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3万円のラグジュアリー日本酒が、私の情熱をよみがえらせた

いつもnoteを読んでくださっている方はご存知の通り、私はお酒が好きだ。
お酒好きが高じて利酒師の資格を取り、日本酒の業界誌も書くようになったくらいだ。日本酒だけでなく、ビール、ワイン、ウイスキーと何でも飲む。(焼酎とカクテルはやや苦手)
若い頃から「酒のない人生なんて!」「NO SAKE,NO LIFE」を掲げて生きてきた。

そんな私が昨年から少しずつお酒を飲むのがしんどくなってきて、今年3月に治療が始まってからは、ほぼ飲むことがなくなってしまった。
あんなにお酒が好きだったのに、「飲みたい」という気持ちさえもなくしてしまったことが不思議だった。
そうか、これが「病気になる」ということなんだな、と実感した。
お酒も健康だからこそ、おいしく飲めるのだ。

ただ、先月から少しずつ元気になっていき、週に一度くらいだが、お猪口に1杯くらい日本酒やワインを飲むようになっていた。
再び「飲みたい気持ち」が湧き上がってきたのだ。まだ「気持ち」に追いつくほどは体が受け付けないが、それでも大きな進歩だと感じていた。

先週、夫が立ち上げたビール会社の直営店のプレオープンに行った。
現在、製造しているビールは3種類。一応、家で少しずつ味見はしていた。プレオープンの日はかなり調子がよかったし、レンビマも休薬して行ったので、1杯くらいは飲めるかなと思っていた。

結果的に、3種飲み比べセット(120ml×3種類)と、Sサイズを飲んだ。店に5時間近くいたし、みんなとしゃべって楽しくて、アドレナリンが出まくっていたこともあるだろう。自分でも驚くほどの量を飲むことができた。
ほんの2か月前は「せっかくオープンしても行けるのかなぁ」「店には行ってもビールなんて飲めるんだろうか」と心配していたというのに。

この日、夫の会社(親会社)の社長も来られていた。お会いするのは初めてだったので、ご挨拶をさせてもらった。その時、社長が「お祝いに」と、ウイスキーと高級でレアな日本酒をふるまってくださった。
夫いわく「社長は限定品に弱い」らしく、その日本酒も高級なだけでなく、製造本数の少ない限定品だった。

どこの日本酒かと思い調べてみると、株式会社REBORNという会社が立ち上げた「MINAKI」というブランドだった。
酒蔵が自社で製造して販売しているのではなく、REBORNという会社が酒蔵に委託して造ってもらっているオリジナルブランド。「ラグジュアリーな日本酒」をコンセプトにしており、日常で飲むお酒ではなく、特別な日、特別なシーンに選ばれることを目指しているようだ。

箱入りでコンセプト冊子もついており、
見るからに高級酒の品格を漂わせていた

値段を聞いてびっくりした。
32,780円(税込)!!

このブランド以外にも、3万円以上する日本酒はこの世に存在するが、「こんな高級酒、一体誰が買うんだろう?」とずっと不思議に思っていた。
1500円でも十分においしい日本酒はあるから。
でもこの日、そうか、やっぱり「社長」と呼ばれるような人が買うのね、と謎が解けた。

製造している酒蔵は山形県の奥羽自慢。
厳選された兵庫県産山田錦を使用し、精米歩合は17%とのこと。

あまり日本酒のことを知らない人のために簡単に説明しておくと、日本酒の工程は米を精米するところから始まる。一般的な日本酒で精米歩合は60~70%くらい。この数字は米を磨いて「残った部分の割合」だと思ってくれたらいい。いわゆる「大吟醸」を名乗れるのは精米歩合50%以下となる。

つまり、精米歩合17%ということは、米の83%は削って捨てちゃってる(いろいろ再利用はするが)ということ。17%まで磨こうと思えば200時間はかかる。精米だけでもそれだけ手間暇かけているのだから、値段が高くなるのは仕方がない。

ただ、日本酒は「削れば削るほどおいしくなるのか」といえば、決してそうではない。嗜好品だから、米の旨味がたっぷりなお酒が好きな人もいるし、精米歩合80%でもおいしい日本酒はある。
ちなみに私は、酒米の種類にもよるが、50~60%くらいのものが好きだ。酒造りには精米以外にも多くの工程があるので精米歩合だけでおいしさは決められないが、「これ好きだな~」と思ってスペックを見ると、それくらいのものが多い。

とにかく、こんな高級酒は飲んだことがなく、社長が「今ここにいる皆さんにふるまってあげて」と夫に渡すのを見て、うわぁ~とテンションが上がった。自分では(おそらく)死ぬまで買うことがない酒だ。それをタダで飲めるなんて、こんなチャンスはない。
販売元がこのお酒は大きめのワイングラスで飲むことを推奨していたので、ワイングラスにそそいでくれた。

自分のところにまわってきたワイングラスを手に取る。
日本酒自体、飲むのが久しぶりということもあったが、まず、香りにやられた。
なんだこれ、甘くてフルーティーな香り。
私はあまり香りの強い日本酒は好きではないのだが、まったく嫌な香りではなかった。華やかでふくよかで、官能がくすぐられる。
飲むことを忘れ、長い間グラスに鼻を近づけてこの香りに酔いしれていた。まわりのみんなが「おいしい、おいしい」と飲んでいるのを見ても、なかなか口をつけられなかった。
「はぁ~、この香水が欲しいわ~」と言ってしまったくらいだ。

しかし、いつまでも香りばかり楽しんでいるわけにもいかないので、ようやく心を決めて一口飲んでみた。
はぁ……、うまい。
思わずため息が出た。
やさしい口当たり。とてもなめらかだ。
そして一切の雑味なし。まるで水のように繊細で、奥にほんのりとジューシーな米の旨味が感じられる。

基本的にはもっと米の旨味を感じられるお酒が好きだが、やっぱりうまいものはうまいのだ。こんな上質な味わいは初めてだった。
水のようにするすると飲めるが、上品で繊細な甘みと酸味があり、それが余韻となって残る。
なんて美しい酒なんだろう。
長い間、日本酒を飲んでいなかったところに、こんな酒を飲んでしまったからヤバかった。五感が全開して、幸福で脳がしびれた。ちょっと泣きそうだった。

身体はもうアルコールを拒否しているのに、脳のコントロールが効かない。
私は結局そのグラスを飲み干した。(60mlくらいだけど)
「一口味見する」くらいに思っていたのだが、最後まで飲まずにはいられなかった。

やっぱりおいしい日本酒のインパクトってすごい。ワインもそうだが、「飲み物」の域を超えて「芸術」のように感じることがある。
この半年、もう私はいろんな日本酒を飲んでおいしいと感動したり、追求したいと思ったりすることなどないのだとあきらめかけていた。
逆に、お酒が飲めなくても人生はまだまだ楽しめると思っていた。

でも、この日、この日本酒で完全に目覚めた。
消えかけていた日本酒への情熱の炎が、再びチリチリと燃え始めたのだ。
日本酒、最高!
やっぱり私は日本酒が好きだ~!
飲みたい、世の中のおいしい日本酒を飲み尽くしたい!
本当に2年ぶりくらいに、そんな情熱に支配されていく自分を感じていた。

3万円のラグジュアリー日本酒が、私の情熱を呼び起こしてくれたのだ。
限定品好きの社長に感謝だな。
やっぱり「NO SAKE,NO LIFE」だ。

▼MINAKIに興味を持った方はこちらをどうぞ

※記事で使用した画像も上のサイトからお借りしました。

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