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コミュ障でも一生のパートナーができるまで⑥

その後、佐藤君からは絵について催促がないまま3日が過ぎ、リサちゃんは絵が描き終わった後も話をする事ができ、それは生まれて初めて感じる平和で、心あたたまる日々がだった。
家に帰っても悲しい思いをするばかりなので、ずっと学校でリサちゃんと遊べたら、どんなに良いだろうと思っていた。

そんな日々もずっとは続かなかった。
「あのさ、絵の事なんだけど」
「え、な何?」
吃音。この周りと少し話しをする様になってから、癖になってきていたと思う。
思い起こせば、私の場合の吃音は、問いかけに対して早く返事をしなければならないという強迫観念と、変な事を話してはならないから考えなければという気持ちから来ていると思う。
無言で考えていると、相手が無視していると勘違いして怒り出す事が多かったからだ。
だが、今まで言葉をアウトプットしてこなかったので、そんなに直ぐ返事をする事はできない。

「絵、描いて欲しいんだけど、やっぱりダメかな」
そういう佐藤君はしゅんとしている様に見えて、嫌とは言えなかった。いや、しゅんとしていなくても、自分に拒否する権利なんか無いと当時は思っただろう。
「何の絵を書いたらいいの?」
「悟空をこのノートに描いて欲しいんだ」
そう言って新しいノートを机から出した。
「新しいノート買ってもらったんだ。ここに描いてくれない?もしかして悟空知らない?」
悟空とは、当時の男子小学生ならほぼ全員知っていたのではないか、というくらい有名な少年漫画の主人公だ。
当然知っていたが、知らなければ描かなくて良いのかもというズルい考えがよぎる。
でも、嘘は何よりいけない事だから、特に自分の為に嘘はつけなかった。
嘘をついたら、それをお母さんに知られたら殴られる。という思考に思い至り、まだ起こっていない事に対して恐怖した。
考えた事が怖くて泣きそうな顔をしていると、何かを勘違いした佐藤君。
「ごめん女子は知らないよね、明日良いもの持ってくる!」
そう言ってこの話は終わりとばかりに、爽やかな笑顔をで一つ頷くと、ノートを机に仕舞い次の授業の準備を始めた。
私は気の利いた事を何も言えないまま、しばらくもじもじと手を動かし、頭を動かそうと試みたものの何も閃かなかった。
諦めて授業の準備をし始めると、少し先の席から視線を感じて目を向ける。
すると、1人の女の子がこちらを見ていた。
というより睨んでいた。
人からの敵意を感じると、お腹の奥をギュッと掴まれた様な苦しさと痛みを感じる。
怖くなって瞬間的に下を向く。
しばらくすると、女の子はこちらを向くのをやめていた。
見間違いなら良いと思いながらも、その後も不安に包まれモヤモヤとする1日を過ごした。

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