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思いついたことを言葉にしてみる #06 それは今じゃない

先日、人生で初めて外科の手術を受けた。ポリープだらけの胆のうを切除。

会社の健康診断で数年前に発見した胆のうポリープ、毎年の健康診断で経過観察していたのだが、今年の結果では複数中の一つが危険水準の大きさまで育ち、要再検の判断。その結果、主治医から紹介状を書いてもらい、大きな病院で精密検査を受けた。検査結果は、一つのポリープが大きくなったのか、ほぼ密着した二つのポリープが重なって写っているのか判明しないとのこと。

大きな病院の担当ドクターは、淡々と選択肢の説明をする。

単独のポリープが大きくなること(10㍉以上)はガン化の確率が高くなり、胆のう切除がのぞましい選択。密着せれど個々のポリープが小さいままであれば、まだ経過観察という選択肢がある。また腹部を穿孔して病理を採取、検査してから決めるという選択もある。

医学的な判断基準はあれど、私の症状はぼんやりしたまま。ドクターへの手前、どれかを選択しなければならない、いや、というより、そもそもこの問題は胆のう切除でしか解決しない、ということに気づく。放っておいても恢復しないことは、発覚した時より分かっていた。決まっている回答を誰に向かって、いつ出すか。その時をずっと待っていたような感じ。

今が、その時、思いを告白するような勢いで、ドクターへその旨を伝える。自分でも驚くほどの単刀直入な言葉で。白いマスクしたメガネ越しのドクターの目で表情が読み取れるほど。重い言葉なんだろうけれど、澱みなく声が出たと思う。

その後、ドクターの口調は軽やかになって、手術の方法やら身体の受けるダメージなどなどの矢継ぎ早的説明が続く。まるでマニュアルを読んでいるように。手術日も決めて、採血して終了。ドクターにも望ましい選択だったのかな。

手術が終わって、退院して、今は自宅療養中。傷口より腹筋の痛みが強く、咳き込めば地獄、寝返りもままならない。術後のキツさは織り込み済みだったけれど、腹筋の痛みは想定外。その痛みが発生しないような体勢を手探りしながら、今回の外科手術を振り返ってみる。というより振り返ることに時間をとりたかった。なぜか、いつもと違って見えたから。

はっきりしない、ふわっとした検査結果からはじまった今回の外科治療の間(まだ終わっていないけれど)、私史上もっとも強い心持ちで居たような気がする。
それは最初から手術ありきでの心構えであったからか、迷うことなく進めてきたのは、手術前とまったく変わらないの私の姿が見えていたから。

いいえ、そこまで強靭な心持ちではなく、手術後の自分が元に戻らなかったらどうしよう、という心が折れそうになるほど不安な気持ちがすべてを支配しそうだったから。

それは、今じゃないよ。と言い聞かせていた。

腹筋の痛みも日ごと和らいで、すこしづつ散歩の時間を増やして、私の、元に戻れる自信もすこしづつ積み重なってきている。完全には元通りにならないだろう。だけど金継ぎした陶器のように、新たな色気も持ちたいと思えるような余裕が、尊い。

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