いったいなんだったんだろう

傍らにある積まれたままの本
デザインを気に入って買ったままのアンダーウェア
言葉を書こうとして大量に買ったままのルーズリーフ
置き去りにされたままで今日(こんにち)に至る

人に追いついていないことが
ずっとコンプレックスだった
人と違う自分のことを
恥ずかしく思っていた

敷かれたレールの上から
絶対に逸れるなと強く言われ
ほんの少しでも逸れようものなら
自分をこれでもかと強く否定された

ふつうを強要される中で
ふつうになどなりたくなかった
けれど僕が今なろうとしているものは
人と同じようなふつうだった

人より頭が良くないから
たくさんの本を買ってしまう
人より遅れたくないから
筋違いのアンダーウェアを買ってしまう

詩や文章をたくさん書けるはずと思い
ルーズリーフをたくさん買ったけど
一が百に聞こえる心無い声に屈して書けない時間が続いた
書いても読まれなければ意味がないように

見た目だけでも良くなろうと思って
スポーツクラブに行っていたこともあった
けれどそれって自分のためというよりも
ただ媚びたかっただけな悲しき承認欲求だった

ヒリヒリするよ
背中のあたりがヒリヒリするよ
でも手が届かなくてもどかしい
時間はどんどん過ぎていく

今ある現実はあまりにも
自分に言われているような気がする
置かれている状況は
自分にとってあまりにも屈辱的だ

だからといってこのままで良いわけもなく
自分にできることはやっているけれど
ちっぽけだから誰も振り向かないし
弱小だから誰にも声が掛からない

生まれ持ったものに継ぎ足ししても
どんなに時間を削っても
あまりにもあまりにも足りなさすぎて
今のこの境遇を少なからず憎んでいる

僕は間違ったんだろうな
自分と時代の運の無さと選択したモノのセンスの無さを
そして今はちょっとだけ笑って
日々の仕事で忘れようとしている

今からでも遅くはないって
何度も何度も言われたけれど
今の僕に僕以上のモンスターを倒せる力が
どれくらい残っているだろう

そしてどこにも飛び込めなかった僕は
輝いた対岸を見つめている
なんにもなれなかった僕は
光が射す対岸をただただ見つめている

何にでもなれる気がしていた
あの頃にはもう戻れない
産まれる時間があと少し遅かったら
何かが変わっていたのかな

だから僕も対岸の向こう側に居たかった
さぞかし気持ち良いところなのだろう
そこに自分が居ないのは
振り切れずにふつうに屈してしまったからだ

対岸を睨んだところで
何も変わることはないけれど
ふつうは越えなければいけなかった
今も背中のあたりがヒリヒリするよ

僕がなりたかったものは
いったいなんだったんだろう

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