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雪の日、静寂の中で思い出したこと

一昨日の夜から雪が降った。私の家の周りは5センチくらい積もった。

昨日は朝からなんだか静かだった。
この静寂は何なのだろうかと考えてみたら、雪のために家の横の工事がお休みだったのだ。
昨年夏から私の家の周辺では大規模な工事が行われている。隣の畑も竹やぶもみんななくなった。そこに16軒も家が建つのだ。毎日朝から夕方まで地面を掘っている。何かを打ちつけている。凄まじい音、音、音。まるで工事現場の中に暮らしているようだ。

音を紛らわすために、毎朝ビートルズの「サージェントペッパーズ ロンリーハーツクラブバンド」を大音量で聴いている。
中学生のとき夢中になって聴いた曲だ。今聴いても色褪せない。カッコいい。これで今日も何とか精神を保てる、と思う。救われる。

でも、昨日はビートルズも必要なかった。
静寂。
ああ、そうだ。この家はこんなふうにいつも静寂に包まれていたんだった。
雪のおかげだ。
静かなのはきっと、工事がお休みというだけではない。雪が降ると、音がなくなる気がする。

しんしんと。
雪が降る様子をこう表現したのは誰なのか。これ以上にぴったりの言葉はないと思う。

しんしんと、雪が降る。

ふと、大学生の時に行った青森のことを思い出した。
あの時は、ただ雪が見たくて。
それだけで、真夜中の「急行きたぐに」に飛び乗ったのだった。
一緒に旅をしたのは、親友のゆうちゃん。
なぜか旅の間じゅう、ほとんどしゃべらなかった。
あの時の私たちは、いろんなことに迷っていたのかもしれない。そんな未熟な2人だった。

青森のユースホステルに泊まって、雪の奥入瀬を2人で歩いた。
長靴を履いていたのに、何度も転んだ。
春にはやわらかな新緑が眩しい奥入瀬が、銀世界に変わっていた。滝は見事に凍りついていた。

途中で吹雪いてきて、もう歩けなくなり、2人で震えていると、一台の車が通りかかった。
「おーい、おーい」と手を振って停めて、乗せてもらってなんとかユースホステルに帰りついた。

管理人のおじさんにこっぴどく怒られた。
「旅人にはきれいなだけの雪も、私たちにとったら怖いものなんですよ」と。

今思えば、本当に危ないことをしたと思う。怒られて当然。なんとか帰れたからよかったけれど、一歩間違っていたらどうなっていたか。どれほどの人に迷惑をかけることになっていたか。考えると恐ろしい。

その後、蔦温泉へ連れて行ってもらい、冷えた体を温めた。

久しぶりに積もった雪を窓から見ながら、あの日のことを思い出していた。
怖かったけれど、美しかった雪の奥入瀬。
まだ若く、怖いもの知らずだった自分。
無知で、無謀で、幼かった。

でもはっきりと覚えている。
あの時、私はもっと人の生き様を見たいと思ったのだ。自分とは違う土地で生活している人のことを知りたくなった。それで、あちこちへ旅を続けた。
文章で食べていこうと決めたのも、あの頃だ。

20歳の私に言ってあげたい。
あの迷った日々は間違いじゃなかったよ。旅をした日々も、友と語り合った日々も、酒に酔い潰れた日々も、全部今の自分にとって必要なこと。
それに、あなたは今も書き続けている!

人生に無駄なことなんか何もない。
でも、それを決められるのは、自分だけだ。

雪を見ていたら、懐かしい風景がよみがえって、少しだけしんみりした。
今日はまた工事が始まった。

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