美活黒子生活

朝起きたらテーブルの上に書き置きがあった。

『俺を捨てるなんて冗談じゃない。
悪いけど、しばらく旅に出る。
探すなよ。 泣きぼくろ』

それは、まるで小学生低学年あたりの男児のような下手くそな文字で。
な…泣きぼくろ?!はあ?!

ええええええ!!!!!

鏡を覗き込んだら、私の右目のそばにあった泣きぼくろがないっ!!
どっ、どうしてええええ!!!
たしかにとろうとは思ったわよ?
小さい頃から、この泣きぼくろがあるせいで泣き虫なんだろ?って男子にいじめられて、泣きぼくろがあるおかげで泣き虫だと母にも父にも疎まれて…だから私は泣かない子供になって、そのまま泣かない女になってしまった。
一昨日、ここを出てった男も言ってたわ。

「ごめん、俺。女作っといてアレだけど、お前強いぢゃん?泣かないぢゃん?俺さ、なんかそういうの苦手でさ…こっちも弱音はけなくなるというか…」

まあ、ぶつぶつあーだこーだ屁理屈こねて、もっと素なままで生きていける、そんな女とこれからはやっていきたいって抜かしやがった。
つまりは、泣きぼくろあるのにお前は泣かない、泣かない女は可愛げがない、そういうことだよね。
女として強くて可愛げがないのは分かる、でもそこにこの泣きぼくろを引き合いに出さなくても、小せえ男だこと!

私は鏡を覗き込む。泣きぼくろがない私は、ほくろがあった頃よりますます冴えなくて、むしろ泣きぼくろがあった頃の方が表情が締まってみえたような…

嗚呼、泣きぼくろ。
君は今の今までずーーっと私のそばに寄り添って生きてきたのに、今の今まで何も得もせず、これが美女なら「貴女のその泣きぼくろ、色っぽいね。」なーんて色んな男に褒められ、うっとりして私の右目のそばにいればよかったはずなのに。
自分のせいで泣けない女になってしまった私を不憫に思い、みずから身を引いたのね。なんてこと、泣きぼくろにそんな苦労をかけて…

あらやだ、私、涙がとまんない。
どうしよう、もう泣きぼくろに申し訳なくて顔向けできなくて可哀想で…
やだ、こんなに泣いたの何十年ぶりだろ…

泣きすぎてハナタレの私はティッシュを抱え、涙を拭きつつ鼻をちーんとかんで、ふと毛足の長いセンターラグの上をぴょこぴょこ蚤のように飛びまくる変なものをみつけた。
んん??なんだ米粒みたいなこの黒い点は…

あああああああ!!あんた私の泣きぼくろじゃないの?!ちょっとどこ行くのよー待ってよ!!

泣きぼくろも必死よね、玄関に向かって蚤のようにぴょこぴょこ飛んでは、飛びかかる私を交わして、こうなりゃ力ずくよ、泣かない女だけど腕力には自信があんのよー待ちなさいーーー泣きぼくろめがけて捨て身のダイブ。

「貴女のその鎖骨のほくろ…とても素敵だね。」
「やだ…恥ずかしい…あまりみないで。」

私ね、あの日、泣きぼくろに飛びかかって見事体で押しつぶしたのよ。鎖骨でね。だからもう泣きぼくろでなくて鎖骨のほくろ♡
ちょっと痛かったけど、アレ以来ほくろを大切に愛でるようにしてるの。
ほくろが映えるような胸元の開いた服を着て、いつも優雅に微笑むようにしてね。デコルテ用のクリームで毎晩マッサージしてね、最近少しプックリしてますます色っぽいのよ、このほくろ。

そしたらどうよ、私を捨てたチンケな男より格上の男たちが寄ってくることくること。私も私で、これも鎖骨のほくろのおかげとほくろを労わり愛でる生活をおくるせいか…ほくろ業界でも素晴らしい人と有名になったみたいで、ふたつほどオファーがあったのよ!!
ひとつは首筋にね、この子もとてもセクシーといつも褒められる小悪魔ちゃん。

もうひとつ??それはね…ふふふ。秘密。どこかしらね。シャイな子だから、この子は…心から私を愛してくれなきゃ教えてあげない♡



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