父滅の刃

以前ここで書いた
樺沢紫苑氏の「父親はどこに消えたか」は
すでに絶版になっていますが、
この本と同じ内容でさらに加筆された
「父滅の刃」が出版されたので、
読みたい人はこちらがおすすめ。

父滅の刃って大ヒット漫画の
鬼滅の刃からきたタイトルで
鬼滅の刃における父性も書かれています。

鬼滅の刃では、鬼は日輪刀という
特別な刀で首を切ると死ぬんですが、
斬首は心理学では
「去勢に対する不安」と言われているそうです。
そうだとすると
男を打ち負かさなくてはならない恐怖、
男と戦う恐怖の投影と考えられます。

鬼退治の話は「太母殺し」の投影という説がありますが、
著者は父性と言っています。
この本の内容は全体的に納得がいくのですが
個人的に鬼滅の刃は母性的だと思います。
登場キャラクターが全体的に父親との縁が薄く、
しかもあまり良い父親とは言えない気がします。
人格者であっても、なんとなく頼りにならない感じですし…

ネタバレを含みますが…


鬼滅の刃において最も母性的なキャラクターは
本命は風柱、対抗は蛇柱です。
少なくとも、この作品において母性を語るにおいて不可欠な2人です。
母性といっても女性のキャラですらないんですけどね…
男性のキャラです。しかも性格も攻撃的という…
過去回想シーンにかなりの類似点が見られ、
まさに「太母殺し」の内容になっています。
この太母殺しは、
母にとっての理想の息子であることを諦める、拒絶することとリンクしています。
彼らにはユングの元型でいう「永遠の少年」は当てはまりません。
太母を殺したことで帰る胎内を失ったので
永遠の少年としての再生はありえないのです。

「永遠の少年」が当てはまるのは炎柱です。
彼は今際の際で母親を思い出します。
彼自身も母親も立派な人ですが、
母親の理想と自己実現が一致しているので、
太母を殺したとは言い難いのです。
太母の胎内に帰り永遠に生まれ続ける少年から抜け出すことはありません。
ですが、少年漫画のキャラとして魅力があるのは、永遠の少年だったりするんです。
大人になっても少年漫画を読む心理は、
自分の中にある永遠の少年との対話だと思っているので
永遠の少年が魅力的なのは、ある種の必然と言えます。

他にも単純に母性的なキャラクターはいるんですけど、
この3人の男たちが、巧妙に母性に行き着くように描かれているのが興味深いです。
母性って女性性と結びつくものですが
男性性と結びつくことで今までにない物語が生まれたように思います。
これも時代なんでしょうか?
風柱と母性はもっと突き詰められるけど、とりあえずここまで。

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