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酒のない人生なんて。

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日本酒ライターが語る、酒のあれこれ。
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3万円のラグジュアリー日本酒が、私の情熱をよみがえらせた

いつもnoteを読んでくださっている方はご存知の通り、私はお酒が好きだ。 お酒好きが高じて利酒師の資格を取り、日本酒の業界誌も書くようになったくらいだ。日本酒だけでなく、ビール、ワイン、ウイスキーと何でも飲む。(焼酎とカクテルはやや苦手) 若い頃から「酒のない人生なんて!」「NO SAKE,NO LIFE」を掲げて生きてきた。 そんな私が昨年から少しずつお酒を飲むのがしんどくなってきて、今年3月に治療が始まってからは、ほぼ飲むことがなくなってしまった。 あんなにお酒が好きだ

あの人をいつまでも応援できる私になれるように

先日、1通の葉書がポストに届いた。 印刷された文字が並んでいたので、どこかの企業からの形式的な暑中お見舞いか何かだと思った。 差出人を見ると、3、4年前に取材した酒蔵の杜氏さん(製造責任者)の名が記されている。 何だろうかと内容を読んでみると、「退職のお知らせ」だった。 酒蔵にいた数年間に関わった人の名刺を見ながら葉書を送ったのだろうが、内容は形式的なものではなく、「ライターの私」へのメッセージが空きスペースにきちんと添えられていた。 「お元気ですか?  心に残る取材でし

「ひと夏の恋」が私を待ってくれている

夏酒を大量購入した。 無意識、とまで言ってしまうと嘘になってしまうが、酒屋からメルマガが届き、「夏酒特集」につられてサイトを見に行ったら、衝動を抑えきれずにいつの間にかカートに5本も入れていた。 飲めないのに。 そう、毎日5~8種類もの薬を服用しているし、副作用も辛い日々で、お酒など飲めないのに、買わずにいられなかったのだ。 昨年あたりからお酒をほとんど飲めなくなった。 今年に入ってからは、2月の最後の出張で仕事仲間と少し飲んだのと、休薬中の結婚記念日に60mlくらいだ

日常生活をちょっとだけ豊かにするツール。地酒は「民藝的であるべき」ということ。

「地酒」という言葉がある。 その字面どおり、「地域・地元」で造られている「日本酒」のことだ。 いろいろな酒蔵を取材していると、よく「真の地酒とは……」という話が蔵元さんから出る。 たとえば、その地域で造っているというだけでなく、その地域の米・水・人で醸してこそ、それは「地酒」と言えるのではないか、とか。 東京で飲まれている有名なお酒が、実はその酒蔵の地元では流通されていない、なんてこともある。それって本当に「地酒」ですか?と疑問を呈する蔵元さんもいるわけだ。 「真の地酒」を

師匠と飲んだ日本酒あれこれ

たまには日本酒の話でも。 先日、私がライターとして執筆している「酒蔵萬流」という雑誌のデスク(編集長)と飲みに行った。 デスクのYさんとは年に1~2回、2人で飲みに行く仲だ。 「さんのうさん(私のこと)と飲みに行くの、ホント楽しいから好きなんですよ~」といつもおっしゃってくださるのがうれしい。 私も2年前のように元気なら、もっと頻繁に飲み歩きたいのだが、最近は「飲み会」というと、ちょっとした「覚悟」がいる。アルコールが入ると薬を飲めないので、帰宅後の激痛にひたすら耐えなけ

お酒だけが私にやさしかったから。

お酒が飲めなくなったら、人生がどれほどつまらなくなるだろう。 ずっとそう考えていて、そんな人生がふいにやってくることが怖くてたまらなかった。 それくらい私の人生は、酒と共にあった。「友」でもあった。 若い頃、夫と出会う前まではいろんなことがうまくいかず、半ばやけっぱちのように生きていた。 社会性ゼロ、情緒不安定、そのうえケンカっぱやい、というどうしようもない女。 夫に出会った頃、主成分「優しさ」の夫にまで「この、誰にでも噛みつく野良犬が~!」と言われたことがある。 でも、

「日本一小さな酒蔵」が目指すもの

その酒蔵のことは随分前から知っていた。わかりやすく、一度聞いたら忘れられないキャッチコピーがあったからだ。 「日本一小さな酒蔵」 どれくらい小さいかといえば、存在を知った当時はまだ20石か30石か、それくらいだったと記憶する。 そんな小さな酒蔵なのに、全国の地酒専門店で扱われ、数が少ないために一般人の入手は困難。販売は「抽選」というところばかり。 私自身も個人で購入したことはなく、飲食店で偶然出会って一度は飲んだことがある……というくらいだった。希少価値でいえば、「まぼ

89歳の「酒造りの神様」から学んだこと

「次の取材は農口尚彦研究所に行ってください」 クライアントからそう言われたとき、ついにその日が来たのだと思い、武者震いした。 「農口尚彦研究所」は、杜氏(製造責任者)である農口尚彦さんの匠の技術・精神・生き様を次世代に継承することを目的として2017年に設立された酒蔵だ。杜氏の名前を冠した酒蔵など、全国を探しても他には存在しない。 では、「農口尚彦さん」とはどういう人なのか。 「能登杜氏四天王」や「酒造りの神様」と呼ばれている、いわば「杜氏界のレジェンド」だ。ご年齢はな

新ジャンルの日本酒「クラフトサケ」を知っていますか?

「クラフトサケ」というものを紹介する前に、まずは清酒製造免許について説明しておかなければならない。 酒造関係者以外は知らない人が多いと思うが、実は「新たに酒蔵を立ち上げて日本酒を造りたい」と思っても、国内で日本酒を製造する免許というのは新規に取得できないことになっている。(海外輸出向けの製造免許は下りる) たまに「新しい酒蔵ができた」と聞くが、あれは廃業した酒蔵の免許を譲渡してもらって清酒製造業を継承しているだけで、新規に免許を取得したわけではないのだ。 これは別に意地悪で

「義侠」という酒のカッコよさ ~『酒蔵萬流』33号振り返り①

7月20日、私がライターとして執筆している日本酒の業界誌『酒蔵萬流』33号が発行された。 ▼酒蔵萬流について詳しくはこちらから▼ 今回も担当した記事の振り返りを書いておこうと思う。 ちょっと長くなるので、1記事1蔵ずつ……。 ★山忠本家酒造(愛知県愛西市)『義侠』醸造元 『義侠(ぎきょう)』という酒がある。 米の旨みたっぷりで厚みがあり、濃醇。けれど、決して雑味はなく、きれいで品格すら感じる。 現在、酒蔵を経営するのは11代目の山田昌弘社長。今年40歳を迎える、まだ若

日本酒初心者にやさしくありたい。

友人と「常時日本酒が数十種類あります」というような、地酒を売りにしている居酒屋へ行くことがある。 ずらりと銘柄が並んだ日本酒リストを見ると、私はテンションが上がるが、日本酒をそれほど飲まない友人は、私に「任せるわ」と言う。長く付き合いのある友人であれば、だいたい好みは把握しているので、「じゃあ、これにする?」と間違いないものを選んであげる。 しかし、私と一緒なら選んでもらうことができるが、自分だけだったら「知っている銘柄」を探すのがやっとで、「そんなリストは面倒なだけだ」と

決して揺らぐことのない醸造哲学をもつ蔵元たち

4月20日に私がライターとして取材・執筆している日本酒の業界誌『酒蔵萬流』32号が発行された。 ▼酒蔵萬流についてはこちらから▼ 私の今号の担当は、 ●今西酒造(奈良県)「みむろ杉」「三諸杉」醸造元 ●川西屋酒造店(神奈川県)「丹沢山」「隆」醸造元 ●天理すぎ乃 本店(奈良県) ※今西酒造に推薦していただいた飲食店 (敬省略) 今西酒造、川西屋酒造店、まったくタイプは異なるが、どちらもしっかりとした「醸造哲学」を持って酒造りをしている酒蔵だった。 取材の裏話など、今回も

こんな花見酒はいかが?~日本酒初心者にもおすすめの春のお酒~

この時季になると買いたくなるのが「花見酒」だ。 特に「花見酒」と謳っているわけではないが、桜柄やピンクのラベルが春や花見をイメージさせてくれる。 今年の花見酒は上の4本にした。 お気づきかもしれないが、右2本はペットボトルに入っている。 これは東京の「はせがわ酒店」さんのネット販売で購入したものだが、今年もこのペットボトルを待っていた。なぜなら、ペットボトルの商品を購入すると、他の同梱商品も<送料無料>になるというキャンペーンをやっているからだ。 はせがわ酒店さんは、日本を

誠実な酒造り、美しい酒造り。

体調が良かったり悪かったりの繰り返しで、noteの更新が思うようにできていない。 ああ、そうだ。私がライターとして参加している日本酒業界誌『酒蔵萬流』の最新号も1月20日に発行されたのに、その振り返りすら書いていなかったことに気づく。もう1カ月半も経ってしまった! ▼その前の号は、珍しく発行日に書けたのだが。 ちょっと(というか、かなり)遅くなったが、自分の備忘録的なものなので、今からでも書いておこうと思う。 今回担当した記事は4本。(敬省略) ●酒蔵:玉乃光酒造(京都