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1日1ショート・その51「砂の上」

いやー困った困った。
そりゃあね、もちろん命を吹き込んでくれたことには
とても感謝しているんですよ。

そう。僕は砂の上に描かれた絵です。
さっき5歳ぐらいのかわいい人間の女の子が僕を描いてくれました。
ありがとう。ありがとう。心からありがとう。
でもさ、はっきり言うよ。描く場所もっと考えよう。

これじゃもうすぐ僕は波に消し去られる。
さっきから冷や冷やしている。
すでに僕のお尻は海水にひたひたで冷や冷やだ。

するとどこかから、
「あらあら。ここまで嫌がる子も珍しいわね」
という声が聞こえてきた。
波をつくっている風だった。
風は「引力にも呼びかけておくから安心しなさい」と言ってくれた。

それから僕は波に避けられ、80年間生きている。
消されるのも嫌だけど、避けられるってのもなんか嫌なんだな。

ある日おじいさんと腕を組み、
散歩をするおばあさんが僕を見て驚いた。

「あら、まだいた!」

ああ。嬉しそうな顔。
今まで避けられてよかった。


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