まさかのひなちゃん食事拒否!

 入院2日目はじわじわと響く頭痛で目覚めた。
といっても夜中に何度も起きて泣くひなちゃんの様子確認および寝かしつけと、看護師さんの見回り、おまけに狭くて固いベッドの寝心地の悪さが重なり、起きているのか寝ているのか分からない微妙な睡眠時間であった。ここで痛みを抹殺してくれる必殺ロキソニンの登場である。これだけは、入院を予定していなかったすっからかんのかばんにも、忍ばせておいて良かったといえる代物だ。
 ひなちゃんは起きてもやはり機嫌が悪く、看護師さんが検温に来てくれただけでも怒りだし、ばたばたと足を振り回しながら泣き散らしていた。
 ひなちゃんからしたら、看護師さんやお医者さんのことを、連日注射や鼻に突っ込む綿棒の検査といった痛いことをしてくる人々と理解しているだろう。警戒するのも当然だ。
「ピッピ(体温計のこと)はいつもしてるでしょ?これは痛くないよ。」
となだめながらどうにか朝の検温を受けてもらった。
 ひなちゃんはしゃべれなくても意外と私たちの言葉を理解している。そのため、少なくともさらなる不信感を抱かないよう、痛い物は痛いとどんな検査や治療であっても嘘をつかないよう伝えてきた。それが正解なのか分からないが、自分だったらもし痛くないと言われたことに痛みを感じた場合
(嘘じゃん、めっちゃ痛いんですけど?)
と腹を立てたくなると思ったからだ。
 検温の結果体温は無事38度台に下がっていた。
 瀕死の状態の白血球たちのもとへ、点滴を通し突如として多量に送り込まれる抗生物質なる特殊部隊と彼らが、うようようごめく病原体を一網打尽にしていく様子が浮かぶ。
 朝ご飯が運ばれてきてもいつものように
「いいぇーい!!!」
とハイテンションで手を叩き大騒ぎをするひなちゃんではなかった。
「あーね、朝ご飯とかあったわそんなの。」
みたいな感じでちらっとトレイの方を見る程度にとどめ、ひなちゃんはペタンとカエルの様にベッドに座っている。
「パンいる?大好きなバナナもあるよ。」
と声をかけても手であっち行けと追い払う動作をし、なんだかんだで口に運んだのはヤクルトだけだった。
 昼食も同じようにほとんど食べず極めて低いテンションで過ごし、それ以外の時間はベッドでアンパンマンやいないいないばあの動画を見たり一緒に絵本を読んだりしていた。
 付き添い交代の夫と、お見舞いとして夫の母がやってきてくれたのは午後4時を過ぎたくらいだった。
 病室のドアが静かに開き、入ってきた見慣れた顔に、ひなちゃんはこの日1番の笑顔を見せ手を振っていた。
 夫に戸棚の中にいれた物や、冷蔵庫の使い方などを伝える間もひなちゃんはベッドの中でうろうろ嬉しそうに動き回っていた。
 夫に付き添いを任せ、家に帰ってくる頃には夕方になっていた。
 前日からの目まぐるしい変化に頭が追いつかないまま、一先ずシャワーを浴びた。
 それからがさがさと冷蔵庫をあさり、夫の母が買っておいてくれたケンタッキーのフライドチキンとキャベツのサラダをむさぼった。
 食べてすぐ、洗濯をしておかなければと思いつつも体は布団に吸い寄せられ、ごろごろしながら
(後10分、後5分だけ)
と頭の中で言い聞かせていたものの、泥のように眠ってしまい、気づけばこの日は過ぎていた。

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