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親は一日にしてならず!

 私にとって妊娠と出産が富士山登頂に相当するぐらいの試練だったとするなら、子育てはエベレスト登頂に相当するぐらいの試練なのかもしれない。そう思い始めたのは実際に我が子のお世話をし始めた時だ。出産まで頑張ってきたつもりではあったが、決してゴールではないのだ!
産 後一日目、目覚めて真っ先に
「あれ?ひなちゃんはなにしているんだろう?」
と考えた。
子供の性別が女の子だとわかった時から、私たちはひなちゃんとお腹に呼びかけてきた。
次に自分の体が変化したことに気づいた。お腹はへこみ軽くなっていた。もう仰向けで寝ていても苦しくなることはない。
驚くべきことに、産後一晩寝ただけで吐き気もすっかり収まっていた。朝食のホットドッグも美味しく完食し、食べられることに幸せを感じた。
「私の胃が戻ってきたぞー!!!」
と言いたくなるほどの爽快感だった。
 しかし残念な変化も起きていた。出産時に全身で踏ん張りすぎたせいか、体中が激しい筋肉痛になっていた。なにかにぶっ飛ばされ、全身をどこかで強打したようにただただ体中が重く痛んだ。
更に縫われた股も非常に痛く、思ったように足を動かせなかった。まるでこちらが生まれたての動物になったみたいに、立ったり座ったり何でもない動作でもガクガクと震え、ぎこちないものになっていた。
そんなボロボロの産後一日目の夕方、病室でスマホをいじっていると、部屋のドアをノックする音が聴こえた。
「はーい!」
と返事をすると、看護師さんと小さな四角いワゴンが静かに滑り込んできた。同時に
「赤ちゃんお連れしましたよー!!!」
という看護師さんの明るい声が室内に響いた。この病院では産後24時間で母子同室がスタートする。こわごわとワゴンに手を伸ばすと、柔らかくて暖かい赤ちゃんの頭に触れた。
すでに髪の毛がしっかりと生え、ふさふさしている。さすが剛毛かつ多毛な私たち夫婦の子供である。頭をなでながら、この子は一生髪の毛に不自由しないだろうなと思った。
しばらくすると
「うわー、うわー」
と小さな手足をバタバタと懸命に動かし、ひなちゃんは泣き始めた。そこから看護師さんに手伝ってもらいながら、授乳とおむつ替えを始めた。
首がガクガクしたひなちゃんを抱き上げることすらうまくできず時間がかかった。そうしている間にもひなちゃんの泣き声は大きくなった。
空腹に耐えられない様子で、抱き上げようとする私の腕やお腹をボカボカと渾身の力を込め蹴ってきた。新生児はどうやら非常に短気らしい。
 この日はすべての作業に慣れず、疲労もピークに達したため、4・5時間で私はギブアップしてしまった。
夜看護師さんに、新生児室でひなちゃんを預かってもらえるようお願いした。看護師さんは快く了承してくれ、
「ままもしっかり休んでね。」
と優しい言葉をかけてくれた。
私はワゴンで眠るひなちゃんが病室から滑り出ていくのを見送った。
 私たちは子供を生んだ瞬間から「まま」と呼ばれ、人の親として認識される。しかし、子供の誕生と同時に私たちは親としての資質を心身共に獲得するわけではない。本当にお世話一つ一人ではできない。
これから少しずつ親として、子供と一緒に育っていきたいと思った。

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