メモリー・コンフューザーズ
「きみは人の死が見えると?」
「正確に言えば、これから自殺する人の死に様が」
面会室のアクリル越しに語る少女を眺める。この年頃は判断が難しい。彼女は「本物」か?
「前に立っていた人が電車へ飛び込む光景が見えたら、実際に飛び込んでしまったり。クラスメートが……」
人間に嘘の記憶が生まれることは珍しくない。大きなショックの前後なら尚更。時系列の混乱は典型的だ。
「それで今、ロープで首を吊るあなたのイメージが見えているのは、何なんでしょうね?」
冷や汗が垂れる。動揺を抑えろ。私が将来自殺する? バカバカしい。仕事は順調だし、希死念慮などは微塵も、ある。なにが順調だと? ロープを買おう。違う。ロープを――
「試験官の精神負荷が規定値を超えました。中断します」
面会室の少女をモニター越しに注視していた面々から、感嘆と恐れの混ざった唸り声が漏れた。老人が口を開く。
「彼女が居れば、例の特別案件を成功させられるかもしれん」
【続く】
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