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私の好みじゃないけど、あなたが好きだと言った服


むかし、夫が小さな箱をくれながら言った。

「好きなものは自分で買えばいい。プレゼントは俺があげたいものにするょ」

中身は私がぜぇぇぇぇぇぇったいに自分では選ばないモチーフのピアスとネックレスだった。
絶対に自分では選ばないなと思っていたものは、なかなか『今日身につけるもの』にも選ばれないまま、引き出しにしまわれてある。

なんと。

私は好き嫌いが強いのだ。
プレゼントは指定派。使ってテンション上がるものを使う。
何故に私の好みを承知の上で、自分の好みを押しつけてくるのか。我ら夫婦は何故ここまで好みが違うのか。世の同じ好みでプレゼントを贈り合って自分も相手もハッピッピな夫婦が羨ましすぎる。
学生時代、当時付き合っていた人から貰ったプレゼントに、欲しいもの聞いてょ勝手に変な解釈して選ばないでょこれじゃないんだょ今はこれじゃないんだょサプライズとかいいから一緒に選びに行くのが確実でしょうょ、と友達と言うくらい最高に最低なクズ野郎な私。少しは成長したと思うが、人間の根本はそこまで変わらない。

シンプルに、欲しい物が欲しい。

夫の厄介なところは、私の好みをわかっていながら違う物を選ぶこと。かつて、メキシコ出張のお土産にシルバーリングをくれた時は「こうゆうの好きでしょ」ってばっちりしっかり正解だった。大正解も大正解。わかってるやつだわ!!
だから、シンプルに私たち2人は好みが違って、夫はわざわざ純粋に自分が好きな物をプレゼントしてくれる。


私たちは好みが全く違って、お互い頑なに変なこだわりがあるのに、よく一緒に生活できてる。方だと思う。

✳︎ ✳︎ ✳︎

久しぶりにアウトレットに買い物に行った。マスクをして、お店に入るたびに消毒を行う。昔よりぐっと低くなった人口密度の店内に、挨拶が静かな店員さん。

服を見ながら店内を出たり入ったりする。服は極力触らずに、気になるなと思ったものだけ、気持ち程度軽ーく触れながら全体を確認する。
1年間育児休暇をとり、この4月から職場復帰をするので、会社に着て行くのに服が欲しい。

妊娠中は妊婦用デニムとワンピース、産後は子どもに引きちぎられてもいい動きやすい服。外出もほとんどない1年だったから、私の格好はいつも決まったすこぶる質素なものだった。
職場復帰をすることで外出は増えるし、働くことで購買意欲は爆上がり。いろいろ見て回っていると、夫が嬉々として声を上げた。

「あれいいじゃん!」

夫の視線を追うと、そこには私がじえぇぇぇぇぇぇぇったい選ばないような細プリーツのシフォン素材っぽいロングスカートを着たマネキンがいた。
悪くはないけど好きではない。物を減らしている最中の私にとって、自分の好み以外を増やす気は無い。無いのだけど。。

良いじゃん良いじゃんと勧めてくる夫を無碍にできない。試着をして、まんまと購入までしてしまった。

持ってる服は同じようなのばっかじゃん。
偶には似合うっていう人からの意見も聞いてみたら。
春だし、出勤するのにいいんじゃない。

夫の言葉に確かに確かに、と納得していた。お、意外にも自分似合うやん!新しい自分発見☆なんちて、げへへ!
春だからか。育休明けだからか。1年間ぶりの出社に不安と緊張とそれでも浮かれた気持ちになってるんだろうか。

人の意見を聞きながら、自分に合う服を身に纏うことを始めた春。
背筋が伸びる。



とかなんとか言いながら、初出勤には着ていかなかった。やっぱり自分の好みの服がしっくりくる。落ち着く。
夫に選んでもらった服はなんだかそわそわする。子供の頃、新年度になるたびにそわそわしていたみたいに。このそわそわは、結構良い感じだ。新しい自分になったような、久しく感じてなかったこの感じ。

この春、そわそわしながら夫に似合うと勧められた新しい服をきて、外に出かけに行こう。

あの、引き出しに長い間しまっていたピアスとネックレスも引っ張り出してみようかな。今見たら、もしかしたら前とは違う感想かもしれない。なんて。


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