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奇跡の欠片たち

10年前の3月12日に、妹の成人式の前撮りをした。

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妹は成人式の前撮りのために、わたしは大学を休学し療養中だったため11日は家族全員が「実家」に揃っていた。

一度目の大きな揺れがおさまった後、妹とわたしはすぐ一階におりて居間のテレビの前に座った。震える手を繋ぎながら、報道から目が離せなかった。

遠方に住む友人たちからの「無事?」というLINEに返信できたのは、夜になってからだった。充電の心配もあったが、そこまで被害が深刻でない状況下で回線を使うことを控えたかったからだ。

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「当たり前の日常」なんてないことを目の当たりにしたからこそ、延期せず翌日前撮りをした。今を残しておきたいと、家族みんなが思ったから。

紺地に桃色の花柄の振袖は、母から受け継いだものだった。写真を撮られることも着飾ることも好まない妹に、何とか写真だけでもと。

姉の贔屓目をなしにしても、美しい振袖姿だった。とてもよく似合っていた。

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ふたり姉妹なので、妹は末っ子だ。だから、いつまで経っても何歳になっても「小さい子」というイメージが離れない。それは姉であるわたしだけでなく、両親や祖父母にとっても同じだ。そんな小さな妹が、二十歳になった。信じられなかった。妹も大人になるという当たり前のことが、嘘みたいだった。


写真の中で少し不機嫌そうに笑っている振袖姿の妹は、今年で30歳になる。震災とともに、妹の成長を思う。妹がひとり暮らしをして通っていた大学は、実家よりはるかに危険な地域だった。

だから、とても大きな奇跡

振袖を着ることができた妹は「当たり前」なんかじゃなくて、とっても運が良かったんだ。

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明日が、1秒後がやって来ることは、奇跡。
「またね」という言葉に込められているのは願い。

死にたがりで消えたがりなわたしだけれども。生きている「時間」をたいせつにしていきたい。すぐに手放すことはできても、欲しがっても余分には手に入らないからこそ。






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