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労働督戦省の労働不適合者

 AIが労働者を監視して、「問題あり」のラベルが付いた端から「研修」に送り込み「啓発」し、労働生産性を維持する。そんなシステムが導入されて随分経った時代。激化する国際競争の中で、これがなければ我が国は。識者はそう語る。

 セイイチは既に六度研修を受けた。七度目の機会はない。労働不適合者を生かす余裕は今の国にはないのだ。
 屈指の不人気で知られる労働督戦省の職を得た彼は、昼夜と曜日を問わず、かつての同類を研修送りにし続ける。そんな無間の中のある日のこと。

「パパ?」

 自分の娘がどこで働いているのか知らなかったなと、彼は気がついた。そもそも就職していたことさえ。極彩色で憎悪を煽る【研修対象者】ラベルが娘の顔にAR表示。

「お前か。仕事が嫌か?」
「……うん」
「そうか。……そうだな。俺もそうだ」

 セイイチは十数年ぶりに笑うと、労働中断への多重警告表示でフリーズしたARグラスを、驚愕する上司の顔面に拳ごと叩きつけた。

【続く】

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