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#184 人生で一番好きなアルバム「THE FRUSTRATED / GLAY」を語る。ただただ語る。

(有料設定にはなっていますが、全文最後まで読めます。よかったらお小遣いください!)


「GLAYで一番好きな曲はなに?」って聞かれるとちょっと答えが出せないんですよ。
GLAYファン歴23年ですが、実はまだここに答えを出せていない。なんとなく今一番聴いている曲を挙げることなら出来ますが、来月同じ質問をされたら多分違う曲の名前を出している可能性がある。
ただ、「GLAYで一番好きなアルバムは?」とか、そして「今まで聴いてきたアルバムの中で一番好きな一枚は?」と聞かれたら即答できるんですよね。2004年に発売されたGLAYの「THE FRUSTRATED」です。



思い出というと……ちょうどこのアルバムは私が幼稚園を卒業して、小学校に入学するまでの間に発売された一枚で。元々は京都に住んでなかったんですけどちょうどこの時期に京都に越してきたので、その車の中でずっと聴いていた覚えがあって。その4ヶ月後に人生で初のライブ参戦となるGLAY EXPO 2004が訪れることもあって、色々なことがセットで思い出の詰まったアルバムなんですよ。
という訳で、あまりモノの判別能力のない子供時代から間違いなく思い入れの深いアルバムではあったんですが、時間を経て、モノの判別能力がついてから改めてこのアルバムを聞き直した時に…改めてこのアルバムはすげえ一枚だなと。「BEAUTIFUL DREAMER」を筆頭に、現在でもライブ定番曲になっているナンバーも収録されているのでアベレージでの戦力値も高いんですけど、アルバムとしてあまりにも秀逸すぎる。このブログやNoteを見てくださっている方の大部分はサッカーから入ってくださった方だと思いますが、そんな方々にもこれは是非聴いてほしい、HOWEVERや誘惑が入っているアルバムではないけどマジで聴いてほしいという事で、今日はそんなRK-3人生の一枚ともいえよう作品を、発売から20年かつ復刻版が発売されたことに合わせて書いていきます。



かつて鬼龍院翔さんが「親に紹介できるビジュアル系」と言ったようにGLAYといえば爽やかなイメージが強いとは思います。実際にここに至るまで発売されたアルバム…具体的に言えば「Beat out!」から「ONE LOVE」までは、全体的に暗いトーンで構成された「HEAVY GAUGE」を除いてはそういう気色で作られていたような雰囲気でしたし。
そう考えればこのアルバムは、ちょっとした「影」の含まれる楽曲も多く並んでいる事、アルバムでは初めてメンバー4人のそれぞれの作曲作品が収録された事、そして全体的に「ファンがライブで見るGLAY」を味わえる構成になっていた事……GLAYがデビュー10周年を迎え、俗に言うGLAYバブルもCDバブルも一通り落ち着いたという時世。その中で歴代の作品と比べて「ロックバンドとしてのGLAY」「ライブバンドとしてのGLAYを強く感じられる内容で、若干GLAYのイメージとは異なる第一印象だけど、通して見れば良い意味で「やっぱりGLAYだった」と感じられる2度3度美味しいアルバムなんですよね。このアルバムは「アニバーサリーイヤーの作品としては挑戦的な内容」と評する意見も多いですが、アニバーサリーというよりも時代の流れとして考えると割りかし自然ではあったのかもしれません。


まずアルバムを再生すると、冒頭から「HIGHCOMMUNICATIONS」「THE FRUSTRATED」「ALL I WANT」というダークな香りと言いますか、1曲目のハイコミなんかは後にGLAY的にはキラーチューン扱いになっていますし、続く2〜3曲目はただただ「カッコいいGLAY」を追求したような流れ。しかもこの3曲は同じ世界観の中を生きているような曲というか。特にALL I WANTはGLAYをギターバンドとして解釈した時の最高傑作にも近い曲とすら思います。リフのインパクト、ツインギターだからこそ出来る間奏、ライブ限定で味わえるリーダーの爆発音みたいなコーラス。
そしてそこに4曲目に「BEAUTIFUL DREAMER」が来るんですよね……。


これは冒頭3曲とは異なり「THE GLAY」「王道GLAY」な路線かつ、好みは各々にあるとしても、GLAYの楽曲として最も完成度の高い曲は何か?と言ったら確実にBEAUTIFUL DREAMERだと思うんですよね。楽曲としてのクオリティとしてはぶっちぎりで高いんじゃなかろうかと。ライブではHOWEVERや誘惑のような楽曲よりも重宝されているところは、メンバーにも多少なりともその自覚があるのかなー…とも思ったりしますし。
で、このBEAUTIFUL DREAMERってライブでは終盤か、前半にやるならもう1曲目にやるかのどっちかなんですよね。ただこのアルバムでは4曲目にこのキラーチューンが来る。1曲目のHIGHCOMMUNICATIONSからBEAUTIFUL DREAMERに至るまでの流れがもう圧巻なんですよ。HIGHCOMMUNICATIONSで従来のGLAYのイメージよりもダークでロックな世界観に引き込み、THE FRUSTRATEDのどこか淡々と進みながらも重厚なロックナンバーで感覚をマグマのように醸成させれば、ALL I WANTでそれを爆発させ、そしてBEAUTIFUL DREAMERでその世界から解放される…1曲1曲で聴いても極上のナンバーではあるんですけど、この1〜4曲の塊で聴く流れがあまりにも美しい。あまりにも美しい。野球で言うところの「1番ハイコミ塁に出て/2番フラスト送りバント/3番ALL I WANTがタイムリー/4番ビュードリホームラン〜」を地で行くんですよ。誰が燃えよドラゴンズや。もうとにかくまずはこの冒頭4曲、1番から4番までの流れでこのアルバムの勝利は確定するんです。

そして5曲目から11曲目までの空間は「GLAY」という以上に、個々のメンバーの作家性やルーツが色濃く出てくるようなフェーズになってくるんですよね。5曲目のTERU楽曲である「BLAST」はTERU楽曲の中では比較的異色な雰囲気はありますが、10曲目のHISASHI楽曲「coyote,colored darkness」や11曲目のJIRO楽曲「BUGS IN MY HEAD」はもうこの2人の自己紹介ばりに「ザ・ヒサシ」「ザ・ジロウ」な楽曲。そして作家性というところで言えば、TAKURO楽曲の6曲目「あの夏から一番遠い場所」7曲目の「無限のdéjà vuから」はGLAY以上にTAKUROの作家性が存分に出ていて。特に知る人ぞ知る名曲扱いの「あの夏の〜」は歌詞の内容も自身の思い出と実話に基づくものだそうですし。逆に9曲目の「Billionaire Champagne Miles Away」はTAKUROないしはGLAYのルーツというか、それこそBOØWYに代表されるように「彼らがどのような音楽を聴いて育って道を歩み始めたのか」みたいな歴史の反映が曲に溶けている。5〜11曲目までの間は、いわばGLAYバブルやCDバブルが最盛の頃にはなかなかメインストリームに出しにくかったメンバー個々のパーソナルな作家性、そしてGLAYというバンドが個々、或いはバンドとしてどういう音楽を喰って育ったのかを追体験出来るようなゾーンになっているんですけど、ただそれを並べるだけだとアルバムというよりは作品集みたいな雰囲気になってしまいそうなところで、ポイントとなるのはこのゾーンのど真ん中である8曲目に「時の雫」という大作バラードが挟まるんですよ。これがある事によってアルバムとしての流れを担保しているように感じるんですよね。



で、そういうメンバーの個々やルーツにも似たものを洗い出した上で来るのが12曲目の「Runaway Runaway」と13曲目の「STREET LIFE」なんですよ。
「Runaway Runaway」は基本的にはGLAYっぽいアップテンポなナンバーなんですけど、曲調の割にちょっと暗い歌詞とドラマチックな楽曲展開が実に映える。ここまでに個々の作家性を洗い出してからRunaway Runawayに辿り着くというのが、この曲や展開が持つドラマチック感をより際立たせていて…表面的にはコール&レスポンス対応可能なノリの良い曲というのがまたにくい。「STREET LIFE」はもう……いやこれはもう、極上のナンバーですよ。ここに至るまでの1〜12曲目は、文字通りGLAYの色々な顔を見せるような楽曲群であって、そこにこのアルバムを手にする人の多くが前提知識として有する「GLAYのパブリックイメージ」というものがあり、結成より前からあった友情関係からデビューとブレイクといったGLAYのここに至るまでのストーリーや2003〜2004年時点での現在進行形のストーリー(ちょうどこの時期のGLAYは事務所独立に関連する諸問題を抱え始めていた時期)が旋律に溶けた、10周年ソングというよりも「10年とこれからの10年と」みたいなテーマの曲なんですよね。しかもアニバーサリーソングでありながら、祝祭感がびっくりするほどない。ある意味では「軌跡の果て」の続編みたいなもんなんですよね。本人達にそのつもりがあった訳ではないでしょうが、そういうストーリーを内包した時に、話は必然的にそういう続編になる訳で。噛めば噛むほど深みの出る曲ですし、GLAYの中でももっと世間に知れ渡ってほしい曲の一つです。


ただ…GLAYの巧さというか、構成の妙を感じるのはラストナンバーなんですよね。
楽曲の壮大さ然り、1〜13曲目までのストーリー性を踏まえれば、ラストナンバーはSTREET LIFEで十分〆れるんですよ。なんならこれをコンセプトアルバムとして解釈するならばむしろSTREET LIFEで〆た方が多分正しい。ただ、STREET LIFEでアルバムが終わったらこの作品はちょっと重いアルバムとして終わると思うんですよ。それが作品としてのクオリティを悪くする訳ではないとしても。
そこでラストナンバーに「南東風」を用意してくるのがGLAYらしさだと思うんですよね。


正直なところ、この曲はこのアルバムの中では圧倒的に異色なんですよね。解釈次第ではこのアルバムにちょっと合わない曲と言われてもおかしくはないというか、上で書いたようにTHE FRUSTRATEDをコンセプトアルバムとするならばSTREET LIFEで終わった方がしっくり来るんですよ。にも関わらず、最後はこのハートフルなパーティーソングでアルバムが終わる。なんだかんだ言うけれど、結局最終的に音楽は楽しむものであって、何よりも楽しみたいんですよ、みんな。最後は楽しくやれればいい……その気持ちよさというか、南東風をわざわざ最後に持ってきたという事実そのものが、業界で最も仲の良いグループの一つとされるGLAYがこれまでずっとそのテンションで活動してきた理由とシンクロするように感じるんですよね。最後はぱーっと!と。

思えばGLAYのアルバムって本作以外にもこういう構成が結構多いんですよ。例えばBELOVEDなら「都忘れ」という大作の次に来る軽快な「RHAPSODY」がラストナンバーですし、一番わかりやすいのは2010年に発売されるアルバム「GLAY」で、このアルバムでも「Satellite of love」という大作バラードの次に来る「Chelsea」というアップテンポな楽曲がラストナンバーになるんですよ。アルバム「GLAY」の発売時にTAKUROさんが「最後には救いがあってほしい」「車のオーディオで流していて、Chelseaで終わったアルバムがまたシキナ(アルバムの1曲目)に戻る瞬間が好き」というような事を仰っていましたが、仕組みとしてはこのTHE FRUSTRATEDも同じなんですよね。
このアルバムにおいてHIGHCOMMUNICATIONSが導入、ALL I WANTが爆発、BEAUTIFUL DREAMERが解放、STREET LIFEが総括の役割を担うのだとすれば、南東風はその全てを一番最後に浄化してくる。この南東風があるから、もう一度HIGHCOMMUNICATIONSに戻る瞬間が途轍もなく気持ち良い。そういうマジックが起こるんですね。

加えてこのアルバムは通しで聴いたら強く感じるんですけど、全編を通じてライブのような構成なんですよ。HIGHCOMMUNICATIONSというオープニングナンバーから掴みのようにロックナンバーで幕を開けて、バラードやミディアムナンバーが並ぶパートがあり、「Billionaire〜」から終盤の畳みかけが始まって本編は「STREET LIFE」という壮大なバラードで終わる。そしてアンコールのような南東風はみんなで「考えるな、感じろ」を地で行くように歌って踊って、ハッピーな気持ちで帰路につく……GLAYのライブを追体験するようなアルバム構成という側面も持ってるんですよね。
そういうライブ的な構成然り、最後に南東風を持ってくる事の意味然り、最終的にこのアルバムで感じる事は「GLAY自身がGLAYの1番のリスナーである」ということ。アルバムをコンセプトアルバムとして完成させるよりも、リスナーとしての気持ち良さ、GLAYファンとしての気持ち良さはは一体なんぞやと。「自分が一番GLAYのファンだ!」というようなお言葉はTAKURO御大がよくインタビュー等で仰っていますが、GLAYはメンバーそれぞれが「GLAYにどうあって欲しいのか」みたいなところを、いわゆるファン目線じゃなくてももう普通にメンバー自身が一人のGLAYファンとして、ある種の第三者的な目線で見ているんだろうと。それがこういう作品に繋がっているんでしょうし、そして30周年を迎えた今日まで続くGLAYのそういうスタンスを凝縮したような作品がこの「THE FRUSTRATED」だったように思います。

やっぱりこのアルバムが人生で一番大好きなんですよ。単純に楽曲として好きな曲が多いっていうのもあるんですけど、そういう曲順の妙がGLAYのバンドとしてのルーツやスタンス、そしてライブを追体験できる構成になっている。
今の時代はサブスクで好きに自分だけのベストアルバムが作りやすい時代で、アルバムもどうしても作品集としての趣が強くなってしまっているじゃないですか。かくいう自分もそれの救いを受けて音楽を愉しんだりしてしまっている立場な訳で。ただそんな時代だからこそ、アルバムを1曲目から順番に並んで聴いていく喜び、最後の曲が終わった時に1曲目にうっかり戻ったあの瞬間の歓びを味わえるアルバムだなと。歳を重ねて、改めて好きが増しました。


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