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熊の都合
冬ごもりを前に山で充分な食べ物を得られず、熊が街に降りてきているというニュースをよく耳にする。
今日は父からこんな話を聞いた。
父が駅のみどりの窓口に尋ねたいことがあって入ると、隣で北陸行きの切符を買い求めているらしいお客さんがいたそうだ。
そのお客さんは今日、北陸に向かうそうなのだが、みどりの窓口のお姉さんが言うには、敦賀駅付近で熊が出没したために、電車の遅延が起こっているとのことだった。
お客さんは困って「では私が乗るこの電車も遅れるってことですかねえ」と聞いた。
そうすると、窓口のお姉さんが真顔で答えるには、
「まあ、それは熊の都合によってどうなるか、今はなんとも言えないのですが・・」
え?熊の都合??
ぷぷぷ、熊の都合ってどういう都合だ?
父は思わず、そこで吹き出してしまったらしい。
お姉さんはきっと、「熊の出没状況によっては」と言いたかったのだろう。
父は帰ってくるまで「熊の都合」が頭から抜けず、
帰るなり私に報告して大笑いしていたというわけだった。
家族みんなで「熊の都合」に笑っていたが、
いやはや、熊たちは冬を前にして食べ物が不足しているという
大変な事情...まさしく都合があるんだから、
人間どもがこんなことを言って笑っているのも、
実際は可哀想な話だ。
だんだん申し訳なくなってきて、
山の熊たちがおなかをいっぱいにして冬ごもりができるように願いながら、
北陸に向かったそのお客さんは無事に着いたのだろうか、と考えていた。
今年どんぐりが不作だったことに異常気象や自然破壊の影響があるとすれば、
元をたどれば人間のしてきたことで動物も被害を受けているということだ。
なんだか笑い話が深く考えさせられる話に発展した。
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