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凡慮、運河に釣行す #1

 朝食を食べて装備を整え、自転車に乗って家を出発したのは11時すこし前だった。
 今日は回り道をせず目的地まで最短のルートをゆく。昨日までの天気予報では晴れるが青天の霹靂の可能性もありとの話だったが、春らしく霞んだ空、行楽日和そのものである。あっさりと到着して、自転車を停めたすぐ前を初陣の場と定める。悩んだところで経験値はゼロなのだ。まずは竿を構えることに馴れること。周囲に先達の姿もあるので全くの見当違いということはないだろう。

 竿に仕掛けをセットし終わったのが11時40分頃。今回は主にハゼを狙う「ちょい投げ釣り」なのだが、いざ竿を振っても仕掛けが全く飛んでいかない。何度か試みるも足場から3mほどの場所に不格好に落ちていく。スマートフォンで検索しあらためて投げのフォームを確認。今度は8mほど気持ち良く飛んでいった。と思ったのだが、仕掛けが外れた。仕掛けだけが水没した。
 虚脱感。どうやらメインの糸と仕掛けとの結び方が不十分だったようだ。金属製のおもりはともかく、針とナイロンの糸を水没させてしまったのが申し訳ない。しかしこの程度で終わってもいられない。別の仕掛けを今度は丁寧に繋げて再試行する。

 今度はどうにか釣りらしく、リールから糸を滑らせながら仕掛けは水面に飛んでいった。
 しかしまたここからの紆余曲折が長い。まずこの「ちょい投げ釣り」は水底におもりを引きずりながら魚を誘うのだが、どれくらいのペースで竿を引きリールを巻けばいいのか。竿を振る時も、足場を確認し三度も振り返りリールを緩めてまた振り返ってから投げる。さらには『根がかり』の恐怖。この「ちょい投げ釣り」の宿業なのだが、針が水底の構造に引っ掛かって動かなくなるのだ。

 根がかりする度に、仕掛けを諦めねばならない絶望が湧く。しかし複数サイトの対処法には「竿に負荷がかからない角度で糸が切れるまで引っ張る」とある。いずれ仕掛けを諦めるにせよ糸は切らねばならないのだ、弾け切れるのを覚悟でひたすら糸を引っ張った。すると不思議なことにひっかかりが外れてしかけを巻き上げられるようになる。この程度で恐れるなということか。
 風が強い。風に仕掛けがあおられる。まだ葉の柔らかい木々が海鳴りのように鳴っていた。
 案の定ながら今日の釣果はゼロ。唯一釣り上げたのは最初の根がかりで引き上げた「梅干しの種」のみである。

 空腹感に限界を感じ14時で撤収を開始。こういう時に麦茶と“おにぎり”でもあれば楽しいのだろうが。周囲に落ちていた先達のテグスを2本ほど拾って、跡を濁さぬよう撤退。まずは投げることに馴れる、釣果はそのもっと後だ。



今日の英語:First try


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