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「生物多様性」企業開示、金融庁が国内制度の議論加速へ布石/【主要会合傍聴録】サステナブルファイナンス有識者会議第15回会合(2022/12/15)

金融庁は12月15日、サステナブルファイナンス有識者会議の15回目の会合を開きました。同会議は温室効果ガス排出量の削減など気候変動リスク対応策を中心に議論してきましたが、事務局はこの日、生物多様性損失リスクへの対応に関する国際的な議論の動向を紹介し、専門家委員らに意見交換を促しました。来年取りまとめることになる次期報告書において、生物多様性関連の記載内容が拡充される公算が大きくなっています。

「生き物版TCFD」の動向が鍵に

 有識者会議はこれまで報告書を2回取りまとめていますが、生物多様性に関しては従前、代表的な国際的枠組みを注釈などで概略的に紹介するにとどまっていました。今回の会合では、「TCFDの生き物版」とも呼ばれる自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の取り組みを中心に、生物多様性に関する国際的な議論の詳細が取り上げられました。
 
すでに気候変動関連リスクに関する財務情報の開示枠組み作成を主導するTCFDは、主要4項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)を軸としたフレームワークを策定。日本を含む世界各国で、このTCFDフレームワークに基づいた開示制度の整備が進められています。TNFDはこのTCFDフレームワークの基本的な建てつけをベースに据え、生物多様性損失リスクに固有の特殊性を考慮して調整を加える格好で開示枠組みの構築を進めています。22年11月までに3つの試作版(ベータ版)を公表し、23年9月には最終版を公開する予定です。
 
今回の会合では、TNFDのタスクフォースに参加している国内事業者の担当者が、TNFDの取り組みや、22年11月に公表したベータ版ver0.3の内容について説明しました(下にプレゼンの詳細)。また、今後開示を迫られることになる企業サイドの専門家委員からは、生物多様性の問題は気候変動に増して複雑であるとして、統一的な開示制度を構築する難しさを懸念する声も上がりました(後半に発言詳細)。
 
金融庁の担当幹部は、「検討が先行している気候変動と比較しても、この生物多様性、自然関連リスクは様々な事象があり、気候変動のように、大気中の温室効果ガスの濃度とか排出量、単一の指標で還元することができないという特徴がある」と指摘。「それぞれの事象に応じた地域の特性、ロケーションファクターが重要で、気候変動の場合のようなグローバルに共通のシナリオに基づいて分析するといったことも困難であるという特徴もあり、リスクや機会の評価の分析がより一層難しいテーマというふうに考えられる」との認識を示しました。

また、中央銀行、金融当局の世界的ネットワークであるNGFSが今年(22年)3月に取りまとめた生物多様性に関する報告書にも言及しました。気候変動と違い、生物多様性に関するリスクへの対応については、事業者や評価を担当する会社、金融機関が一斉に具体的な行動へと踏み出す段階には程遠い状況といえます。TNFDが準備する開示枠組みの策定を含め、国際的な議論が成熟した段階で国内制度を遅滞なく整備できるよう、今回の会合で当局としてひとつの布石を打った格好です。

(会議で使用された公表資料:https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20221215.html) 

▽TNFDタスクフォースメンバーによるベータ版ver0.3に関する説明のポイント(傍聴メモに基づき速報として紹介。金融庁が後日公表する公式議事録とは表現が異なる場合があります) 

・TNFDについてはマーケット主導型で設立されたものではあるが、すでにG7やG20においてもですねその意義づけというものが明確に支持されている。
・TNFDのアプローチについては、今まさにCOP15で議論になってるような開示の義務化をするのか、任意で進めるのか、それからシングルマテリアリティなのかダブルマテリアリティなのか、ということがジュリスディクションによって色々異なり、どのようなものについても適用可能な柔軟性を持たせるという進め方をしている。
・まだベータ版という状況で、来年23年9月に正式の「バージョン1」というものを出すが、そこまでもオープンイノベーションでマーケットと対話しながら作り上げていく。
・23年6月1日で全てのパイロットテストやベータ版に対するフィードバックを締め切って、9月に向けて完成作業を進めていくという流れ。
・TNFDは開示提言の開発にあたり、基本的にはTCFDの4つの柱をできるだけ踏襲するという形で当初から開催を進めてきている。
・TCFDのレコメンデーションの中で、そのまま基本的にはTNFDに移行できるような部分と、自然の課題に対して改造が必要であるという部分とがある。
・TNFDのベータ0.1、0.2で出したところでは、自然特有の課題、特にそのロケーションベースのアプローチについて、追加した部分もある。
・バージョン0.3では、新たに3つの追加開示項目を加えた。トレーサビリティ、特にビジネスの上流からの原材料・資源等のインプットに関する記述、それからステークホルダー・エンゲージメントに関して、そして気候の戦略と自然の戦略の整合性についてという部分でございます。
・また、ペンディングになっていた、TCFDでいうScope1、2、3と、どの範囲について評価・管理し開示するかというところについては、事業そのもののロケーションとその上流下流という概念を提示した。
・直接の事業、場所、そして上流下流というスコープの概念、それから特にその上流から投入される原材料・資源等のトレーサビリティに関するところ、そして自然の問題に向き合っていくにあたって、その場所場所における生活する人々、先住民、地域住民の権利保有者としての権利を尊重して、ステークホルダー・エンゲージメントを進めていく必要があるということ。
・そして当初から想定している通り、「Climate-Nature Nexus」という観点から、その気候に関する戦略と、自然に関する戦略の整合性について記述するということになっている。
・開示義務なのか、任意なのかとか、それからシングルマテリアルなのか、ダブルマテリアルなのかといったような、ジュリスディクションによって異なる状況を反映できるようにということで、開示のレコメンデーションについてもコア、つまり必須となるものと、それから「enhanced」、増強する部分と、というふうに分類するということを今度のバージョン0.4で出していく予定になっている。この考え方はISSBのグローバルベースと考え方を同じにしていると思う。
・金融セクターについては最初から、そのセクター別ガイダンスが必要だというマーケットの声を受けて、次のバージョン0.3を待たず、先行してガイダンスの開発を進めている。
・今回、金融セクター向けには最後の開示指標のところまで例示を進めている。この開示を進めるにあたってのLEAPアプローチ、ハウツーガイダンスというものも今回、改定した。
・いくつかの点が追加になっておりますが、特に権利保有者とのステークホルダー・エンゲージメントについて今回、強調されている。
・自然関連の影響について、TCFD、カーボンとかGHGの場合、その減らしたものと増やしたもので相殺してそのインパクトを評価するということができるわけだが、自然の場合にはそこを一緒にしてしまうとグリーンウォッシュにつながりかねないということで、ネガティブインパクトとポジティブインパクトを分けて診断するようにということを今回強調している。
・今回のバージョン0.3では依存と影響の評価を、そのビジネスにとってのリスクやオポチュニティに転換するという考え方が示されている。金融向けのセクターガイダンスでは社内的なERMでの評価に使う指標と同時に、最終的に投資家に向けて開示するために業界横断的な指標としてこのようなものがあるのではないかと、今回は例示をした。

参加者発言要旨(TNFD関連抜粋)

(傍聴メモを基に当日参加者の発言要旨を速報として抜粋。本記事ではTNFDとNGFSに関連する質疑応答の部分のみ。当局が後日公表する公式議事録とは表現が異なることがあります)

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