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息子とレゴリラな旅 そのよん

酒に酔って楽しく一日を〆る…ことが出来たらどんなに良かっただろうか、と思うのはそうはならなかったがゆえ。初回の記事で自分の旅行への姿勢を冒頭に述べたが、その事について夫と軽いディベート勃発。

明日はいよいよ動物園に行こうという話をしたのだが、時間が余り次第水族館にも足を延ばそうと企んでいたのをそのままに子どもに伝えようとしたところ『余計なことを言うな』といなされたのが事のキッカケ。夫曰く「予定通りにいかないんだから(水族館に行こうなどという)余計な入れ知恵をして叶わなかったときの喪失感で一日を締めくくるな」というわけである。

それもそうなのだが、旅の予定は事前に夫婦間でチェックして伝えてあり、こちらが再度確認した際には何も言われなかったので互いに旅の流れを把握している(おおよその流れは紙に書いて渡して目でも確認してもらってもいる)と思っていた矢先、矢継ぎ早に「明日はどうするんだっけ」「何時に起きとけばいいん」「何時からオープンやっけ」などと質問を繰り出された直後では疑心と酒と疲労感で思考停止してしまい、もやもやとした怒りだけが燻ぶり咄嗟に声を荒げてしまった。

幸い夜中の十二時に大浴場が閉まってしまうため、閑話休題してそちらに向かう支度をする。先に眠っている息子の隣に腰を下ろした夫はそのままベッドに体を横たえた。

子どもの頃からよく銭湯に連れて行ってもらった自分は銭湯という空間がたまらなく好きだ。身体の汚れをきれいさっぱりと洗い流した後、羽を伸ばすようにゆったりと湯に浸かるのがまた至福の極み。旅行では露天風呂などをよく楽しんだが、子どもが生まれてからはめっきりご無沙汰だった。こんな機会は滅多にないぞ!と意気込み、はやる気持ちを抑えながら女湯へ足を延ばす。すべてを終えて部屋に戻り、書き物をして床に就くころには2時を回っていた。

翌朝6時には起床し、再び朝風呂へと勇み足を延ばす。鏡を覗けば疲労と寝不足とアルコールで多大に浮腫んでいる自分の顔がそこに映っていた。少し熱めの湯に浸かり心身共に温まると、血流が良くなり閉じていた眼も開く感じがする。部屋に戻り一足先に支度を済ました。目は覚めたけどまだ眠いなーを幾ばくか繰り返した息子は予定より一時間遅れて起床。二日目の朝も喫茶店へと繰り出す予定ではあったが、昨夜買い込んだ食料が多少なりとも残っていたので諦めて部屋で朝食をとった。

チェックアウトして乗り込んだ電車は平日のため当然ながら満員。なるべく身体を薄くしながら、子どもを抱えて人と人の合間にそっと乗り込む。幸いすぐ席が空いたので息子を膝に乗せて座った。

いざ行かん、東山動植物園…!待ってろシャバーニ……!!!

動物園最寄りの駅にありがちだが、構内の壁一面に鑑賞することが出来る動物のイラストが描かれている。つまりワクワクは駅の構内から始まっており、園までの道中何が見れるかな、などと想像を膨らましながら闊歩するのもまた一興。到着してすぐ暑いと思った我々はキャリー共々アウターをロッカーにインし、身軽な状態で一歩を踏み出した。

インドサイやゾウと大型の動物が続く。近くのショップに足を運ぶと目当てだったシャバーニのぬいぐるみがそこに鎮座していた。思わず息をのみそっと手を伸ばすと、なんと柔らかくフワフワでスベスベなのだろう…指を滑らせて肌触りを一度楽しむともう手が離せなくなった。これはもう買う、今買う。今買ったら園内を持ち運ぶことになり荷物になるし大変邪魔だろうと推測するがそんなことはどうでもよかった。シャバーニがこの腕の中にいるぞ!という事実、ただそれだけで心が躍った。

様々な動物が見られる動物園。人間と同じように、否同じ生き物として、この世に生を受け、また歳月を重ね死に向かう。それぞれの園に特色があり、動物のみならずそういった人側の関わり方に目を向けられるようになったのは私自身が子どもではなくなったことの証かもしれない。

弱った足腰、腰椎の変形によるふらつきの為歩くことが少なくなった、老いた猛獣に言及していた一枚の張り紙の前でそんなことを思った。もちろん息子は父と共にそんな母を置いてすでにどこかに消えていた。ちったあ待っておくれよ……

ゴリラドッグを頬張る小休止を挟んでレッサーパンダ、スマトラトラ、オラウータン、そして息子本命のホッキョクグマなどを見て回った。赤や橙に染まった葉がはらはらと風に揺られては水面へ落ちる。図らずも紅葉をも楽しむことが出来た。

ようやく我が本命のニシゴリラ舎へ。さすがの人気者で人だかりが多く、うまく見えない。シルバーバックの顔が整ったやつ…という情報だけを頼りに顔を見比べてみたが案外すぐに分かった。なるほどイケメンね…!シャバーニはファンサを繰り出すアイドルの如く、右へ左へ移動しては腰をつけてネギを食んだ。セロリには見向きもせず。ネギが好きなのね!きゅん!…と母が同じ霊長目仲間の初会いを喜んでいる間、既に飽きた息子は父の双肩に跨りユーチューブを眺めていた。

世界のめだか館を観て廻り、東山スカイタワーを訪れるべく階段を上がる。キャッキャッと楽しそうに上へ上へと真っ先に上がっていく息子。それまで凡庸に見えた息子の様子はこの時なぜか最も輝いて見えた。

つづく

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