宇宙の戦士も腹は減る
前人未到の地球型惑星の地表。おれは幼い日の夢をついに実現して、未知の生物の第一発見者になった。
惜しむらくは、これが夢見た通りの宇宙生物学者としての調査ではなく、いち兵士としての訪問であること。そして感慨を味わう余裕が全く無いことだ。
歪な人面を思わせる細長い頭部に、筋肉質な肉体。蜘蛛のように胴から生える四対の腕、あるいは脚。1.5mを超える体高。人類の感性から言えば、それは紛れもなく異形の怪物だった。
怪物は油断なくしなやかな動きで、じわりと距離を詰めてくる。気圧されたおれが一歩下がった直後、それは勢いよく跳躍した。
「うわあああ!」
咄嗟に後ろに倒れながらレーザーライフルの引き金を引き、デタラメに乱射する。うち一発が運良く頭を貫き、怪物は空中で絶命、おれの目の前に頭から墜落して、グチャリと潰れた。
あまりにも衝撃的なファーストコンタクトだった。部隊の誰もが、異形の死体に嫌悪の籠もった視線を向けている。
その場の微妙な沈黙を打ち破ったのは、隊に同行する科学者だった。
「……ともかく、最初のサンプル確保ですね。負傷者が出なくてよかった」
その言葉を受けた隊の空気は、更に重くなったが。
*
人類が宇宙へ飛び出し幾星霜。戦争も星間規模へと変わったが、不変の原則がひとつある。軍隊は毎日兵数分の食料を必要とする。
【人類連盟】が計画中の大遠征に際して、後方から十分な食料を補給するのは困難。しかし我が軍は近代以前の戦史から、有効な解決策を見出した。
――進軍路上における物資の現地調達。
つまり、我々の任務はこうだ。
「進軍計画の経路上の未踏惑星に先行、食用可能な動植物を調査。遠征軍の食糧補給計画を確立する」
*
「……本当に食うんですか」
「成分自体は無毒ではありますよ」
科学者特有の迂遠な表現を受けて、皆の食欲は更に減退した。眼前にあるのは、言うまでもなく、「ジンメンオオガタクモモドキ」の肉だ。
【続く】
タイトル画像: https://images.nasa.gov/details-PIA17999
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