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酒のない人生なんて。

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日本酒ライターが語る、酒のあれこれ。
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#ライターの仕事

あの人をいつまでも応援できる私になれるように

先日、1通の葉書がポストに届いた。 印刷された文字が並んでいたので、どこかの企業からの形式的な暑中お見舞いか何かだと思った。 差出人を見ると、3、4年前に取材した酒蔵の杜氏さん(製造責任者)の名が記されている。 何だろうかと内容を読んでみると、「退職のお知らせ」だった。 酒蔵にいた数年間に関わった人の名刺を見ながら葉書を送ったのだろうが、内容は形式的なものではなく、「ライターの私」へのメッセージが空きスペースにきちんと添えられていた。 「お元気ですか?  心に残る取材でし

「日本一小さな酒蔵」が目指すもの

その酒蔵のことは随分前から知っていた。わかりやすく、一度聞いたら忘れられないキャッチコピーがあったからだ。 「日本一小さな酒蔵」 どれくらい小さいかといえば、存在を知った当時はまだ20石か30石か、それくらいだったと記憶する。 そんな小さな酒蔵なのに、全国の地酒専門店で扱われ、数が少ないために一般人の入手は困難。販売は「抽選」というところばかり。 私自身も個人で購入したことはなく、飲食店で偶然出会って一度は飲んだことがある……というくらいだった。希少価値でいえば、「まぼ

89歳の「酒造りの神様」から学んだこと

「次の取材は農口尚彦研究所に行ってください」 クライアントからそう言われたとき、ついにその日が来たのだと思い、武者震いした。 「農口尚彦研究所」は、杜氏(製造責任者)である農口尚彦さんの匠の技術・精神・生き様を次世代に継承することを目的として2017年に設立された酒蔵だ。杜氏の名前を冠した酒蔵など、全国を探しても他には存在しない。 では、「農口尚彦さん」とはどういう人なのか。 「能登杜氏四天王」や「酒造りの神様」と呼ばれている、いわば「杜氏界のレジェンド」だ。ご年齢はな

「義侠」という酒のカッコよさ ~『酒蔵萬流』33号振り返り①

7月20日、私がライターとして執筆している日本酒の業界誌『酒蔵萬流』33号が発行された。 ▼酒蔵萬流について詳しくはこちらから▼ 今回も担当した記事の振り返りを書いておこうと思う。 ちょっと長くなるので、1記事1蔵ずつ……。 ★山忠本家酒造(愛知県愛西市)『義侠』醸造元 『義侠(ぎきょう)』という酒がある。 米の旨みたっぷりで厚みがあり、濃醇。けれど、決して雑味はなく、きれいで品格すら感じる。 現在、酒蔵を経営するのは11代目の山田昌弘社長。今年40歳を迎える、まだ若