佐野元春 & ザ・コヨーテバンド『2024年初夏、Zepp Tourで逢いましょう』Zepp Nagoya 2024.06.23.
僕が観た愛知公演から既に1ヶ月ほどが経ち、8月の追加公演も残っているが、元春とコヨーテバンドのZepp Tourが無事に完走した。
DaisyMusic広報によれば、『今、何処』に伴うツアー後に「佐野元春クラシックスの再定義」のテーマでレコーディングを開始。より「今」に響く楽曲としてのリ・レコーディングという取り組みとのこと。そして今回のZeppツアーにあわせて、そこで生まれた「Youngbloods (New Recording 2024)」が先行配信リリースされた。
元春はこれまでもセルフ・カヴァー作が多いので、たとえ " 再定義 " や " より「今」に響く楽曲として " のテーマがあったとしても、僕自身は新鮮さを感じられなかったのは否めない。そんな中で僕が期待するのはただひとつ。コヨーテバンドの音である。再定義された楽曲が作品として発表されるのならば、この1点において楽しみに待ちたい。
Zeppツアーのテーマが開始時に発表されていたわけではなかったが、こうした流れから、誰もが自然に「佐野元春クラシックスの再定義」がテーマのツアーと感じていたに違いない。ただし、セルフ・カヴァーのみでセット・リストが組まれることはないだろうから、数曲が披露される程度の認識で足を運んだし、それは間違いではなかった。
オープニングは「君をさがしている」。歌詞が歌い出されてから何の曲かを理解できる(それでもしばらく曲がわからない人はいたかもしれない)という、オリジナルとはまったく異なる演奏。最初から " 再定義 " が実践されたわけだが、実は2015年のコヨーテバンドのライヴで、既にこのアレンジで披露されている。このときはヘヴィなディストーションをフィーチャーしたギター・バンドのライヴ・ヴァージョンとして僕は聴いたので、驚きと共に、これこそが元春が本来コヨーテバンドで演りたい音なのか…と感動した覚えがある。上手く言えないが、言葉にすると僕の体感としてはロックン・ロールではなくロックであり、これを今後はライヴの場で聴かせてくれるんだ…と期待させてくれた音をコヨーテバンドは10年ほど前に出していたのだが、しかし、これ以降は影を潜めた。もしかしたらいちどくらいは聴けたかもしれない。それでも、この音は消えた。その音が今、復活したということは、元春とバンドも再定義に相応しい音として認識していたということなのだろうか。
「君をさがしている」に続き、オリジナルとアレンジが異なる、数曲のいわゆる元春クラシックスが演奏され、セット・リストの前半に再定義曲が固められたわけだが、大きく変わっていて楽しめたのは「欲望」、そしてポリス的なギターが印象的だった「インディビジュアリスト」くらい。特に「ジュジュ」には必然性をまったく感じることができなかったのが残念。再定義の意味はファン個々で感じることが違うと思うので難しい。特に元春クラシックスともなれば思い入れも様々だろうから受け取り方も当然それに比例する。僕自身は、たとえば「君をさがしている」の音こそがギター2本のコヨーテバンドに相応しいと感じているので、クラシックスの再定義で使うのではなく、新曲で出すべき音だと思うのだ。だって、こんな僕の希望に近い音が実際にあるからだ。『MANIJU』だ。あのカラフルでハードかつポップ、そしてヘヴィさとナイーヴさも備えた音こそコヨーテバンドであると信じてやまない。
ライヴ自体にネガティヴな感想を持ったかと言えば、それはまったく違う。再定義ではない元春クラシックスの連発になったアンコールのロックン・ロールもまたコヨーテバンドの魅力。本編後半のたたみかける構成は興奮させられたし、全体的にギター・ソロの比重も増したと感じた。現編成のライヴで僕が聴きたかったバンド・サウンドに間違いなくなってきたのが嬉しかった。
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