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#129 ありがとう僕らのNo.7



「もし彼がガンバ大阪に戻る瞬間が、青黒のユニフォームに袖を通す瞬間が再び来るとすれば、それは本当に引退を心に決めた瞬間だろう」


多くのガンバファンが、それを口にはせずとも心のどこかではわかっていたと思う。
去年の10月、レンタルとは言えども彼がパナソニックスタジアム吹田を去るという事は、結局はそれを意味していたはずで、少なくとも2021年や2022年に帰ってくる事は正直考えにくかった。



当時のブログにも書いたが、2018年7月に宮本恒靖監督が就任した当初の最初のミッションが残留だったのは確かとして、2019年以降の展望として宮本監督に課されたミッション…言い換えれば、宮本監督がやらなければならなかった仕事の一つが遠藤保仁との別れだったように思う。

阪神タイガースの鳥谷敬の連続出場記録が金本知憲監督の時に止まり、矢野輝弘監督のシーズンを以て退団したのと同じように、「遠藤離れ」に踏み切るには、むしろ監督として有能かどうか以上に、クラブにとって遠藤と匹敵するレジェンドと呼ぶべき人物の時に実行しなければならないという部分はある。引退ならまだしも、それが退団であるならば。遠藤との別れという苦しい過程を経過する上では、そういう人物が監督をしている時ではないと、その余波が全て矢となって降りかかる事になる。


もちろん、ヤットさんに帰ってきてほしかった。それは間違いない。永遠にガンバにいてほしい気持ちはあったし、引退をガンバでしてほしかった気持ちもある。
だが一方で、上記の経緯を見た時に、遠藤が戻るという事はもう一度この苦しみを味わなければならないし、その為の状況をもう一度整えなければならない。

戻ってきてほしい。一方で、戻ってくるべきなのか、戻すべきなのかと言えば…無条件で頷けなかったのが私の正直な感想だった。
レンタル移籍はある意味ではクッションのようなもので、2020年10月2日に走った衝撃を思えば、他のガンバファンもどこかこの発表を落ち着いて受け止めている節もある。


ガンバでそのまま引退をしたレジェンドは実はかなり少ない。それこそ2010年代に入ってからは藤ヶ谷陽介だけだし、それ以前を振り返ってもパッと思い浮かぶのが松波正信、實好礼忠、松代直樹辺りで、多くのレジェンドの引退先はガンバではない。ファン心理として、この事をどこか切なく思う気持ちはわかるし、それは自分もそういう気持ちもあるのは否定しない。

一方で、それをイコール「ガンバはレジェンドとの別れ方がヘタクソ」「誠意がない」と切り捨てるのは少し違う気もする。
ガンバで引退させることが誠意であるならば、より多くの出場機会を望む遠藤本人の意思を尊重し、送り出す事もまた、一つの誠意の形として正しいと私は思う。
今回の遠藤保仁退団に関するプロセスが、クラブとして間違っているか?と聞かれれば、この件に関しては私はそうとは思ってはいない。確かに多くの選手がガンバを離れてから引退しているが、同時にその多くはセカンドキャリアでガンバに戻ってきている。2022年から監督に就任する片野坂知宏監督もそうだし、宮本恒靖前監督もそう。例えばアカデミーのコーチを務める明神智和コーチに対しては、明神が退団した2016年以降、ガンバは常に引退後の彼のポストを用意する姿勢を本人にも伝えていた。最近のガンバフロントは成績も相まって失態が目立つ場面もあるが、レジェンドへの誠意が欠けるクラブだとは別に思っていない。でなければ、OBがここまで引退後に関わりを持ってくれるクラブにはなっていないはずだ。


今回のnoteやメインブログではあえて、遠藤保仁とガンバ大阪の歴史を振り返ろうとは思わない。振り返るには彼がガンバにもたらしたモノは余りに大き過ぎるし、遠藤とはガンバそのもの、ガンバとは遠藤そのものという表現は過言でもなんでもなかっただけに、簡単に書くにはあまりに惜しい。それは遠藤保仁という偉大なる選手が現役を終えた時にゆっくり書こうと思っている。


確かな事は、遠藤保仁これで正式にガンバ大阪の選手ではなくなったという事である。
来年、パナソニックスタジアム吹田にヤットさんは青黒の7番ではなく、サックスブルーの50番として訪れる。
今はただ、感謝以外の言葉はない。敵としてガンバに向かうヤットさんを見たくない気持ちはあるが、その一方で来季への楽しみが増えたような、そんな気持ちも少しある。


あなたがいてくれたから、ガンバファンとして誇らしく、何者にも代え難い楽しい時間を過ごせた。
他のレジェンドがそうだったように、いつか再び、何らかの形でガンバ大阪と巡り合う瞬間に、今は期待を馳せていたい。


ありがとうございました。


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