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あなたから買えてよかった。

リビングに置くテレビボードを長い間探していた。
現在使っているのは、私が実家にいた頃から使っていたもの。
母の「物に対する考え方」が「良いものを長く使う」だったから、子供の頃から比較的良い家具を与えられてきた。
だから、テレビボード、オーディオボード、食器棚、本棚、チェスト、電話台(昔はこういうものがあった。今はプリンター置きに使用している)など、家の中の多くの家具がこのシリーズで揃えられていた。
それをそのまま、26歳で一人暮らしをする時に持って出て、足りないものは同シリーズで買いそろえた。

35歳で結婚。夫はその時まだ25歳で実家から出てきたので、家財道具を特に持っていなかった。必然的に私が持っていた家具で新婚生活がスタート。もちろん追加した家具もあるが、ほとんどが私のもので間に合った。
テレビボードもその一つだ。
「家具は一生もののつもりで買いなさい」と言われてきたので、買い替えるつもりはなかったのだが、さすがに30年以上使っていると飽きてきた。

うーん……、「飽きる」というのともまた違うか。
なんというか、これはこれで今も好きなんだけど、ガラッと違う雰囲気にしてみたくなったのだ。
ソファも新しくなったところだったし、カーテンも新調した。気に入っていた出窓は、向かいの竹やぶがなくなって家が建つため、もう何の景色も見ることができない。だからブラインドを付けて光だけ採ることにした。
リビングにいろいろ変化があったので、全体的に模様替えをしたい。となると、やはりテレビボードを変えたい……。

ただ、今更これを「捨てる」というのは気が重かった。ソファやテレビのように、またメルカリで売るしかないか……などと考えていた。
が、母に相談してみると、「じゃあ、それちょうだい。収納がなくて困ってたのよ」と言う。実家にはもちろん同シリーズの家具があるので、私のテレビボードが並んでも何の違和感もない。
あっさり引き取り先も見つかり、本格的にテレビボードを探し始めた。

ソファを買い替える時にテレビボードも見ていた。おしゃれな家具屋だけでなく、ニトリや家具卸の展示会など、いろんなところで探し続けた。ネットでもかなり調べた。でも、なぜかピンとくるものがない。

素材はウォールナット、できれば無垢材。
シンプルだけど少しデザイン性もあるもの。ちゃんと「木」の感じが出ているものがいい。
あまり奥行や高さがなく、圧迫感がないもの。幅150~180センチ。
箱型ではなく、脚が付いているもの。引き出し付き。

イメージはあるし、「こんな感じ」というものにはいくつか出会えたのだが、どうしても「買います!」まではいかなかった。いくつか候補はでき、「検討します」と伝えて帰っていた。

そして、昨日。
これを最後にしようと南堀江の家具屋が並ぶエリアへ行ってみることにした。ここで良いものが見つからなければ「候補」にしていたものに決定しようと夫と話していた。

さすが南堀江!おしゃれな家具屋が多く、いくつか店をまわるうちに、2つ新たな候補ができた。もともとの候補と合わせて3つ。いよいよこの中から絞って決めようということになった。

そんなことを話しながら歩いていたら、もう1軒家具屋が出てきた。ほぼ絞れていたし、疲れてもいたので「どうする?」と素通りも考えたが、せっかくなので入ってみることにした。
店員のお兄さんにテレビボードの場所を聞くと「2階にある」ということなので、お兄さんの後から階段を上っていく。
「(階段が)ちょっと急なので気を付けてくださいね」と声をかけてくれたので、丁寧な人だな、と思った。

いろいろな家具が配置されている中にテレビボードもいくつかあった。
その中で、白っぽいオーク材のものだが、形やサイズ感はいいなと思うものがあり、夫とそれを見ていた。店員のお兄さんに聞けば、同じものでウォールナットも注文できるという。
「これ、いいんちゃう?」
十分に「候補」と闘えるようなものだった。
引き出しを開けたりしていると、お兄さんがいろいろと説明してくれる。
本当にたくさんの家具屋さんに行ったからこそ言えることだが、その説明に私は「愛」を感じた。もちろん私への愛じゃない。家具への愛だ。

中でも強く感じたのは、真ん中の扉を開け、中の天板を外した時だ。
天板を引っかけるネジのようなものを外して見せ、
「こんなところ、お客様は見ないと思うんですけどね、このネジみたいなところの間にシリコンを挟んでいるんです。それだけのことなんですけど、天板に傷がいかないんですよ。ここまでやっているものって案外ないんです」
謙虚な物言いだけれど、「この家具はこんな細かいところまで気を遣っているんですよ」と誇らしげでもあった。

優しく丁寧で控え目。だけど、熱量が感じられる。
少し話しただけで、その店員さんを信頼していた。

「テレビボードは150cmにして横に背の高いシェルフを置く」か、「180cmにして何も置かない」か迷っている、という話をした時も、見本になりそうな家具の置いている場所へ連れていってくれて、どういう配置にするときれいに見えるかということを教えてくれ、棚に何を置きたいのかということをいろいろ尋ねてくれて、結果的に「僕は150cmで棚を置いたほうがいいと思います」と、きちんと自分の意見も述べてくれた。

他にもいろんな質問をするたびに、カタログを持ってきたり、在庫を調べてきたりと、2階から1階へ何度も往復してくれて、最後は息があがっていたが、それでも優しい口調と丁寧な接客は変わらなかった。

4つ目の候補になるはずだったが、私と夫の心は決まった。
「これ、買います!」
さらに、これまでずっとウォールナットを希望していたのだが、話していくうちに目の前にある白っぽい仕上げのオークがうちのリビングには合うかもしれないと思うようになり、「どうせイメチェンするなら、これまでとまったく違う感じのほうがいいよね」と、微塵も考えていなかったオーク材を選んだのだ。

形、サイズ感、やや丸みを帯びた優しいフォルム、細い脚、圧迫感のなさ、引き出しの数、色、無垢材の木目の雰囲気……、今となっては「これこそが欲しかったテレビボードだ!」としか言いようがなくなっていた。
オークなので価格も安く、予算の半額で買えたこともありがたかった。

何より「この人」から買いたかった。
他の店員さんに対応してもらっていたら、もしかしたら買っていなかったかもしれない。他の「候補」に気持ちがいっていたかもしれない。
やっぱり「人」なんだな、と思う。

支払いを済ませて納入日などの相談を終えた後、
「お兄さんの、あのネジを見せて語ってくれた熱にやられました」
と私が言うと、「そう言っていただけると嬉しいです」と笑ってくれた。
いや、本当に「愛」を感じた。
この人、すごーく家具が好きなんだなと思った。
それがびんびん伝わってきて、いろんなアドバイスをいただいて、私たちは想定外の色や材質なのに、「これだ!」と思える家具に出会えた。お兄さんのおかげだ。

店を出た後、夫が「かおりが最後にネジのこと言ってくれてよかった。ああいうことを伝えるのが偉いな」と言ってくれた。
「だって、思ったことは伝えないとわからないでしょ。あのお兄さんがこの仕事をやっていてよかったって思ってくれたらうれしいやん?」
「そうやなー、きっとそう思ってくれてるなぁ」
そんな会話をしながら帰った。

私も仕事で書いた記事を取材相手に褒められるとうれしい。この仕事をやっていてよかったと思える。
だから、良い店員さんに出会った時はいつもその気持ちを伝えるようにしている。「ありがとう、あなたのおかげで良い買い物ができました」とか「ありがとう、とても美味しくて楽しい時間を過ごせました」とか。
病院の主治医にも「私は先生がいいんです。(大学病院なので)異動になったら教えてください。ついていくので」と伝えている。主治医はいつも「まだ大丈夫っぽい。次の検査の時もいると思いますよ」と、少し照れたように笑ってくれる。

良い店員さんから買い物をしたいと思うなら、自分も良いお客でありたいのだ。それは言葉にしないと伝わらない。

4月11日に新しいテレビボードがやってくる。
これでリビングの模様替えが半分完成。とても楽しみだ。

※トップの写真はお店のホームページ↑からお借りしました。
(写っているのは購入したテレビボードとは違いますが……)

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